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スキマ時間

 「もう戻って来ないかと思っていました」
急に見知らぬご婦人から声をかけられたのは、なかなか順番が来ない眼科の待ち時間に、一旦外へ出て1時間後に戻ってきた時だった。

 予約した時刻に眼科に行き、2時間かけて視力検査や眼底検査、視野検査が終わり、次はやっと診察で終わりだと思ったら、看護師が「先生の診察は8番目になります」と言う。 
 「1時間くらいかかりますか?」と聞くと「患者さんによってはお話が長くなる方がいますので、1時間くらいかかるかもしれません」と言う。それで、「1回出て戻ります」と受付で伝え、さっと眼科を出て近くのデパートへ行った。
 残業続きで、会社帰りに寄り道もできなかったので、化粧品売り場で必要な化粧品を買い、眼科に戻ったところだった。

「待ち時間が長かったので抜けただけです。検査だけして、先生の診察を受けなければ意味がないですから」と私が答えると、「急に話しかけてすみません。今日は予約なしで来たのですが、待ち時間が長くて、わたしも途中で帰ろうかと思いました。ただ、白内障かもしれないので、また出直すのも大変だし最後まで待ちます」と言う。聞けば、私より50分ほど前から眼科にいたそうで、予約の患者さんが優先のため最後の診察になるという。

 私は上手に時間を遣いたいので、この日は文庫本を1冊持っていて、待ち時間にそれを読み終えてしまった。この眼科では待たされると経験済みで、前回の定期検診でも、途中で待ち時間にカフェに行って戻ってきても、まだ診察まで時間があった。今回も、まず検査までに時間がかかるだろうから、待ち時間が長過ぎたら抜けようと最初から決めていた。

 東京では、あまり知らない人に話しかけられることが少ないから、彼女はよっぽど待つのに疲れて誰かと話したくなったんだろうか。最近はあまり気にしていなかったけど、人は見ているものだな、と思った眼科での隙間時間だった。

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