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ワクワクリベンジ読書のすすめ~『砂の女』安部公房著~

いつも読書は、読みながら頭の中で状況をイメージしている。だから、常に映画をみているような感覚で読み進めている。しかし、それはあくまで自分の中でイメージできるものに限る。
『砂の女』の場合は、実に困難を極めた。まったく想像がつかない。どういう世界の話なのか。本当にそういう状況は存在するのか・・・・・・。などなど思い悩みながら、何とか読了した。
 
主人公の男は新種の昆虫を探し求めて、砂に覆われた部落にたどり着く。そして宿として砂穴の底にある一軒家に案内される。そこには一人の中年の女が住んでいて男を応対する。実は男は騙されていた。そこではとにかく女とスコップで砂を取り除くという強制労働が待っていた。
男は脱出をはかろうとするが、女は男を穴の生活に引き留めようとする。部落の人々も逃亡を妨害し、穴の上から二人の生活を眺める。
男は自暴自棄となりながらも、女と労働の日々を過ごす。そして砂を活用した溜水装置の開発を思いつき、その研究に没頭する。そんな中、女の子宮外妊娠が発覚。病院へ行くために穴の上に連れ出される。これまで逃亡防止のために縄梯子ははずされていたが、女を穴の上に引き上げるために使ったあとも、なぜかそのままになっている。男はいくらでも逃げ出せる状況にあるにもかかわらず、逃げるよりもまず溜水装置のことを部落の人々に伝えたいという欲求が強く、砂底に残ったままでいる・・・・・・。
 
自由を奪われた状況の中で、自由が目の前にあらわれたのに、それを二の次とするという心境の変化。砂を活用した溜水装置という研究開発に対する充実感・期待感が自由への渇望を勝ったということか。
制約された中でも、その環境に慣れてしまえば、ささやかな充足を感じるようになる。さらにその中で何らかのテーマを新たに見出し、没頭することができれば、もはや自由であるかどうかは大きな問題にはならないのではないか。
飛躍しすぎかもしれないが、そこに人間の適応能力の一面を見ることができると考える。
 
『砂の女』のようにイメージしにくい作品は、難しさを感じる一方で、逆に自由に発想を飛ばすことができる。これまであまり味わったことのない読書の楽しみ方を学ぶことができた。

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