ELVIS


エルヴィス・プレスリーのキャリアを典型的な悪徳マネージャーのパーカー大佐目線強めで描いてみた、というのが第一印象。

最初はパーカー大佐もエルヴィスの才能の煌きに一撃で虜になるんだけど、爆発的に売れていくにつれて、段々と彼を意のままにしようとする。トム・ハンクスが、大佐のエゴを、まるで間近で観てきたかのように全身で表現していて、圧倒された。

エルヴィスも、いつまでも大佐の言いなりになっているわけではなく、1968年のカムバックスペシャルの収録時、プロデューサーとバンドと力を合わせて抵抗する。

大佐と番組スポンサー主導のクリスマス特番のダサダサな演出プランを拒否し、自身の音楽的ポテンシャルをフル稼働して、偶然収録日に暗殺されたロバートケネディや、キング牧師の活動に心うたれた様を見事にオリジナルのプロテストソングに昇華して見せた。この特番はいい意味で大佐の手から離れて自立しようとした最大の成果だった。

オースティンバトラーのエルヴィス憑依っぷりも凄い!やっぱりキングはキングなわけで、チラッと出てくるリトルリチャードや、BBキングやファッツドミノは脇役にしか見えない、エルヴィスの圧倒的なスター性やカリスマ性を見事に再現していた。

ちなみに最近のジャックホワイトも実は出演をオファーされていたのでは?と勘繰るくらいビジュアルや衣装のセンスにエルヴィスの影響が見え隠れしているように感じた。(実際、サントラに参加している)

残された実際のライヴ映像を観ても、ドーナツ、アルコール、ドラックジャンキーのネガティブなイメージが強かったエルヴィスのラスベガスのショー時代。

本作ではステージ上は意識的にエルヴィス目線で描いていて、最初のリハでビシッとオープニングナンバーのヘッドアレンジをバンドメンバーに指示しメンバーが音で呼応していく様が見事だった。改めてラスベガス期のアルバムやライヴを見直したくなった。その点では幾多のエルヴィスの伝記映画とは一線を画していたし、流れがダレない絶妙な選曲や編集も効果的だった。

もしエルヴィスがパーカー大佐の自身の出自をひた隠しに隠す策略とエゴに飲まれずに、ワールドツアーを実現していたら、とか、ジェームスバートンらとがっつりオリジナルをまとめたアルバムを作ったり、50'sのソリッドな足跡を活かしたライヴをつみ重ねてたら、破滅への道に堕ちずに、ロックンロールのキングとしての幸せな晩年を送れていたのかもしれないな、と複雑な気持ちにさせられた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?