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京都市長選について

2024年2月4日、京都市長選が行われる。候補者は計五人。福山和人候補(62、無所属)、村山祥栄候補(45、無所属)、二之湯真士候補(44、無所属)、松井孝治候補(63、無所属、自民・立憲民主・公明・国民民主推薦)、高家悠候補(35、無所属)である(順序は届け出順)。本記事では、各候補の公約を客観的に分析した上で、今回の選挙の見通しを述べていこうと思う。
 細かいことを見るのが面倒である場合は、最後にざっくりとしたまとめをしているので、そちらだけを見ていただいても良い。
 また、説明に当たって表現を簡略化している部分があることをご了承願いたい。

※このサイトは特定の政党および候補者を支持するものではありません。
※「評価」はあくまで筆者の個人的意見によるものです。




福山 和人(ふくやま かずひと)候補 

62歳 無所属


 まずは福山氏。弁護士であり、かつて京都弁護士会副会長であった。2020年の同市長選挙では共産党などの推薦を受けていたが、今回は「市民派」をアピールするため、共産党は全面的にバックアップすることを避けたと思われる。以下、主な公約を、簡単な解説と共に挙げていく。


公約


〈四つの安心〉
・保育園の補助金を戻す
  京都府の見解では、これまで保育士のために支給していた補助金が上手く活用されていなかったため、支払い方法を見直したとのこと。だが、保護者が著名運動を始めるなど、反対の声は根強い。保育園の経営が傾くのでは、との声もある。

・学童保育料引き下げ
 京都市の見解ではこれまた上手く活用されていなかったものを見直したとのこと。ただし、「反対意見を避けるため市民への周知を遅らせた」、「子育て世代への負担が増えてしまう」などの反対意見がパブリックコメントで多く寄せられたよう。

・中学校給食を巨大工場ではなく学校調理で
 これは学校調理の方が安全の観点からも味の観点からもよい、ということだと思われる(あくまで筆者の推測に過ぎないので悪しからず)。

・敬老乗車証の負担引き下げ
 京都市営バスの敬老乗車証の使用開始年齢や所得の制限を見直したもの。制度持続が難しくなったため、とのこと。

〈5つの無償化〉
・子供の医療費を18歳まで無償化
 京都市以外の自治体でも見られる傾向。子供がいる世帯向けの政策。

・小中学校給食をまず半額無償化
 給食無償化は大抵の候補が挙げている公約だが、福山氏は「まず半額」という条件を付け加えている点が異なる。

・第二子以降の保育料無償化、ひとり親家庭は一人目から
 令和元年から行われた国による幼児教育・保育の無償化との違いが明示されていないが……。これについて詳しい方がおられればコメントいただきたい。

・18歳まで国民健康保険料の均等割無償化
 「均等割」とは、所得金額の多少に関わらず被保険者の全員に課される額のこと。国民保険は「均等割」の他に、「所得割」、「平等割」、「資産割」があるが、そのうちの「均等割」を無償化するというもの。

・返さなくてよい給付型奨学金の創設
 奨学金には返さなくてよい「給付型」と、将来返す必要がある「貸与型」が存在する。これらは日本学生支援機構をはじめ、企業や財団などが行っているが、京都市独自のものも始めるということだと思われる。

これらに加えて、
・北陸新幹線の京都延伸などの巨大開発の見直し、暮らしに向けた政策の
 実践
・景観条例は維持
・防災、減災への諸政策の実践
といった政策を掲げている。

 以上が福山市の掲げる「すぐやるパッケージ」である。福山氏はこれらの政策が市の予算の約1%、すなわち約110億円を使うだけで実現可能であるとしている。この他にも公約を多く掲げているので、詳しくは下の福山氏のサイトを参照されたい。





評価


 かなり子育て世代にフォーカスした公約だと思われる。現在京都市は日本の中でもトップクラスに「住みにくい」街と言われており、子育て世代の不満は強い。その層を掬(すく)うことが今回の公約の狙いであろう。
 また、福山氏は自身の公約の「基本理念」において、子育て世代の人口流出や財政危機を引き起こしたとして、現市長である門川氏を非難している。このことで、現市政に不満を持つ人々も福山氏を支持する可能性は高くなる。
 また、公約の具体的内容についてだが、良くも悪くも共産党らしいと考えられる。公約が実現すれば素晴らしいことは間違いないが、それが実現可能なのか……という疑念が常について回る。例えば、「無償化」政策というと聞こえはいいが、それはつまり不足分を他の財源、例えば税金などで賄(まかな)うということである。
 また、既存の政策の批判に留まっていて、目新しい公約がないことも気になる。批判は誰にでもできるが、新たな対策を打ち出すのは難しい。実際に京都市の問題に対応できるのかどうかは不透明である。
 さらには、いかに「市民派」を自称しているとはいえ、共産党系であることは明らかであるし、有権者の大半はそのことに感づいていると思われる。そうなると、共産系を嫌う層は福山氏に投票することを避けるに違いない。
 ただ、自民党に対する不信感が高まる中、共産系の候補が当選する可能性は高い。前回の惜敗率は約77%であっただけに、今回も市長の有力候補であることは間違いないだろう。松井氏との激戦が予想される。



村山 祥栄(むらやま しょうえい)候補 

45歳 無所属


 村山氏はかつて京都党に所属していたが脱退、現在は無所属である。京都市市議会議員を5期経験している。以下、公約を挙げていく。


公約

・しがらみを断ち切る本気の行財政改革
 京都市政最大の課題の一つである財政危機への対応策。「4年後に財政健全度の平均値クリアと財政調整基金150億円、8年目に公債償還基金の積戻し完了、10年目に政令市財政健全度一位」という目標を掲げている。そのための政策として、公共施設の集約・効率化・最適化、交通局民営化、市長の給与を含む財源の切り詰めなどを挙げている。
※財政調整基金:自治体が年度ごとの財源の不均衡を調整するための積立金 
        のこと
※公債償還基金:借金返済に充てるための積立金のこと

・「京都に住みたいまち」化計画
 京都を住みやすい街にすることで、財政基盤の安定化や住環境の改善、都市魅力の向上を図るというもの。子育ての支援や高校教育の無償化、給食費無償化、保育料無償化、学校改革などの政策を行う、としている。

・「京都だから働きたい街」化計画
 生産性の高い企業の誘致、スタートアップ支援を行い、財源の確保と市民所得の向上を行うというもの。京都市内の企業を活性化させるという公約を掲げる政党とは対照的な公約であると言える。

・「市民にもっと優しい街」化計画
 福祉政策などに関するもの。本選挙の争点の一つであるオーバーツーリズムに対する対策としてロッカー整備やアプリの活用、バス路線の見直し等を挙げている。また、福祉支援や空き家対策、防災、脱炭素化といった諸政策も行う、としている。また、門川現市長の掲げる「文化首都京都」案を継承することも公約としている。
※オーバーツーリズム:旅行客が増えることで、かえって市民の利益が損な 
           われること

 以上が村山氏の掲げる公約の説明である。詳しくは下に提示した村山氏の公約を参照されたい。




評価


 まず、公約の評価云々以前に、村山氏は本選挙において非常に厳しい戦いを迫られることになる。というのも、村山氏に政治資金パーティーを巡る疑惑、「架空パーティー」疑惑が浮上したからだ。村山氏はこれを否定しているが、元々村山氏を推薦していた維新および「教育無償化を実現する会」(前原誠司氏が国民民主党を離脱して結成した政治団体)は推薦を取り消した。これが自民党の政治資金規正法違反の一件が起こったすぐ後に報じられたこともあり、有権者の心象はかなり悪化したものと思われる。村山氏は市議会議員の経験が五度あるというのもあり、当選する可能性がゼロとは言い切れないが、限りなく低いことは間違いないだろう。
 では、公約について見ていく。元々維新が推薦していたこともあり、かなりポピュリズム的要素が強い公約になっている。すなわち、どの公約も市民からすれば良いものに映るものになっているものの、では実現可能なのか、弊害がないかというと難しいというようなものである。
 具体的に言うと、財政健全化と福祉政策は両立しうるのか、京都に高収益企業をどうやって誘致するのか(ただでさえ市民は地価が高くて困っているというのに!)、公共施設の効率化によってサービスの質が下がるのではないか、といったことだ。また、京都市営バスが毎年膨大な赤字を吐き出しているのは良く知られていることで、それを民営化すればどうなるのか……、想像するだけで恐ろしいことである。
 ただ、現市政に不満を持つ市民からすれば魅力的に映る公約であることは間違いないだろう。また、財政危機に対して具体的な方策を挙げられている点も評価したい。パーティーの件がなければ、福山氏、後述する松井氏と三つ巴(みつどもえ)の選挙戦を繰り広げることが予想されていたほどである。だからこそやはりパーティーの件は重く村山氏にのしかかっていると言える。


二之湯 真士(にのゆ しんじ)候補

44歳 無所属

 
 本選挙において最も予測がつかない候補であると言える。二之湯氏は二之湯智元国家公安委員長を父に持ち、二之湯武史元参議院議員を兄に持つ。自民党所属時代に京都府議会議員を経験したが、今回の自民党の政治資金規正法違反の件を受け父の智氏と共に自民党を離党。新たに政治団体「躍動、京都!」を作ったという変わり種である。このことについては後に詳しく述べるとして、まずは公約を見ていくことにする。



公約

・財政を立て直す
 財政危機に対応するためのもの。そのための政策として、府と市の二重行政をなくす、デジタル化の促進、宿泊税の引き上げを挙げている。また、独自の政策として、寺社仏閣の協力のもと「古都税」を取り入れる、としている。

・交通・住宅改革
 観光と市民生活の両立のため、公共交通の充実と子育て住宅の確保を政策として挙げている。具体的には、LRTの導入、地下鉄の増便、市営住宅の再生といった政策を掲げている。
※LRT:次世代型路面電車のこと

・教育の質を上げる
 教育格差とそれに伴う経済格差を断ち切るため、塾などに依存しない良質な公教育を目指すもの。現場の職員の処遇改善や中学校給食の早期実現などを掲げる。

・所得を上げる
 京都の国際ブランドと大学の集積を生かし、所得向上に努めるというもの。スタートアップ支援や学費の助成などを政策に挙げている。

・高齢者の生活を支える
 超高齢化社会の中で、地域での包括ケアシステムを充実させるとともに、高齢者の居場所づくりや交流を促進するとしている。

・閉塞感を打ち破る
 居住地・年齢・性別・障害の有無・国籍を問わず、誰もが生きやすい社会を目指すもの。そうしたもので不利益を被(こうむ)っている人々のための政策を提示している。

・歴史・文化・自然を生かす
 京都にある歴史・文化資源や自然を経済活動に活用するとともに、それに対する愛着を深めるためのものである。具体的には、学校の郷土史学習の促進や農林漁業体験の開発などである。

・令和の平安京へ
 京都周辺の地域と連携し、その交流の中心を京都に据えることで全体での平和構築に貢献するというもの。


 以上が二之湯氏の掲げる公約の概要である。具体的な公約は二之湯氏のホームページを参照されたい。




評価

 前述したとおり、二之湯氏は自民党を離党して独自の政治団体を立ち上げたという変わり種である。このことで二つのシナリオが考えられる。一つは自民党支持者が二之湯氏を支持する場合。この場合、二之湯氏は松井氏や福山氏と肩を並べるほど強力な候補となるだろう。もう一つは自民党が二之湯氏を支持せず、単なる新興政党という扱いを受ける場合。この場合は現時点では何とも言えないところである。
 この二つのシナリオ、どちらが現実的かといえばおそらく後者であろう。というのも、後述するが自民党は別に松井氏を推薦しているのだ。普通に考えれば自民党支持者は松井氏に流れるだろう。そうなれば、二之湯氏への票ははっきり言って期待しにくい。
 ただ、自民党の政治資金規正法違反の件があったことで、必ずしもそうとは言い切れない状況になっている。どの候補にも希望が持てないと感じた有権者が、「二之湯氏に賭けてみよう」という方向に流れる可能性はないとは限らない。
 二之湯氏がどこまで票を伸ばすか、神のみぞ知るところである。
 では、公約についてみていこう。基本的に二之湯氏のスタンスはアンチ門川財政である。そのうえで、人々の交流を重視し、その場を行政が作ることを主張している。また、いずれの政策も実現すれば街の活性化が望めるものであるし、希望が感じられる政策ばかりである。
 ただ一方で、新興政党にありがちなことだが、政策が地に足のついていない感じが拭(ぬぐ)い切れない。二之湯氏が掲げる公約で果たして問題が解消されるのか、あるいはそもそもその政策が実現可能なのか。極めて不透明である。
 また、目的がぶれているという点も気になる。上に挙げた通り、二之湯氏は8個の公約を掲げているが、政策の重点を絞り切れていない感じが否めない。一番やりたいことは何なのか?それをはっきり提示しない限り、有権者の明確な支持は得られないであろう。
 そしてなにより、京都市最大の課題の一つであろう財政危機への対策が弱い。宿泊税引き上げと「古都税」導入だけで慢性的な財政危機が解決するとは到底考えられない。これは二之湯氏の公約の最大の欠点であると言えよう。
 なんにせよ、二之湯氏は本選挙において最も「おもろい」候補ではあるだろう。本選挙に重大な影響を与えるキーマンとなるか、それとも目立たぬ泡沫候補として終わるか。注目どころである。



松井 孝治(まつい こうじ)候補 

63歳 無所属


  推薦:自民・立憲民主・公明・国民民主
 松井氏は民主党政権下で官房副長官を務めた経験を持つ。京都の老舗旅館である松井旅館の次男坊である。現在は慶応義塾大学の教授を務めている。本選挙において唯一推薦政党がついている候補者である(前述の通り、村山氏は政治資金規正法違反の疑いで推薦取り消しとなった)。では、以下公約を挙げていく。



公約


・市民あっての京都、人々から選ばれるまり京都を
 教育や社会福祉に関する公約。府市協調で「子育て・教育環境日本一」を実現する、としている。また、大学のまちとしての魅力を向上させることも公約に挙げている。

・突き抜ける魅力のある文化首都・京都を創る
 門川現市長の文化首都構想を引き継いだものとなる。国際会議の誘致や伝統の保護に力を入れる、としている。また、前述したオーバーツーリズムについても対策を打ち出し、就労・居住環境づくりのための政策も挙げている。

・文化首都を支えるつよい経済の復活を図る
 京都の伝統的な産業や地域産業を活性化させることや、企業の立地促進、スタートアップ支援などをあげている。地元産業を支援するという点で村山氏と異なる公約である。また、景観条例については規制だけでなく都市機能の改善や開発も行うとしている。

・すべての人に「居場所」と「出番」のある京都へ
 京都の学区単位の組織やボランティア組織と連携し、共助・互助の精神のもと市民の福祉や安全に務めるとしている。また、防災・減災政策にも触れている。

・全国に先駆ける京都型共生社会モデルを形成する
 男女共同参画社会実現、二酸化炭素排出量削減、農林業の活性化、水源の保全、スポーツの支援、ペット支援について触れた政策。

・府市協調で住民参加型行政を
 高校の先輩・後輩関係である西脇府知事との協調のもと、京都市民が参加する政治を推進するとしている。


 以上が松井氏の公約の概要である。詳しい公約については下記リンクを参照されたい。




評価


 公約について触れる前に、松井氏の現状について触れておく。朝日新聞の電話調査によると、現状松井氏がトップを走り、福山氏が猛迫している状況であるという。ただ、有権者の5割近くが投票態度を明らかにしていないという情報もあるため、松井氏は安心とは言えない状況にある。ただ、仮にこのまま選挙戦が当日を迎えるのであれば、松井氏が市長になる可能性が高い。すなわち、現状最も次期市長に近い候補と言えるであろう。
 では、公約を見ていこう。松井氏の公約に関して単刀直入に感想を言うのであれば、「普通」である。良く言えば安定していて、悪く言えば面白みのない公約である。
 もっと言えば、松井氏が市長となった場合、恐らく門川市政と同じような感じに落ち着くのであろう、と思われる。推薦政党の面々も門川氏の時と全く変わっていない。したがって、門川市政を評価する有権者は松井氏に投票するであろうし、評価しない有権者は他の候補に投票するものと思われる。まさに、門川市政の評価が如実に出るものと思われる。
 「普通」というのにもう少し詳しく言及すると、まず文化首都構想について。門川氏の政策を継承したものであるが、これが市民にウケがいいのかというと微妙なところである(もちろん支持する人もいるのであろうが)。その目的と、市民が得られる恩恵が何なのかが明示されておらず、市民からすればなんとも微妙な公約であると言えよう。
 また、現状京都市政で最も課題であると言われている財政危機についての言及が弱い。地元産業への支援でこれらが解決するというのは考えにくい話である。
 そして、松井氏の公約で最も気になった点が5・6番目の公約である。あまりにも公約がふわっとしすぎていないか。筆者は本記事を書くにあたって各候補者について一通り調べたつもりだが、この公約ほど抽象的な公約はなかったように思われる。厳しいことを言うようだが、市政を担うという心意気があまりにも感じられない公約である。これまで中央で様々な改革を担ってきた松井氏だからこそ、もっといい公約を作れたのではないかと思うと残念でならない。松井氏が福山氏始め他の候補者を振り切れていないのは、この公約の具体性の無さが原因であると思われる。市民に寄り添う市長であってほしいものである。
 繰り返すが、松井氏に投票するか否かは、すなわち門川市政を評価するか否かに直結するところである。自民党の政治資金規正法違反の一件があった今、真価が問われる選挙になりそうである。




高家 悠(こうけ ゆう)候補 

35歳 無所属


 本選挙において最も謎の深い(?)候補である。ネットを一通り調べたところ、実業家であるということと東京都在住であること、平安保守党という政治団体に属していることしか分からなかった。顔写真すらも公表されていない。もしかしたら突然ヒーローのように現れて票をかっさらっていくのかもしれない(?)。政策は一応選挙公報にあるようなので下に記しておく。



公約

・ホテル民泊等の宿泊税を上げ、月10万円ほどを基本的人権のため資産に応じて個々の市民の方の申請の上保証する。

・京都市への北陸新幹線とモノレール案は廃止凍結し、前市政の街の再開発案を撤回、景観規制(高さ)を強化もしくは維持する。

・文化首都案は廃止する。

・京都市の安全の復興のため、法を実際に執り行い町の治安を回復させ京都市の平安を復興する。


 以上である。高家氏の公式サイトは調べた限りでは見つからなかった。



評価


 評価、といっても評価のしようがないのだが……。どうやら最後の公約「京都市の平安を復興させる」というのが平安保守党の名前の由来であるようである。ということは現状京都市は平安でない、というのが高家氏の主張ということになるが、これが門川市政のことを指しているのか、それともオーバーツーリズムなどの社会問題を指しているのかは不明である。ただ、公約全体をみるとアンチ門川市政の立場が最も鮮明であるように見受けられる。その点で票が集まる可能性がないとは言えないが、情報があまりにも少なすぎるため、市長当選は難しいものと思われる。




まとめ


 現状では松井氏がトップを走り、次に福山氏、その後ろを村山氏と二之湯氏が追っている状況である(高家氏については情報なし)。結局、京都市長選お決まりの共産vs非共産という構図になってしまっている。本選挙は村山氏が第三の対抗馬として自民や共産を脅かすと予想されていたが、今やその可能性はなさそうである。
 ここで本選挙の主な争点を振り返ってみる。


主な争点

・門川市政の評価
 4期16年と長きにわたって市長を務めた門川現市長に対する評価。公教育の再生や温暖化対策条例を評価する声がある一方で、財政危機や人口流出を招いたという批判の声もある。現市政を評価するのであれば松井氏へ、しないのであればその他の候補者へ、というのが自然な流れであるように思われる。

・オーバーツーリズム対策
 京都市で社会問題となっている観光公害である。どの候補もオーバーツーリズム対策を公約として掲げているが、その方法がそれぞれで異なる。客観的に見て、福山氏と松井氏の政策がやや具体性に欠けるものと思われる。詳細は下記のとおりである。
福山氏:規制、滞在型・体験型観光へのシフトなど
村山氏:マナー条例の新設、ICT(アプリ)を活用した混雑対策、ロッカー
    整備、地下鉄・バスの乗り継ぎ無料化など
二之湯氏:宿泊税引き上げ、「古都税」導入、路面電車導入など
松井氏:市民優先価格の実現、マイカー乗り入れ規制など

・財政危機への対応
 目下京都市政最大の課題の一つであろう財政危機への対応である。それぞれの候補で微妙に政策が異なるが、一致する点も見られる。最も政策が弱いといえるのはおそらく二之湯氏である。対照的に、最も具体的な対策を挙げられているのは村山氏であると思われる。以下が詳細である。
福山氏:大型の公共事業見直し、観光客への負担としての協力金創設など
村山氏:公共施設の集約・効率化・最適化、生産性の高い企業の誘致、
    スタートアップ支援など
二之湯氏:宿泊税、「古都税」、歴史・自然資源の活用、デジタル化など
松井氏:企業立地の促進、地元産業の活性化、ふるさと納税による財源確保  
    など

・北陸新幹線延伸をはじめとする公共事業の是非
 これに関しては、単純明快に是非が分かれる。ただ、賛成寄りの松井氏でさえ留保をつけており、基本的にどの候補も自然環境への配慮が必要と言う点では一致している。詳細は以下の通りである。
福山氏:反対。暮らし向けの改革を
村山氏:京都市の財政負担と環境問題がクリアされない限り反対
二之湯氏:反対。京都負担がなく、かつ早期実現が見込まれる米原ルートを
     提案
松井氏:延伸の必要性は理解するものの、自然環境や市民の生活環境に配慮  
    して慎重な判断が必要

・人口流出対策
 財政危機と並び、京都市の課題である。京都は「大学生の街」として知られているが、大学生が卒業と同時に他都道府県に流出してしまい、結果的に全体でみると人口が流出してしまうというものである。この点に最もフォーカスしているのが福山氏の公約である。各候補の公約は以下の通り。
福山氏:子育て支援のための5つの無償化、空き地の活用など
村山氏:子育て・教育支援対策、山科・醍醐など周辺地域の街づくりに資本
    を集中投下しリブランディングを図るなど
二之湯氏:実態に合った都市計画、LRTの導入など
松井氏:学生や若者の起業支援、周辺部を中心とした住宅の創出、教育・
    子育て環境の向上

・教育・子育て支援
 給食費無償化、教育無償化、保育料無償化などが争点である。
福山氏:教育改革、子育ての5つの無償化など
村山氏:教育無償化、児童虐待ゼロなど
二之湯氏:教育無償化、全員制中学校給食の来年度からの実施、塾などに
     頼らない良質な義務教育など
松井氏:保育料、医療費、教育費などの負担軽減、「第三の居場所」づくり
    全員制中学校給食の早期実施など


 以上が各候補の主な公約の比較である。各候補、それぞれに強みもあれば弱みもあることがおわかりいただけたと思う。



総評


 本選挙は単なる一都市の市長選挙に留まらない。自民党の政治資金規正法違反の件があった今、自民党を支持するか否かが明白に示されるタイミングだ。
 だが、もしかするとこうお思いの方もおられるかもしれない。どの候補者にも期待が持てない、と。
 筆者も正直それに同感である。松井氏は門川市政を引き継ぐだけでなんら前と変化がないように思える。村山氏は政治資金規正法違反の件が頭にちらつく。福山氏には共産系独特の胡散(うさん)臭さがある。二之湯氏は経験はあるものの新興政党に入れるのには不安があるし、自民党出身である以上大して変わらないのではないか、とも思える。
 こう見ると、今回仮に誰かが市長に当選し、大した改革がなされなかったとしても、誰も京都市民を責めることはできまい。
 むしろ、筆者が非難したいのは野党の絶望的な対抗力の無さである。特に立憲民主と国民民主。この二つの政党は松井氏を推薦しているが(そもそも松井氏は民主党の人間である)、なぜ安易に自民・公明と手を組んだのか?
 門川氏の時はそれでよかったのかもしれないが、今回は事情が違う。彼らが独自に候補を擁立し、明確な公約で市民をひきつけることが出来れば、自民・公明を打ち破ることもできたはずだ。それを前回のやり方を踏襲して自民・公明と手を組んでいるあたり、やる気が全く感じられない。
 政令指定都市の市長選挙はその後の国政を左右するビッグイベントなはずだ。両党はそんなビッグイベントを雑に受け流すほどに余裕のある政党なのか?少なくとも有権者の我々にはそうは映っていないのだが。
 今回の市長選に関して、傍観をするに留まっている両党の罪は重い。野党としての役割を果たすべき時が、今をおいて他にあるだろうか。その役割を果たそうとしないのは、単なる怠慢に過ぎない。
 投票率の低さを国民のせいにする向きがあるが、本当に罪があるのはどちらであろうか。




おわりに


いかがだっただろうか。京都市民の方々は2月4日に市長選挙を迎えることになる。是非とも投票所に足を運んでいただきたい。もちろん期日前投票も可能である。足を運ぶのとそうしないのでは天と地の差がある。難しいことを考える必要はない。自分の身の回りのことで困っていることがあれば、それを叶えてくれる候補者に入れればよい。もしそんな候補者がいないのであれば、白紙で提出すればよい。白票に意味はない、という人もいるが、筆者はそうは考えていない。実際に投票し、自らの意思を示すことが大事なのだ。それが選挙の意義であり、なおかつ民主主義を支える柱となる部分である。



 本記事が候補者選びの一助となっているのであれば幸いである。

                                taminetter

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