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クイーンズ駅伝:資生堂の圧勝劇を生み出した1区木村選手の鬼気迫る飛び出し

1区で試合が決まってしまいました。
プレビューで書いた通り、一山さん加入でエース級だらけになった資生堂が大本命だった訳です。

そんな中で、1区で木村選手が独走で大差を付けてしまうと、もう1区で圧倒的に有利になってしまう訳です。同じくらいで行って、3区新谷さんで積水が差をつけても資生堂は4区5区で追いつけるんじゃないか、というのがレース前の予想だったので。実質的にレースの流れを決定つけてしまった木村選手の激走でした。

オーダー発表から予想されたレース展開

プレビューは上記の通りとして、区間エントリーは前日に発表されました。そこから予想されるレースについては、TBS公式noteで寺田さんが展望記事を書いていました。

3区新谷さんで、積水がどれくらいの差がつけられるのか、というのがレース前の焦点でした。

1区:豪華な顔ぶれの中、木村さんが独走!

あと、スターツの上杉選手も居ましたね。有力チームでは、郵政がルーキー和田選手。名城大のエースでしたが、社会人の中ではどこまでやれるか。パナソニックはここにプリンセス駅伝で3区だった中村選手、天満屋は去年6区区間賞の渡邊選手と、エース級を投入して遅れないように、とのことでした。
レースは木村さんがいきなり飛び出し、強い向かい風が吹く中、最初の1キロを3分ちょうどくらいのハイペースで突っ込みます。当然、このペースには誰も付けず、ただ去年区間賞の岡本さんと注目の田中さんが少し離れて追いかけていきます。それ以外の人たちは集団で、その集団をダイハツ松田さんと積水佐藤さんが引っ張ります。木村さんは強い向かい風に苦しみペースが落ちかける時もありましたが、鬼気迫る走りで最後まで押し切り、区間記録近くのタイムで走り切ってしまいます。隙あらば追い抜こうと虎視眈々とこちらもハイペースで追いかけていた岡本さんと田中さんを20秒以上、その後ろの集団を40秒以上引き離してしまいました。
2位は田中さん。駅伝は苦手とかコメントしていましたが、さすがの走りで豊田自動織機のシード入りに流れを作りました。岡本さんも去年のクイーンズ、東日本駅伝と1区での好走が続いています。ぼちぼちエース区間抜擢もありそう。
後ろの集団では、エディオンの萩谷さんが抜け出して4位。去年の転倒、プリンセス駅伝でのブレーキと、駅伝ではトラブル続きでしたが、払拭する走りだったでしょう。集団をずっと引っ張った松田さんが5位。ここはさすがですが、資生堂とは差がついてしまいましたし、ここで松田さんを使ったのはもったいなかったですね。(1区予定の大森さん発熱で急遽の区間変更だったそうです。)6位は郵政の和田さんで、社会人でも立派に通用してみせました。先輩の加世田さんも伸びていますし、和田さんも楽しみですね。
積水佐藤さんは9位と、悪くはなかったのですが、資生堂との差は50秒も空いてしまいました。エース格の佐藤さんを置いてのこの差は誤算だったでしょう。あと佐藤さん自身も調子もイマイチだったでしょう。調子が良ければエース区間を走っていたはずですので、1区に回ってきた段階で、ハイペースを追いかけるのは厳しかったのかもしれません。
有力チームでは、ユニバーサルは7位、九電工は8位と集団の流れの中で渡せたのですが、第一生命が12位、パナソニックが13位、天満屋が15位と集団から遅れた苦しい位置からのスタートとなってしまいました。

2区:区間賞が4人の接戦

2区は区間賞が4人の大接戦でした。トップで受け取った資生堂佐藤さんは、快調に逃げて差を保ちます。去年はここで差を詰められたのですが、区間賞で差を詰められなかったのが、レースの流れをさらに決定づけたと言えるでしょう。
去年区間賞だった積水卜部さんも区間賞で、さすがの走りではあったのですが、差を詰められなかったのが大きかったですね。郵政の太田選手も同タイムの区間賞で、廣中選手に新谷選手の少し前で渡す事ができました。廣中選手と新谷選手の実力差はほとんどなかったようですので、ここでの流れは大きかったように思います。
また、パナソニックの内藤さんも同タイムの区間賞とさすがの走りで9位まで順位を押し上げます。結果論ですが、パナソニックは1区と2区は逆の方が良かったかもしれないですね。でも久しぶりのシードへ流れを引き戻す快走でした。

3区:エースの対決

3区のエース対決は面白かったですね。駅伝に非常に強い廣中選手と1万m日本記録保持者の新谷選手がほぼ同じくらいでスタート。正に直接対決の構図になりました。
新谷選手は10キロ程の距離では日本ではダントツに速く、ベストは30分台前半と、他のトップ級の選手よりも1分程速いです。ただ、廣中選手も若手ホープで進境著しく、今年30分台の歴代2位の記録を出しています。つまり廣中選手も新谷選手を除けばダントツで速い選手で、正に日本の女子長距離の頂上対決な訳です。
レースは3秒遅れでスタートした新谷選手がすぐに追いつき、そこにダイハツの加世田選手がくらいついたのも良かったですね。(加世田選手については後述)ただ、2キロ過ぎくらいから新谷選手が少しずつ遅れ始めます。身体が思うように動かず、廣中選手のハイペースについていけなかったようです。廣中選手は加世田選手も振り切り、2位争いの豊田自動織機とヤマダ電気を追い抜いて、さらに前を追います。一方、新谷選手も立て直し、加世田選手を抜き返し、豊田・ヤマダを追い抜いて、廣中選手との差をじわじわと縮めてきます。
残り3キロで廣中選手が先頭を捉えます。その5メートルほど後ろにまで新谷選手が迫っています。ただ、ここで一山選手が意地を見せ、廣中選手に食らいつき、1キロほど粘ります。廣中選手が一山選手を振り切った所で新谷選手が追いつき、前に出ます。でも廣中選手も一歩も引かず並びかけ、激しく競り合います。この日本トップの2人によるデットヒートは見応えありました。最後、廣中選手が見事なラストスパートを見せて先着します。格上とも言える新谷選手に一歩も引かず常に前に前にと出て最後には先着したのは廣中選手の大きな成長と言えるでしょう。
新谷選手は本調子ではなかったようで、前半は身体が思うように動かず、
一山選手は、日本でダントツに速い2人が追いかけて抜かされた中、食い下がって粘りトップと12秒差で繋ぎました。この粘りが大きくて、勝負の綾というものの最後がここだったと思います。2人に抜かれてそのままずるずる差を付けられると、いくら後ろの選手が強くても流れが悪くなって力を出しきれない事はままあります。射程内に留めた事で、資生堂優勝の確率がさらに上がったと言えるでしょう。
また、健闘したのが加世田選手。加世田選手は名城大では1年からエース区間を担い、名城大4連覇の立役者となった大学トップ選手でしたが、実業団ではルーキーの昨年は3区で区間10位と、頑張ったとは言え実業団のレベルに跳ね返されたとも言える結果でした。しかし、その後成長し、マラソンで好タイムを出して実業団でもトップレベルまで成長しました。今回もその自信を元に、廣中選手新谷選手に食い下がり、引き離されても粘って区間3位と成長を見せました。
あと、特筆しておきたいのは、第一生命の小海選手。プリンセス駅伝で激走して成長を見せていましたが、このレベルの高いクイーンズ駅伝のエース区間で区間4位! 遅れていた第一生命をシード権内に引き上げました。まだ日本選手権などでの活躍はみられていませんが、いずれこの選手も日本トップレベルの舞台での活躍が期待されます。

4区:インターナショナル区間の妙

4区は2番目に距離が短く(最短は2区)、前半の流れを作る区間でもない、エース区間に挟まれた短い区間で、クイーンズ駅伝では最も重要度の低い区間です。また、外国籍の選手の出走が認められている「インターナショナル区間」でもあります。そうすると、外国人選手の居ないチームでは、チームの6番手の選手が走り、外国人選手が居るチームは外国人選手が走る事になります。外国人選手はチームの助っ人として雇われている選手なので(ここで綺麗事を言っても仕方ないでしょう)、日本トップの選手くらいの実力はあります。
つまり、この区間を走る外国人選手と日本人選手とでは、どうしても実力差が出る事になります。実際、今回のこの区間も出走した外国人選手が上位9位までを占めました。つまり上位が外国人選手、下位が日本人選手と完全に分かれた訳です。
ただ、外国人選手に頼るのは、今までは「弱者の兵法」だったんです。日本トップクラスのエースがいないチームが手っ取り早く強化する手段として使われていました。(それで、陸連としては安易に頼って日本人選手を育てないチームに勝たれると日本人選手の強化に役立たないから出走する区間を制限している訳です。4区なら、エース区間での差の方がずっと大きく全体への影響は小さいので。)それが、資生堂のような「今年の日本代表が二人いるチーム」に外国人選手がいると、どうなるか。
資生堂と積水化学、日本郵政との差は、この区間だけで50秒前後ついてしまいました。ここで勝負アリ、という差がついてしまう訳です。そして、それは予想された事だったので、3区で差が開かなかった事が大きかった訳ですね。

5区:かつてのエースの復活劇

資生堂は、チームで一番強い選手を5区に残していました。
駅伝のセオリーは先手必勝。前半で前の方にいた方が後半の選手が力を出しやすいので、前半に強い選手を置くのが普通です。後半に強い選手を置いても前半で遅れると後半の強い選手が悪い流れに飲まれて力を出しきれないからです。また、長い距離の方が差が大きくなるので強い選手が長い距離の区間を走る事になります。なので、距離の長い3区と5区がエース区間ですが、3区の方が前半で距離もより長いので、普通は一番強い選手を3区に置きます。ただ、資生堂の五島選手は去年のクイーンズ駅伝の区間賞を自信として日本代表まで上り詰めた選手で、まだトップレベルの経験は少ないため、去年と同じ区間の方が自信を持って走れるだろうという配慮で5区に配置されたのでしょう。もちろん、一山選手加入で3区にもそれほど力の変わらない選手を置けるというのもあったでしょうが、一般的なセオリーには反しています。積水や郵政に勝機があるとすれば、その紛れにこそあった訳で、一番強い選手を温存したために3区での差が大きくなり、後半の強い選手が宝の持ち腐れになる可能性はありました。実際、去年トップと1分差でもらった4区ジュディ選手はオーバーペースで入ってしまって後半バテて、差をあまり詰められませんでした。(だからこそ、その可能性を消した1区木村選手の独走が価値あったのです。)
なので、独走で五島選手に渡った時点で勝負あり、でした。実際、五島選手はダントツの区間賞で差をさらに広げ、事故でも起こらない限り負けないほどの大差になりました。

この区間では、復活を期するかつてのエース達が何人も走っていました。鍋島選手は怪我で走れない期間に環境を変えようと積水化学に移籍し、復活への道を探っていました。この秋、少しずつレースに復帰していましたが、さすがにエース区間を走るとは思っていませんでした。全盛期ほどではなかったですが、終盤に2位に上がったところは日本選手権で勝った頃の勝負強さを彷彿とさせました。
郵政の鈴木選手は、東京五輪から不調に陥り、去年のクイーンズ駅伝では珍しくブレーキを起こしてしまいました。しかしその後、今年のベルリンマラソンで自己記録を更新、復調して迎えたこの駅伝でした。ただ、まだトップフォームではなかったですね。かつての同僚鍋島選手に抜かれて順位を落としてしまいました。
ダイハツの前田彩里選手がこの区間に来たのもびっくりしました。かつてのマラソン日本代表も長く故障で苦しみ、東京五輪前に少し復活してMGC出場権を取りましたがMGCも欠場。その後、出産を経ての復帰という事で、駅伝は久しぶりのはずです。それがいきなりのエース区間。しかし、さすがにかつて区間賞を取った頃の走りはできなかったものの、区間6位タイで、上位争いをしているチームでしっかり役目を果たしました。

6区:白熱のシード争い

優勝争いは大差がついていて、事故でも起こらない限り逆転できない状態で6区をスタートしますが、資生堂高島選手は流れに乗って区間2位でゴール。資生堂は区間順位が1位ー1位ー7位ー1位ー1位ー2位。ハイレベルだった3区(それでも区間7位とまずます)以外、区間賞4つと区間2位と完璧なレースで制しました。
積水化学はアンカー佐々木選手が区間賞で締め、区間順位が9位ー1位ー1位ー13位ー4位ー1位と大きなミスなく繋ぎました。ただ資生堂との差は、1区4区が大きかったです。4区はインターナショナル区間でしょうがないので、やっぱり1区木村さんにやられた形ですね。
3位は日本郵政。ここまでは前評判通りでしたね。区間順位は6位ー1位ー2位ー11位ー6位ー6位。5区鈴木選手がトップフォームならもうちょっと戦えたでしょうか。
4位はプリンセス駅伝で奮わなかったエディオンが立て直してきました。萩谷さんが復調して1区集団を抜け出しての4位と流れを作ったのが大きかった。その流れを利用して中盤区間を踏ん張って5区エースの細田選手に繋ぎました。細田選手はマラソン明けで無理させずに3区でなく5区という事で、3区を区間9位で踏ん張った西田選手がプリンセス駅伝に続きチームを救ったと思います。シード権初めてというのはちょっと意外。好選手は揃っています。
5区はダイハツ。大森選手が回避というピンチにエース松田選手が1区に回り、代わりにエース区間を埋めた前田選手の奮闘で今年もシードを確保しました。加世田選手の成長もあるので、加世田ー松田の両エースは強力です。前田選手がこれだけ走れるなら大森選手が復帰すると来年以降かなり楽しみです。
6位に豊田自動織機。田中選手1区2位の流れを利用し、前半ずっと前の方で戦えたのが功を奏した形です。やっぱり駅伝は先手必勝ですね。
7位はパナソニックがシード復帰。1区は出遅れましたが2区内藤選手区間賞で立て直し、渡邊選手が3区区間5位とさすがの走りでシード圏内の流れに乗せて堅実に繋ぎました。エース堀選手不在でこれだけやれたので、堀選手が復活すると、また上位争いできるでしょう。

ここまでは無風のシード権争いでしたが、8位争いは激烈。5区終了時で8位九電工と9位第一生命の差は28秒。少し差があったのですが、第一生命櫻川選手が猛烈に追い上げ、残り1キロ追いつき、逆転。わずか5秒差での決着でした。
第一生命は区間順位が12位ー13位ー4位ー20位ー10位ー7位、一方 九電工の区間順位は8位ー8位ー11位ー7位ー15位ー18位。インターナショナル区間での差をアンカーでひっくり返した形でしょうか。チームの層の厚さが第一生命が上回ったと言えそうです。

移籍で大きく勢力地図が変わる

去年とはシードチームの顔ぶれが大きく変わりました。昨年11位のエディオン、昨年16位の豊田自動織機、昨年25位のパナソニック、昨年13位の第一生命がシード権を獲得し、昨年3位のデンソーが22位、昨年6位のヤマダが12位、昨年7位のユニバーサルが11位、昨年8位のワコールが17位に沈みました。シード権を失ったチームでは、デンソーが矢田選手、松田選手が移籍したりして選手がごっそり入れ替わり、大きく戦力低下していました。ワコールもエースの一山選手が移籍、一緒に監督まで移籍してしまって大黒柱が抜けた形でした。他にも、もともと怪我で走れなかったとは言えトップ選手の鍋島選手が日本郵政から積水化学に移籍しています。エディオンは矢田選手がデンソーから加入、エース細田選手も元々はダイハツの選手でした。こういった移籍によって勢力分布が大きく変わる、というのが如実に出たレースだったな、というのが感想です。
(自由に移籍できるようになって風通しは良くなっていると思います。)
そういう意味では、来年どうなるかは全く分からないですね。有力選手の移籍、大きな怪我、怪我からの復帰、また去年の五島選手や今年の加世田選手や小海選手のように大きく成長する選手もいるでしょう。
今回活躍した選手たち(不本意だった選手たちも)が世界の舞台で活躍してほしいな、と思います。

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