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つま先にラズベリー色のご機嫌

娘の友だち一家が遊びにきたときのこと。みなでたこ焼きをつくり、ピザを焼き、ワインの空瓶が並びだしたころ、娘が突然「ネイル塗る!」と、わたしのネイルが入った箱を引っ張り出してきた。

「えー、明日から新学期やのに?」「足だから見えないし、だいじょうぶだよ!」
「◯○ちゃん遊びにきてるのに、いまじゃなくて良くない?」「えっなんでダメなの?」

娘はやりたい!と思ったら止まれないふしがある。この日も、みんなのおしゃべりをよそに、がちゃがちゃと物色したあと、わたしがいちばんお気に入りの(そして残り少ない)一本を選んで塗り始めた。

「わーこぼした!テーブルについた!」
「えーちょっと〜、ちゃんと拭いてよー」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。オッケオッケー!」

「オッケオッケーじゃないよまったく……」と眉根を寄せるわたしに、友だちが言った。
「娘ちゃん、自分が機嫌よく楽しい気持ちになる方法をちゃんと自分で見つけているってすごいね。しかも、誰かを傷つけたり迷惑をかけたりしない、安全な方法で。こぼしてもちゃんと困りごとを大人に伝えて、自分で拭くこともできて、ほんとにマルだと思う」

出かかっていたことばが、喉の奥へぐっと引っ込んだ。狭いこころで見れば、明日から学校が始まるうえにサンダルを履くわけでもない、友だちが遊びに来ているいまのタイミングで? と思うし、しかも、こぼしたシミは取れそうにない。

しかし、ひとつ視点を変えればこんなふうにわたしの気持ちは軽くなれる。変わるのはいつだって、娘ではなく、わたしのほうなのだ。

娘はご機嫌な様子で、何度もラズベリー色のつま先を眺めていた。自分が楽しむ術を知っている。なんと軽やかで、楽しそうな生きかただろうか。

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