『未来』2023年9月号 掲載8首

君のことも名もなき花も曖昧だalexithymia(記憶喪失)の夜が更ける


水のように自在に変わる自らを目指して生きよと願う深夜


傷痕を指でなぞったその先の荒野にコヨーテの群れが吠ゆ


選択肢のない日々をただ選ぶのみ踏みにじられるためにある花


私が死んで別の私が現れる火花が散って曖昧になる


廃市で終焉の音(ね)が鳴り響く死と乙女の影が消え去る


何度でもこの瞬間は繰り返す王を弑するナイフ輝く


夢の中で千の仮面(ペルソナ)を身につけて神に銃を向ける愚かさの罪