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最強の侵略者2代目・山口翔大選手×Dr.F① ~練習量~

──待望の顔合わせでの対談が実現となって、非常に楽しみです。

Dr.F 山口選手、お忙しい中本当にありがとうございます。私も本当に今日が待ち遠しかったです。

山口 こちらこそありがとうございます。僕もどんなお話が伺えるか、楽しみにしていました。よろしくお願いします。

──そもそもお二人の親交が始まったのは、いつ頃だったのでしょうか?

Dr.F 初めて会ったのは確か2009年頃だったと思います。格闘技医学をテーマにしたイベントを各地で行っている中で、「格闘技の関西まつり」というのを堺市で開催させていただいたんですね。


 そのときに、彼の師匠である南豪宏師範(現・白蓮会館館長代行)がいらっしゃって。南師範というのは現役時代に僕もすごく憧れた選手で、当時他流派として極真会館に挑戦されていた「最強の侵略者」。下突き一発で相手の体を宙に浮かすという場面を初めて見たのは本当に衝撃でした。

 関西祭りに南師範と共に若手時代の山口選手も一緒にいらっしゃったんですが、「俺はここで何かを吸収したいんだ」という意欲が全身に表れていた、そんな印象がありました。また他の参加者の方々にも丁寧に対応されていましたね。

 山口選手のお父さんも、山口選手への愛、カラテ愛がすごい方で、このときの南師範たちとの出会いは、その後の格闘技医学にとっても重要なものになりました。
 
──では山口選手の第一印象は……。
 
Dr.F 「貪欲に学ばれる方」というのものでした。山口選手は当時おいくつでしたか?
 
山口 18歳とかだったと思います。高校を卒業するかしないかという時期ですかね。僕は、皆さんそうだと思うんですけど、しんどい練習が好きじゃないんですよ。

 あのイベントでお話を聞いて、全て科学的な根拠のある説明だったので、「もしかして、これで練習量を減らせるんじゃないか」と思ったんです。南先生は練習の鬼で、僕は先生の元で週6日、毎日何時間も厳しい練習をしていて。

 朝起きたら「今日の夜、練習イヤやな……」という状態から1日が始まって、昼ごはんを食べたら「ああ、もうちょっとで練習や……」、その後も「練習や、練習や、練習や……」と。やっと終わったと思ったら、「また明日も練習や……」という感じだったときに格闘技医学と出会って、10代なりにすごく衝撃を受けたんですよ。

 「これって、もしかしたらもっと効率的に練習できて、練習量を減らせて、もっと強くなれるんじゃないか。いいことしかないよね」と思って。そのイベントで学んだ内容までは具体的には覚えてないんですけど、「もっと賢く練習できるよね」と思えた始まりになったと思います。
 
──実際、練習量を減らすことはできたんですか?
 
山口 まあ、当時は僕も弟子という立場なので、言われたことはやらないといけないので(笑)。でも、その後に自分が独立したり、道場を出して自主的にやるという時期が来たときに、以前よりもすごく効率のいい練習ができるようになったので、その考え方の土台になったのは確実だと思います。
 
Dr.F この話はすごく重要ですよね。1日に8時間とか練習する方、それで結果を出す方というのも、確かにいらっしゃいます。それはそれで凄いことです。

 ただ、「選手生命のどこにピークをもって来て、どれぐらいの期間活躍するか」は、選手によってバラバラなんですよね。だから、今は地方大会優勝だけども、3年後に全日本で優勝するという目標であれば、その3年間に死に物狂いで練習するというのはアリだと思うんです。3年後に優勝して引退するなら。

 でも、5年、10年と選手生活を続けたいという場合には、ダメージがものすごく蓄積することになります。
 
山口 そうですね。
 
Dr.F 私は医学の人間でもあるので、40代中盤でまともに歩けなくなる元有名選手、杖をついて階段を昇るベテラン選手、パンチドランカーで日常生活に支障が出ている元ボクサーなど、「アフター格闘技」の悲しき例をたくさん見てきました。

 競争だから根性も大事なんですけど、それと同じぐらいの比率で自分の体と心を守っていかないと勝てない。その両者のバランスの中で、選手たちは試合をやってるんですが、アフターの話はあまり聞こえてこないので、「とにかくやるんだ!」という論調になりがちなんです。
 
山口 確かにそうですね。特に若い頃は、先のことは考えずにとにかくやり込むことが第一でした。
 
Dr.F 私は山口選手の活躍を、外側からある程度の距離をもって拝見していますが、ターニングポイントごとに見て、そのバランスが非常にいいなと感じるんです。

 とにかく根性で数の練習をこなすのは若手時代にやっていて、そのベースの上に新たな方法も試されていて。だから現役時代がすごく長い。

 空手家として、今度はK-1という新たなフィールドに出て行って活躍されているというのは、一つの考えに固執せず、どんどん新しい考え方を取り入れて「ここはいいけど、ここはもう合わないよね」という風に、すごくクールな目で見つめられているんだと思います。


 
山口 そうですね、とにかく練習がイヤやったのがいい方向に転んだのかなというのがあるんですけど、これで結果が出てなかったら「言い訳して練習から逃げてるだけ」とか「根性論から逃げただけ」と思われがちなんですけど。

 いろんなことが相まって結果につながったので、若い選手たちへの発信力にもつながったと思います。

 結果を出せてなかったら、僕が言っても誰も聞いてくれなかったでしょうし。若い選手への道標という点ではいい形に持っていけたかなと思うので、これからも伝えていけたらと思いますね。
 
Dr.F 練習量を減らしたい、の衝動が、いい方向につながったわけですね。
 
山口 そう思います。
「これ以上練習し続けても強くなれないんじゃないか」「これだけ練習してるのに勝てないのか」と思う時期だったり、同じ相手に同じ負け方をして、成長できず足踏みしているように感じる時期って、誰もが通ると思うんですよ。

 そのたびに「俺、向いてないんかな」とか「もう何やっても無理ちゃうかな」という思いがどうしても頭をよぎるんですけど、そのときに、「いやこれは練習量の問題やないぞ」って考えられたんです。

 走り込みやミットにしても、限界値はあるぞと。しかも年齢が上がるに従って限界値は下がると考えたときに、「こんな練習やってる場合ちゃうぞ」と。そこで勝っちゃってたら若い時期に引退してたと思うんですけど、勝てない時期があったのがよかったなというのはありますね。
 
Dr.F 山口選手が「練習量を減らしたい」と思ったのは、一見、アタマで考えたように見えますが、本当はカラダが悲鳴を上げていたからなんですよね。人間の脳というのは身体から絶え間なく情報を得ているので、「このままやっていたら体が壊れるぞ」というのを察していたんでしょう。

 そのときに古い考え方であれば、「お前は根性が足りない」とか「向いてない」「他の選手はもっとやってるぞ」という方向に持っていかれていた可能性があるんです。

 これは山口選手の言葉を否定するわけではないのですが、格闘技医学を導入することによって、練習量を、逆にいい形で増やせるとも思っていて。
 
山口 え?増やすんですか?
 
Dr.F いい形で、ですね。例えば、どうやったらKOできるのかを学ぶ。KOできる打撃のコース、KOできない打撃のコースの違いを身体で知る。一流選手の戦い方から「型」を見出して、それを修得する。

 そういう時間を組み込めば、身体がダメージを負う練習を減らすことができる。「やらされている」から「自分から向かっていく」にパラダイムが変換されることで、6時間とか8時間の練習が、体感時間としては短くなる。脳も体も「もっとやれる」「もっと強くなれる」に変化していくわけですね。(続く)

ファイト&ライフより

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