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情報デザインコース卒業研究制作 | インタビュー第2弾 | 佐藤 萌香さん

みなさん、こんにちは!
多摩美術大学情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展2024 - From: To:広報部門です。

今回のnoteは、卒業研究制作展参加者へのインタビュー記事の第2弾です。
これから約2週間にわたって全9名のインタビューをお届けしていきます!
彼らがどのような想いを持って今までの制作をしてきたのか、記事を通じて皆様にお届けできたらと思います。

第2弾は「デザイニング・エモーションゼミ」に所属する佐藤 萌香さんのインタビューをご紹介します。


インタビュイー紹介

佐藤 萌香 / SATO MOEKA
多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース4年
デザイニング・エモーションゼミ(主査:宮崎 光弘教授)所属

普段は主に、どんなもの・ことを制作していますか?

佐藤:パッケージやポスター、ビラなどの紙媒体の広報物を制作することが多いです。

どんな分野に興味がありますか?

佐藤:江戸〜昭和初期時代の看板・パッケージのデザインが好きで、当時の大衆文化に興味を持っています。

卒業研究制作作品について

誰に届けたい作品ですか?

どんな作品ですか?

佐藤:看板のモチーフ「蘭字」とは、明治時代から昭和初期にかけて、日本から海外へ輸出する茶箱に貼られていたラベルのことです。蘭字はアルファベットのみで構成されているのに、どこか日本的な印象があり、和洋折衷の魅力を持ちます。その特徴を活かして観光地などでよく見かける多言語対応看板をデザインし、歴史的な景観と調和する看板を制作しました。

現在は、日本茶の主要輸出港として蘭字と共に発展した静岡県清水港周辺に設置することを目標に進めています。展示の際は清水港の風景のパネルに看板を貼りつけ、清水港に看板を置いた情景を再現しました。また、蘭字についての歴史や当時の制作プロセスをまとめたリーフレットを制作し、配布しました。

作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

佐藤:卒業制作に取り掛かる際に、私の好きな明治~昭和のデザインを見返すと、「和洋折衷」の魅力があるものに惹かれているのだと気がつきました。それだけでなく、ただの西洋の模倣にとどまらないオリジナルの魅力や、当時の日本人が抱いた真新しい西洋文化に対する憧れ、そしてそれを吸収したいという熱量を感じます。明治維新の開国時に遡って、日本が日本をパッケージ化するはじめの一歩のデザインを見れば、よりオリジナリティ溢れるものが見られるのではと考え、輸出用茶箱に貼られていたラベル「蘭字」に着目しました。

蘭字は外国商館から発注を受けた浮世絵工房の職人によって制作されていました。 その工程はツールが違うだけで、150年後の今日のクライアントとデザイン制作現場のやり取りと変わっていません。

そこで、歴史において重要な存在であるはずなのに、なぜあまり知られていないのだろう?と疑問を持ちました。輸出用のため、日本人が目にする機会が少なかったから、取引情報の漏えいを防ぐために隠されていたからなど、さまざまな理由が考えられますが、一番の要因はラベルという消費財だからではないでしょうか。

リサーチを進めていくと、蘭字が貼られた茶箱が輸出先の店頭に置かれ、「日本茶を取り扱う店」だと伝える看板の役割を兼ねていたことがわかりました。そしてもしも蘭字が看板だったら、街並みの一部として長く親しまれる存在になっていたかも...…。と思い、蘭字看板のアイデアを思いつきました。

また、蘭字はアルファベットのみで構成されているのに、どこか日本的な印象があり、和洋折衷の魅力を持ちます。この特徴を活かして、観光地などでよく見かける多言語対応看板をデザインし、歴史的な景観と調和する看板を制作しました。

現在は、この看板を日本茶の主要輸出港として蘭字と共に発展した静岡県清水港周辺に設置することを目標に進めています。

展示では清水港の風景のパネルに看板を貼りつけ、港に看板を置いた情景を再現しました。また、蘭字についての歴史や当時の制作プロセスをまとめたリーフレットを制作し、配布しました。

制作過程を教えてください。

佐藤:蘭字職人は極薄手の紙に蘭字を刷って茶箱に貼り付け、上から油を塗ることで紙を透かして茶箱に直接印刷したかのように仕上げていました。なので看板は当時の製法と同じように、板に薄和紙を貼る方向性を模索していました。切り出したパーツに絵の具をつけ、スタンプの要領で和紙に押すことで浮世絵と同じ木版多色刷りの質感を再現しました。

当時の職人は絵師、刷師、彫師のチームワークで進めることができていたのですが、私はひとり短期間で多くのデザインを完成させなければいけません。これではデザインのクオリティも上げづらいので、間に合わない! と途方に暮れてしまいました。

そこで一旦原点に立ち返ろうと図書館から取り寄せた論文を読んでいると、昭和初期以降の蘭字はオフセット印刷によって生産されていたことが分かりました。浮世絵師によって制作されていた時代で私の認識が止まっていただけで、蘭字の印刷方法は時代に合わせて進化していたんです。ならば、今回も木版多色刷りに固執せず、現代技術を活用するべきではないか? と思い、UVプリンターで和紙に印刷することにしました。

さまざまな厚さの和紙で実験し、PhotoshopやIllustratorでテクスチャや揺らぎを加えることで、蘭字の質感を再現しました。最終的にぼかしを加えて反転させたデータを半紙に印刷し、裏返すことでインクが紙に染み込んだような質感を出すことができました。

最後に印刷した紙を水で薄めた澱粉のりで板に貼り付け、金部分のみアクリル絵の具で着彩しました。

制作を通して気づいたことを教えてください。

佐藤:これまでパッケージやリーフレットなどの紙の印刷物が好きで制作していました。でも、すぐに使い捨てられてしまうということにどうしても後ろめたさを感じていました。しかし無名のデザイナーが命をかけて作ったラベルが百年後にも大切に残されているということを卒業制作を通して感じ、その事実がものづくりをして生きていこうとしている私を奮い立たせました。蘭字のように役目を終えた後も魅力的に感じられるような看板や印刷物を作り続けたいです。

今後の活動や進路について教えてください。

佐藤:四月から三年間、岩手県一関市の「地域おこし協力隊」として活動します。

地域おこし協力隊とは、都市地域から過疎地域などの条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PRなどの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。具体的な活動内容や条件は各自治体により様々で、私の着任する岩手県一関市の東山地区では、和紙や地元のお土産品の魅力を引き出すための活動に取り組みます。東山地区では伝統工芸品である東山和紙を製作する後継者が不足し、現在では七十代の職人たった二人になってしまいました。そのような背景から、物産振興や後継者が増えるような取り組みを行うため、地域おこし協力隊として着任することになりました。

(インタビュー・編集:中野 梨杏・佐藤 萌香・パク ミスン、画像提供:佐藤 萌香)


インタビュー第2弾、いかがでしたでしょうか。
本卒業研究作品は多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展に展示されております。
記事だけには載せきれない、実際に見るからこそ伝わる魅力がある作品がたくさんありますので、みなさまもぜひ会場にお越しください!

第3弾は、「エンタテイメントとデザインゼミ」に所属する里 学樹さんのインタビューをお届けします。次回もお楽しみに!

多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展2024 - From: To:

会期
3月8日(金)- 3月10日(日)10:00 - 19:00

場所
〒141-0022 東京都品川区東五反田5丁目25−19
東京デザインセンターガレリアホールB1&B2

アクセス
JR山手線五反田駅東口より徒歩2分
都営浅草線五反田駅A7出口正面
東急池上線五反田駅より徒歩3分

詳細多摩美術大学 情報デザイン学科情報デザインコース 卒業研究制作展2024 - From: To:公式サイト


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