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【百線一抄】016■昭和の故郷へ帰ろうぞー若桜鉄道

単に時間を重ねていくだけでは成り立たない。しかし、時間を単に
蓄積し続けることが実はかけがえのないことだと示す路線がある。
若桜と因美線の郡家を結ぶ、若桜鉄道である。開業は昭和初期で、
かれこれ90年の歴史を歩んできた。明治期や大正期から百年の遍
歴を誇る面々には及ばないが、現地の取り組みは結構、侮れない。

いま目の前にあるもの、それはいつかかたちを変える。壊れたり、
直したり、付け加えたり、取り替えたり。何もせず放置してしまえ
ば、埃もたまるし色も褪せる。そして役を果たせなくなると、体裁
のいい新しいものが持ち込まれ、古いものは捨てられる。手入れの
やりやすいものを世の中が求めてきたのだから、当然の理だ。まだ
まだ使えると思っていても、新しきや簡便に寄りかかり、大量消費
の荒波を乗りこなすのがカッコイイ、そういう時代が長く続いた。

見た目は古い。手入れも面倒。しかしそれがそこにしかないならば
値打ちは十二分にある。しかも遺跡や古刹ではなく、身近なところ
にある駅や橋、家屋や校舎だとしたら。他ではもはや見ることない
往年の風景を、現実にいま味わうことができるという他地域にない
付加価値と認めて、活かすようになった。そして、変わらぬ姿で走
る若桜鉄道にも、数多くの「財産」が残っていることに注目する。

町を挙げて取り組んでいることは数多い。線路を沿線自治体が引き
継いで、鉄道会社は列車の運営に専念する上下分離方式をいち早く
取り入れたり、所有機関車の構内運転体験会を継続的に実施したり
している。長年の取組みで有名なイベントになった例もある。スズ
キの大型バイク「隼」と隼駅が結びついて、ここを聖地として全国
各地のライダーが8月8日に集結するようになった。人がつながれ
ばそれがまた人を呼び、まちの活性化につながることを実証した。

いつまでも変わらない風景を残すことは容易ではない。しかし、い
まだからこそ残していけば、他にはないものとしての価値を生む。
かといって、古きに固執している雰囲気は微塵もない。末永い存続
への証ともいえる、八東駅の線路増設による列車増発や現有車両の
リニューアルは、単なる懐古主義ではない、いまここにあるものを
今後も活かす意思表明だ。地域に住む人々とここに訪れる旅人との
結びつきを育む、沿線の温かい眼差しが小さな鉄道を支えている。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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