こだわりを、はなす
高さの違う観葉植物が植えられた鉢が、あちこちに置かれていた温室も、今日ばかりは様子を変える。置いている鉢が多すぎで、地面にまでなかなか届かなかった光が、今日はちろちろと地面をゆらす。植木鉢の代わりに並んでいるのは、イスたち。ガラス越しの光のしたで生徒たちが授業を受けている。
ぽつんと、ひとりの生徒が温室の外のイスで座っている。中にイスが入りきらなくて、外にあふれたらしい。かっちりと白衣を着こんで、バインダーを机代わりにメモを取っている。ときどき、温室の中へ目を向けるのだけれど、それがどこか寂しげに見えた。
「いいの? 中に入らなくても」
「大丈夫です。話は聞こえるので」
今日、この温室のなかで行われていのは、このクラスの中間試験直前、最後の授業だ。40人ほどの生徒たちが、折りたたみイスに座って授業を受けている。
……よくみれば、ひとつ。温室内のイスが空いている。そのイスを指し示して、もう一度聞いた。
「いいの? 中に入らなくても」
その子は、はっとした。空いたイスに今、気がついたように見えた。
いかにも、しぶしぶと立ち上がり、じんわりと空いたイスに向かう。
温室内に足を踏み入れると、目線がいっせいに白衣の彼女に集まった。
「おまえ、できるんだし。聴かなくてもいいんじゃないの」
「ここで授業を受けなくても、もう飛び級できるんだよね」
「そんなんじゃないのに……」
ぽつんと小さく、彼女の声が聞こえた。
ああ、そうか。白衣の彼女は遠慮していたのか。周りと同じ授業ではものたりないけど、みなと授業を受けたいからと。温室の外で聞いていたのか。
ごめんね、わたしは彼女に悪いことを言ったかな。
それでも、それでも彼女は軽くうつむいたままで温室の中のイスに座りつづける。白衣の中で小さく身体を縮めるようにして。みなのなかで、授業を受け始めた。
あれで、よかったのかな。
……という夢を見た。
白衣の彼女に、私はわたしを重ねた。
ひとりだけ毛色が違うからと、集団に溶け込めないと思っていたころのわたし。
遠慮して外に出て、それでも集団の内に行きたいと願っていた。
内に行って、だれかと仲間になりたいと思っていた。
けれど、仲間になるために。集団に溶け込むことだけをこだわらなくていい。出ている外で、新しい仲間もみつかる。それぞれが、それぞれのままに仲間になる道もある。
夢の中の彼女も、あの温室の外で新しい仲間に会えると気づくだろうか。
それとも、仲良くしたい相手は、温室の内に居る仲間がよかったのだろうか。
夢の中で見た白衣の彼女を思い出しながら、今日を始める。
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「撮ることがセラピーになっていた時期もあった」というMakurinさんの作品を、本文上にお借りした。
やわらかな景色ひろがる作品たち、見せてくださりありがとうございました。
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