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【本には書いていないランニングの知識⑦】酒は適量飲んで、煙草は昔吸っていた人の方が速い?

自分の周囲の速いランナーは、結構お酒を飲む人が多いんです。
そして他に”昔はタバコを吸っていた”というランナーが多いんです。

医師として考えてみると、いずれもあり得ることだなぁと思うんです。
文献も裏付けしてくれています。

それぞれ確認していきたいと思います。

1.飲酒者の方が速い?

そもそもマラソンは、水分や塩分・糖分が枯渇して、爆発的に活性酸素が増加するという、過酷な体内環境と戦いながら走る競技です。
飲酒も、水分や塩分・糖分が不足気味となり、活性酸素も増加するという、過酷な体内環境と戦いながら終電で帰るという所業です。
どこか似ていませんか?

  1-1.飲酒で高くなる可能性!?最大酸素摂取量!

以前のnoteにも書いたように、マラソンの能力に最も影響を及ぼすのは最大酸素摂取量と言われています。
その最大酸素摂取量について、飲酒をしながらトレーニングをして鍛えられるかをみたものがあります。
スペインからの報告で、10週間週2回のHIITを行いながら、週5日間食事の際に飲酒をしてもらいました。男性は昼食と夕食時にBeer330ml、女性は夕食時にBeer330ml飲んでもらい、その後の最大酸素摂取量の変化をみたものです。
 トレーニングに加えてBeerを飲んでも、効果は変わらないとあります。Beerに変えて同アルコール量のウォッカ水を飲んでも変わりませんでした。ひいき目に見ると逆に飲酒していた方がよくも見えます。

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またアメリカの報告では、日常的な飲酒量と最大酸素摂取量の関連をみたものがあります。面白いことに男女ともに適度に飲酒する習慣があった方が、飲酒しないひとよりも最大酸素摂取量が高い傾向にありました。
一日20-30g程度飲酒する人で、最大酸素摂取量が3程度高かったとのこと。これはフルマラソンのタイムでいうと10分以上とのことですから、衝撃ではないでしょうか。
一応これは飲んでいる人が最大酸素摂取量が高かったという結果で、飲むと高くなるということではありません。

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飲酒をしていても、マラソンが速くなる可能性は十分にあるよ!
というのは分かって頂けると思います。

  1-2.筋肉はつきにくくなる

飲酒によるネガティブな影響として、筋肉のつきにくくなることがあげられます。
特にトレーニング後の飲酒は文献が散見されます。
2019年のレビュー論文をみてみると、筋トレの直後に1g/kg(体重60㎏の人ならワイン500ml、ビール1500ml程度)を摂取すると、運動による筋ダメージは飲酒しても変わらないものの、その後のテストステロン値が低下(一部論文は増加もあり)、ステロイドホルモンが増加する傾向にあるようです。その結果、運動後の回復、パフォーマンスに差が出てしまうようです。筋トレの効果は最大30%まで低下するというものもあります。
しっかりとパフォーマンスを高めたいのであれば、運動直後の飲酒は控えた方がよさそうですね。

  1-3.実業団ランナーは飲酒しないのは?

実業団ランナーは飲酒しない!!という意見もあるかもしれません。
ですがそんなエリートランナーは、そもそも練習のみで過酷な体内環境づくりをして、非トレーニング時間は回復にあてるべきなんだと思います。飲酒は筋肉がつきづらくなったり、睡眠バランスが悪化したりという悪い面もありますから。

ただ我々市民ランナーは、そんなに練習をしません。
非トレーニング時間に飲酒をすることで、過酷な体内環境に、より馴化する可能性もあると考えています。

2.元喫煙者の方が速い?

過度な喫煙により呼吸機能は低下します。
それはそうなんですが、軽度の喫煙であればどうなんでしょうか。

喫煙により肺は柔らかくなります。
要は肺のゴムの力が低下するということです。
息を吐く力は落ちるかもしれませんが、逆に吸いやすくなるかもしれません。
ランナーは速く力強く息を吸うために「パワーブリーズ」などを使ってトレーニングをするくらいです。
吸いやすくなるというのが、逆に武器になるかもしれません。

で、文献を確認してみます。

  2-1.軽い喫煙歴なら、運動能力や最大酸素摂取量は高い?

文献は2021年のカナダからのもので、3万人の被検者の喫煙歴と呼吸機能、運動能力を調べたものです。
この文献の趣旨は、喫煙歴が長くなると筋力は落ちないものの、エルゴメーターで測定した最大出力と最大酸素摂取量は減りますよというものです。

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ですが、わずかながらの喫煙歴をもつ人は、逆に高くなっているようにもみえます。
前記の肺の柔らかさとの関連は分かりませんが、肺活量がやや多く、肺拡散能(肺胞レベルでのガス交換能力)が高くなるようです。
文献の趣旨とは異なりますのでエビデンスとは呼べないかもしれませんが、その可能性はあると思われます。

  2-2.現在喫煙している人は、持久力運動に不利?

ですが、喫煙した直後については酸素需要が増すと言われ、ランニングするには不向きと思われます。
約35分持続するとも言われており、現在も日常的に喫煙をしている人は、強いトレーニングができないのではないかと思われます。
なので、今は止めていることが重要だと思います。

  2-3.34歳まで1日10本程度の喫煙歴がよい?

喫煙は体に悪いという考え方が根強くあります。
ですが一般的に34歳までに禁煙をすれば、特に生命予後には影響が出ないのではないかと言われています。結婚を機に、子供が出来たのを機に、社会人になったのを機に喫煙をやめた方はたくさんいます。
そんな方は喫煙で体が老化していない可能性が高いと思われます。

そして前述べたように、箱×年で10未満であれば呼吸機能が上がる可能性があります。

以上から結論を述べると、ランニングに関してでいうと20-30歳ころに1日10本程度喫煙したランナーは、ランニング能力が高い可能性があるのではないかと思っています。
そして、日頃会うマラソン猛者の方たちに、意外と以前喫煙されていた方が多いということに結び付くのではないかなと考えています。

ですが、少ない本数でも脳梗塞のリスクになるという文献も散見され、定かではありません。なのであくまで喫煙を推奨するものではありません。



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