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言葉より前にあるもの。匂い。感触。

おふとん、おかえり。

打ち直しに出ていた敷布団が帰ってきた。入れ替わりで、タバコのにおいがかすかに染み出る代布団(かりてた布団)も布団屋さんへ戻っていった。

打ち直しで戻ってきた、ふんわりふっくらお布団で寝始めて、ようやく出張の夢を見なくなった。

今は夢の中で、雲の上を歩いている。歩いていると、たまに違った感触を感じる。ほこほこした中に、ごろりと大きな塊。

この塊がきっと雷の素になる。雲の上を歩きながら、ここと感じたその場所で、雲の表面をなぜて雷の素を探す。

雷の素をあつめると、雲の上でぴかぴかときれいな光が見える。いい具合に育てば、光の樹木が花咲くかもしれない。

雷の素をいれた袋を手にしたままで、雲の上。すり足で進みながら、雷の素をさがす。

少し離れた場所で、雲の層に埋もれるように、ごおごおと雷の音がする。もうじき、地表へ降りようとしているところ。

地表に向かって咲く光の樹木もきれいなんだよね。

雲の隙間に腹ばいになって、地上をのぞく。光の樹木がひろがる瞬間をながめたくて、ぐっと目に力が入る。

ごわんばたん。ごおごお。
どさっ。

すごい音がした。……わたしの、目が覚めた。ひんやりと床の感触。気持ちいい。大胆な寝返りを夢の中で披露して、床に落ちたみたい。

ふかふかになって戻ってきた敷布団を、ベッド台の上にひいたわたし。床より高くなって眠るのは久しぶり。寝返りも、かわいらしくベッド台の上だけにしておこうと、思い出す。

うっすらと室内の輪郭が見えるくらいの明るさの中。ごおごおと、まだ音は聞こえてくる。隣のベッドで、夫が大いびき。

この数日、気温が上がってきたから、暑さに寝苦しくなりはじめたみたい。そろそろ夏の布団に変えようか。エアコンの掃除もしておきたいな。その前に床も水拭きしよう。

ひんやりした床の上で、ごろんとねっころがったまま、わたしは考える。

でも、まだ。起きるまでに時間はあるから。もう少し眠ってしまおうか。

ぞろりと重みある袋が動くみたいに、ふかふか布団の上にはい上がる。

寝返りは小さく。
寝返りは控えめに。
寝返りはかわいらしく。

ひつじをかぞえるみたいに、寝返りのことを唱えているうちに眠っていて、目を開けたらもうとっくに朝だった。


夢のかたちをながめたら、感じ取る順番がわかった気がしてどきどきした。

はじめは匂いを気にして。次は感触が気になって。音が入ってくるのは最後なのね。

音が最後だとしたら、言葉や思考が混じってくるのもこのあたりから。

はじめに原始的な感覚(匂い)で把握して。
次に身体の感覚(感触)でモノコトを知る。
そして音。ようやく頭で言葉でかかわれる余地が入ってくる。

日常も、もっと匂いや感触を意識するといいかもしれない。

言葉にする、思考にする。その訓練はあたりまえのように、普通に、考えることもなく試しているから。匂いや感触に意識を向けようと心がけるだけで、ずいぶん、自分自身や周りを知ることになる。

匂いと感触を意識して暮らす。
ちょっとおもしろくなってきた。

何が変わるだろう。何が変わらないだろう。










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