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ラスト・タンバ・イン・九条。そして弔う恐竜の惑星

  先週見た映画のことを、Twitterから再録、増補改訂版で。

5/23
 誰もが一度は通るけど、詳しい事はよくわからない。そこに着眼点を置いた『お葬式』を、午前十時の映画祭で。人の死に対し、真面目にやればやるほど可笑しくなってくる、そんな葬式あるある(ないない)をねっとりと描く。伊丹十三の初監督とは思えない堂々とした感じは数々の俳優&マルチタレントの経験から来るものか。そもそも伊丹万作監督の子息なので、映画を作るという素養はあったのか。移動に長回し、そこいらないんじゃないの? みたいなアクションシーンや濡れ場も含めて、妙なリズム感を醸し出す。

 フェティッシュでゴージャス、凡人はここまで金かけられんよ、と思いつつもいつか自分が喪主になった時は……と思いながら見てしまう。たぶんそんな思いもあってヒットしたのかもしれない。人は知らない世界への好奇心が強いのですそれもいやでもやってくる『死』に関することならなおさら。先週の大霊界しかり、です。

 実際にありそうなエピソードを踏まえつつ、主人公の愛人乱入というファンタジーも。エロいのです、伊丹映画は濡れ場が必ず挿入されてるし、キャラクターも根っからの善人ではない。一見いい夫で父親でも愛人がいるのです。この後『大病人』という伊丹版『大霊界』みたいな映画作ってるし、生徒生へのこだわりは強かったかもしれない。飄々とした俗物主人公に山崎努、そんな夫の全てを見抜いているような妻に宮本信子。終始頭にバンダナを巻いてオシャレな喪主菅井きん、人の言うことにまず否定から入っていく(そういう人いるね)世界一うっとうしい大滝秀治に、寅さんの御前様とは真逆の俗物和尚に笠智衆。40年近く前には、まだ藤原釜足もいたのか、と絶滅動物みたいな書き方ですな。1984秋公開、個人的にはもうすぐ新作ゴジラだ、な季節にとんでもない映画が来てヒットしているな、という印象でした。

『お葬式』は奥村公延を焼くまでの映画、という乱暴な言い方もできる。40年近く前、メディアにアボカドが登場したのはこの映画が初めてではないか。さすが伊丹監督はおしゃれでグルメ。眼鏡等々の小道具もこだわっていて、自らチョイスしたんやろな、と思うのは『マルサの女』のメイキングを見てわかること。バタバタした葬儀の中、怪しい雰囲気を醸し出しつつも実に頼もしい葬儀屋さん、誰かと思えば江戸家猫八でした。

5/25
 いつもの九条シネ・ヌーヴォでいつもの丹波哲郎祭。今日は東映のアクション派、石井輝男と深作欣二の描くタンバさん。もう何度も見たし、最後に見たのは4年前の新世界東映なので、スルーしようかと思ったけど、やっぱり見てしまった『ポルノ時代劇 忘八武士道』。漫画みたいなタンバさんとかGフォースモゲラみたいな逆光の遠藤辰雄とかモミアゲが過剰な伊吹吾郎とかひし美さんとか。

 ポルノ時代劇ってタイトルがキワモノっぽさを招きますが、今風にいえば『丹波哲郎・遊郭編』です。長い刀をぶん回す殺陣のかっこいいこと。女性陣は出演場面の7割が全裸なのですが、そのために陰影を使った撮影がきれいなのです。遠藤辰雄さんが普通にしゃべってたら30分短縮できる映画。


『忘八武士道』は石井輝男監督のこの路線にしては、エログロ控えめ、ひたすらタンバさんの立ち回りを堪能できる映画。最後は丹波オンステージですよ。斬って斬って斬りまくる! 手足や首がゆっくりぴゅーッと飛んでいく。黒鍬者の得物や戦法は『子連れ狼』でも見たなぁ。明日死能、今日を生きる。

 そしてたくさん楽しませてもらった丹波祭のトリを飾るのは『軍旗はためく下に』。戦後26年、戦死ではなく死亡扱い、これでは夫の魂を天皇陛下に悼んでもらえない、と未亡人が同じ舞台の生き残りに真実を聞き出すが、それぞれのいうことが微妙に違っている。勇敢に戦ったのか、敵前逃亡で処刑されたのか、生きるために仲間の肉を食っていたのか……いずれにせよ、戦争によって恐るべき姿に帰られた夫やその仲間の姿が襲い掛かってくる。戦争の悲惨さ、残酷さ。タンバさんは回想シーンのみ登場。回想シーンはモノクロだけど、ショックシーンになるとカラーになるという意地悪な演出。

 現代から過去へ、そして食い違う証言、それでも戦争は恐ろしい。深作欣二監督の戦争への怒りがふつふつと湧き上がってくる。この戦争への怒りが後の『仁義なき戦い』第一作の戦争で生き残ってしまったもの達や『バトル・ロワイヤル』の殺し合いに駆り出される中学生に繋がっていく。
 写真やストップモーションを多用した構成も『仁義なき戦い』に通じる。

 漁師だったタンバさんをも狂わせる戦争の恐怖。実質上の主役はタンバさんの妻左幸子と三谷昇。三谷さんは目ん玉がこぼれるのではというぐらいに目をひん剥いた戦時中の姿と、しょぼくれて世捨て人みたいな姿の現代パートでの演じ分けがすごい。劇中に出てきた『野豚の肉(実は……)』が忘れられず、今日の晩飯は豚トロにします。

 本作品や岡本喜八監督の『肉弾』等々、戦中派の監督は戦争に対する怒りを映画で表していたんですよ、戦争反対。シネ・ヌーヴォの丹波祭、次回があれば『途中からいなくなるタンバ映画』とか『途中から出てくるタンバ映画』でぜひ。記念に丹波プロマイドを。タンバさんは侍とか軍人やるとハマるねぇ。

5/28

 土曜日の午後、ふらりと出かけてふらりと戻ってこれる、このご時世に上映時間90分の『65(シックスティ・ファイブ)』を。このコピー以上の説明は不要、キャストは人間四人に恐竜だけ! アダムドライバーVSスーパーパワーの恐竜軍団。某恐竜映画に足りなかったことをやってくれてるような気がする。

 恐竜時代に現代人が? なぜ? という疑問に対して『よその星から来た人』という至極あっさりとした説明で解決。要するに宇宙人対恐竜の映画なのだ。そりゃ、未開の星に不時着したら、大きなトカゲだらけだったら、問答無用で攻撃しますよ。

 某恐竜パーク映画に欠けていた『悪い恐竜はもれなく殺す』精神が清々しい。悪い恐竜はだいたい肉食、おとなしい草食恐竜なんかほとんど出てこないのもいい。それも最新の学説に基いた恐竜とかではなく、『こんなのいたっけ?』と思うような、オリジナルな恐竜も多数登場。不時着した宇宙戦から脱出艇のr場所までの15キロを、生き残りの少女と共に恐竜殺しながらひたすら歩く、というお話も実にシンプルだし、90分で終わるし、これは去年でいうところの『シャドウ・イン・ザ・クラウド』のポジション。MOVIXの解説も面白い。パンフはキラキラしている。

 面白いんだけど『65』ってタイトルからだと恐竜ものって理解されにくいね。『アダム・ドライバーの恐竜の惑星』とか身も蓋もないタイトルにすればよかったのに。


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