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ありがとう、ともだち。

今より少し前のおはなしです。
末っ子が幼稚園卒園間近の、2月のこと。
忘れたくないので、書いておきます。

***

「Nが、ナラにいっちゃうんだって」

末っ子が、幼稚園から帰ってくるなり悲しそうに言った。Nとは、末っ子が年少~年長までずっと同じクラスの友だちの名前だ。

私は一瞬「ナラ」が脳内で変換できず、悩んだ。

ナラナラナラナラなら並習鳴ら奈良…

●もしかして→奈良県

●現在地→北海道

遠いじゃん。


脳内変換が終わり、私もショックを受ける。
もし末っ子の言う『ナラ』が奈良県だとしたら……気軽に会いに行ける距離ではない。
私は念のため最終確認をする。

「いま、奈良って言った?Nは奈良に引っ越しちゃうってこと……?」

末っ子は「そうだよ」とうなずき、ポロポロ涙を流し始めた。

「お別れするの、いやだ」

ナラが奈良かはまだ不明だが、どうやら引っ越しは確定らしい。私は、何と言ったら良いか分からず、末っ子を抱きしめた。

***

末っ子が幼稚園のことを話すときには、必ずNの名前が出てきた。

「Nとブロックであそんだ!」
「Nがひこうきおってくれた!」
「Nがポケモンふりかけもってきた!」

末っ子は、Nのことが大好きで。
私は幼稚園の話を聞くたび、ほっこりした。

Nのママは働いていて忙しく、会えるのは数少ない行事の時くらいだが、会うたびに、お互い「いつも仲良くしてくれてありがとう!」と言い合う関係だった。

Nがナラへ行くと聞いた数日後。
幼稚園に末っ子を迎えに行くと、NとNのママがいた。仕事をやめたので帰りの時間が早くなった、とのことだった。

私は思いきって聞いてみる。

「あの……末っ子に聞いたんだけど、奈良に引っ越ししちゃうって本当?」

「うん、そうなの。夫が転勤になってしまって」

ガーーーン。二度めのショック。
やっぱり、そうか……。
「もしかしたら市内にナラという地域があるのかも?」と淡く期待したりもしたが、んなワケ無いよな、さすがにな。

そしてNのママは続けてこう言った。

「わたし仕事をやめたから、今はずっと家にいるの。自由に時間もとれるし、よかったら今度家に遊びに来ない?」

この言葉を、末っ子は聞き逃さなかった。

「Nのうち、いくーーーーー!!!」

私の脳内に様々な思いが駆け巡る。
誘ってもらえて嬉しい……!いやでも引っ越し準備もあるだろうしご迷惑では?!えっ、ほんとに行ってもいいの?それとも社交辞令?どうしよう?!

私が迷っている隣では、

「いくー!!ぜったい、いくーーー!!」

末っ子が涙目で駄々をこねていた。
そういえば、こんな光景を見るのは、とても久しぶりだなぁと思った。

末っ子が幼稚園年少で入園する直前、新型コロナウイルスにより世界が一変した。
登園自粛となったため、幼稚園に行けない日々が続いた。毎日のように行き来していたのに、友だちの家に行くのも、我が家に呼ぶのも、ためらわれた。会ってもマスクで顔が見えない。一緒におやつも食べられない。幼稚園行事は縮小され、親同士の繋がりも希薄になった。

親はそんな生活に慣れていったけれど、子どもはどうだったんだろう。本当は、友だちと自由に遊びまわりたかったはず。

私は「これがNと思いっきり遊べる最後のチャンスだ!」と思い、Nのお家にお邪魔させていただく事に決めた。

***

久々(約3年ぶり)に親子で友だちのお家にお邪魔するにあたり、私の緊張度は高まった。

友だちの家って、一体何を持っていくんだっけ……?とりあえず手土産がいるか?やばい、好みとか全く知らない。

そんな私をよそに末っ子は

「ねぇねぇ。ほんとにNのうちいく?」
「いついく?」
「いまいく?」
「あしたいく?」
「ねぇまだいかないの?」

楽しみ度ウルトラMAXめちゃくちゃしつけぇ


しかも私は、Nのママからの言葉も気になっていた。

「うち、大きい犬を飼ってて。人が好きすぎるから、はしゃいじゃうかもしれない。でも絶対噛んだりしないから!末っ子くんは、大きい犬が寄ってきても平気かなぁ……?」

うちは動物を飼った事がないので正直未知の領域である。外でお散歩中のワンちゃんに手を振ったりするので、嫌いでは無いと思うが……どうか、ワンちゃんを近くで見て泣きませんように。

しかし今更ごちゃごちゃ考えてもどうしようもない。私はスーパーで末っ子に、Nと一緒に食べたいお菓子とジュースを選ばせ、Nのお家へと臨む事にした。

N家へ到着し、インターホンを鳴らすと

「ワン!!ワンワンワンワンワン!」

大きなゴールデンレトリバーが、ものすごい勢いで歓迎してくれた。玄関で私たち親子のまわりをグルグル回り、体をすりすり寄せてくる。
末っ子は、その勢いに圧倒されて、即行で泣いた。

「わぁーー!!ごめんねごめんね。リリ!吠えるのはダメでしょ!!」

リリと呼ばれたワンちゃんは、Nのママに怒られてもなお、私たちの周りを離れない。
もふっ!としっかりした毛の感触。体温が感じられて気持ちが良い。私が体を撫でると、リリちゃんは満足そうに離れていった。

末っ子は玄関でしばらくメソメソしていて、「帰る」と言い出すのではないかと心配したが、Nがサッと末っ子の手を引いてくれて、無事にお家にお邪魔することができた。

Nの家のリビングに入るなり靴下をぬぎ、ホーム全開の末っ子。すごいな。遠慮とか知らないのかな。ってコラコラコラ。
私は、末っ子がNに案内されて自分の靴下をNの家の洗濯カゴに入れようとするのを必死で阻止した。
そうだった。幼稚園児ってこんな感じだった。何をし始めるか予測できない。

「うちは何をしても大丈夫だから、末っ子くんのママはこっちに座って!」

Nのママが本当に嬉しそうに笑ってくれて、それだけが救いだった。

Nは、まずお気に入りのおもちゃを末っ子に見せてくれて、末っ子も目を輝かせながら遊んだ。ちょーかわいい。

子どもたちの様子を時々見ながら、私とNのママは幼稚園3年間の思い出話に花が咲いた。Nのママとゆっくり話したのは初めてだったけれど、とても心地が良かった。NとNのママの事を、もっと知りたいなぁと思った。

そんな癒し空間の中、「ねーねー!これやりたーい!」と言いながらNと末っ子が持ってきたもの。それは、

人生ゲーム。

なぜか4人で人生ゲームをする事になった。実は末っ子も私も初の人生ゲームであった。私が「わからないのでルール教えて~」と言うと、いつもおっとり&ゆったりしているNのママがテキパキと人生ゲームを仕切ってくれた。意外な一面。これぞギャップ萌えである。

みんなでワーワー言いながら盛り上がったが、そのうち幼稚園児2人が飽きたので人生ゲームはお開きとなった。

そのうちNと末っ子は、リリちゃんと追いかけっこをして遊び始めた。始めは泣いていた末っ子もキャッキャと笑い、帰り際にリリちゃんをブラッシングをして撫でるまでになっていた。

ああ、たのしいな。たのしい。
やっぱり、人と心が繋がるのは楽しい。
気付いたら末っ子より私の方が楽しんでいた。

Nのお家はとても居心地が良く、なぜもっと早くから積極的に仲良くなろうとしなかったんだろう……と思った。もったいなかったな。出会いは一期一会なんだ、と改めて痛感した日だった。

***

Nが奈良へ出発する朝、末っ子と私はNのお家までお見送りに行った。

末っ子は初っぱなからポロポロ泣いていて、ずーっと悲しい顔をしていたら、Nが末っ子をギュッと抱きしめてくれて。

たくさん写真を撮って、「夏休みになったら実家に帰省するから、連絡するね!」と約束をしてもらいました。
夏にまた会えるのを楽しみにしています。

ありがとう、ともだち。
たくさん仲良くしてくれて、ありがとう。
遠くに引っ越しても、どうか笑顔でいてください。

たくさん思い出をありがとう。

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