優位性(=強み)と差別化(=違い)

[1/8] 優位性と差別化を合わせて優位差

差別化は「何と比べて、何が違うの?」という比較論であることが、これまでのバックナンバーを御覧になってきて、お分かりになったことでしょう。

その差別化を考えるフレームワークが「七つの差別化 項目軸」でしたね?

優位性も「何と比べて、何が強いの?」という比較論です。

が、差別化のような能動的な比較論ではなく、

『選ばれる理由』

という受動的な比較論です。優位性(強み)が「あなたから(商品を)買う」といわしめる決め手になります。

やや難しいかも知れませんので、解きほぐしますと、

差別化…選ぶ理由。選択肢を絞る理由。あなた以外を切り捨てさせる理由。

優位性…選ばれる理由。あなたが第一候補になる理由。差別化の理由。

と、優位性(=強み)と差別化(=違い)は、表裏一体であることが分ります。

主観と客観です。


主観的に見ようと、客観的に見ようと、見ているものは同じ。切り離せるものではありません。

その表裏一体の状態が、優位性+差別化= 優位差(※)です。

表裏一体ですから、優位性と差別化を、切り離して考えるほうが、おかしい=優位差が正常という見方もありましょうが、

理解するには、切り離して考えなければなりませんから(=分析)、優位性と差別化を、マーケティングでは分離して考えます。

(※)
有意差という言葉はありますが、優位差という言葉はありません。私が唱えるマーケティング特有の造語です。

[2/8] すうぉっと分析は使える?

では、優位性(強み)とは?

強みというと、SWOT分析のS(ストレンクス)が、真っ先に挙げられがちです。

強み=Strength(ストレンクス)

弱み=Weakness(ウィークネス/ウィークネセス)

機会=Opportunity(オポチュニティ/オポチュニティーズ)

脅威=Threat(スレット/スレッツ)

のストレンクス(強み)です。すとれんくす(Strength)でわかりにくければ、

Strong(ストロング)

の S に置き換えると、分りやすくなるでしょう。ストロング小林のストロングです。…で通じるかどうか分りませんが

AIDAの法則と同じく、約100年前に作られたフレームワークが、今だに通用しているということは、それだけ、使える戦略フレームワークなのでしょう。


しかしながら、3C同様、私は滅多に薦めません。強みが見つかりにくい=創造向きではないからです。

評論家よろしく、A社が成功した要因を炙り出すのに向いていますが、優位性の創造には向きません。

以前このブログで、

「テレビで放送されていた会計事務所のミーティングで、若手の会計士たちが、SWOT分析を用いて、クライアントを分析していたが、どうしても、強みだけが見つからずに悩んでいた」

という話を紹介したと思いますが、さもありなん、成功事例を分析するためのフレームワークであって、成功事例たり得ない企業の分析に適さないからです。


では、誰にとって、SWOT分析は使えるかというと、

・成功事例を教える人(先生と呼ばれる人たち等)
や、
・評論家(エコノミスト等)
や、
・成功事例を法則化して、他社へ水平展開するコンサルタント等

にとって、使い勝手が良いわけで、

マーケティングの現場で、強みを独自に創造しようと取り組む実務家にとって、使いにくいフレームワークといってよく、

SWOT分析を使って(お手盛りではなく、客観的に見た)強みを創造できる人は、使えばいい(戦略フレームワークではなく)分析フレームワークです。

[3/8] 強みを訊く三つの質問

「SWOT分析じゃないとしたら、何を使えば、強みを導き出せるの?」

との問いに答えられなければ、単なるSWOT否定になってしまいますから、誰にでも出来る、カンタンな方法を一つ。

他人に訊くこと。マーケティング・リサーチです。

いかにカンタンか、具体的に、三つの質問を授けますから、答えてくれそうな誰かへ、訊いてみて下さい。

1「私の強みは何ですか?」または「弊社の(商品の)強みは何ですか?」

2「どうして私に頼むんですか?」「どうして弊社(の商品)を買いますか?」

3「私の良いところは何ですか?」「弊社の(商品の)良いところは何ですか?」

最初の質問は、以上の通り、わずか10文字前後のシンプルな問いを発するだけです。カンタンでしょう?

それぞれ解説しますと、


1「私の強みは何ですか?」は、単刀直入に訊く方法です。

この質問に、単刀直入に答えてくれる人は、観察力や洞察力、分析力があるといっていいでしょう。(曖昧な答えのほうが圧倒的に多いはずです)

平たくいえば「よく見てるなあ」という人。

当然、弱点も見えているはずですから、味方になれば強い味方になるでしょうけれども、敵に回すと手ごわい相手かも知れません。いずれにしても、要注意(一目を置く)人物です。できるだけ、味方にしておきましょう


2「どうして私に頼むんですか?」は、強みの理由を聞く方法です。

この質問に漠然と答えてくれる人は多いはずです。

「得意だから」「頼みやすいから」「すぐに処理してくれるから」

等々、多種多様な回答を得られやすいでしょう。それらの回答から、何を導き
出すか(分析するか)は、あなた次第。

ご自分で分析できなければ、分析者(アナリスト)に分析してもらって下さい。

三角柱を、三次元的に、柱と見るか、二次元的に三角と見るか、四角と見るかのように、アナリストの力が試されます。


3「私の良いところは何ですか?」は、強みを周辺から探る質問です。

すぐに答えてくれる人もいるでしょうが、半数以上は、頭を捻るはず。

良い所が見えるまで深く付き合っている人が少なければ、有効な回答を得られにくいという深度にもよりますが、

基本的に、人は、弱点(悪いところ)を見つけるのは得意な反面、他人の強み(良いところ)を見つけるのが苦手です。

他人の強みは、時と場合によって、脅威になるからです。ライバルが強敵だと負ける(誰だって、負けたくありません)ので。

その理由を詳しく述べると、ストローク編になってしまいますので、ここでは割愛しますが、人は、攻撃するのは得意でも、防衛は苦手。

赤ちょうちんで、上司の悪口を酒の肴にするのは、攻撃が得意だからで、一転、攻撃される立場になると、どう防衛するのが大人の戦い方なのか苦悩するわけです。


閑話休題。

良いところが出揃ったと思ったら、良いところに共通する核を探し出し、それは何を意味しているか分析し、強みを創り出して下さい。(これが9-CELLです)

[4/8] ラダリングで訊き出すリサーチ

このブログを読むほどであれば、マーケティング・リサーチの重要性を知り尽くしていると思いますが、意外と、

「マーケティング・リサーチって、どうやるの?」

という方々が多いのも事実です(ということが分りました)ので、強みを発見するためのマーケティング・リサーチをご紹介しましょう。

ラダリングです。
ラダリングとは、はしごをかけるという意味で、ひとつの質問に対する回答を足がかりに、次の質問を繰り返す定性調査法。

定性調査といっても、なんのことはありません、人の話を聞くことです。

アンケートの自由回答(FAといいます)も、定性情報です。


ラダリングは、

質問→回答→質問→回答→質問→回答→質問→回答→質問→回答→質問→回答

を繰り返すだけですから、基本的に、誰にでも出来ます。

しかし、単純なものほど奥が深いのも事実。

電通マーケティングインサイトさんが、商品にしているくらいですから、リサーチのプロの領域でもあります。

ラダリングは、回答を訊きながら(訊いている最中に)、次の質問を作り出す繰り返しですので、分析力、洞察力、質問力、論理的な思考が欠かせません。

それらを身につけているのがリサーチャー(マーケティング・リサーチのプロ)ですが、

そのレベルにまで初心者が到達するには、経験を積み重ねる他、ありますまいね。場数を踏むことです。


時間と費用をかけても良ければ、論理的思考法や質問力を学ぶこともできます。

時間も費用もかけられないリサーチの初心者なら、教えを請うつもりで、

「訊かせて下さい」

と願い出ることです。その繰り返しで、場数を踏んで下さい。(私もそうしてきました)

まずは、タダで話を訊けそうな相手を探すところから始めるのが良いでしょう。

[5/8] ヘタなリサーチも数打ちゃ当たる

タダで話を聞ける相手か?タダでは話を聞けない相手か?これって意外と重要です。

なぜなら、人の話を聞くこと(マーケティング・リサーチ)は、無償で当然と一般的には思われているからです。

日常会話は無料ですからね。人の話は、タダで当然だと思い込みやすい。

タダで話を聞ける相手は、だいたい、自分の側にいて、味方である場合が多く、人間関係を損ねそうなリスクを犯してまで、厳しい意見を聞かせてくれるのはごく少数。

個人的には、友人、伴侶、親子ですね?

たとえ親子であっても、回答者に洞察力が乏しければ、何を訊ねても不得要領な答えしか返って来ないことは想像つくでしょう。

それは、友人や伴侶であっても同じ。だから数を当たるしかありません。的確な回答が得られるまで。


定性調査は、デプスインタビューと呼ばれるように、深く掘り下げて聞き取るリサーチですから、1~2人から訊いたくらいで結論を出すと、歪んだ調査結果になる危険性があります。

たとえば、新商品Aが売れるかどうか訊いたとき、ある人だけは「売れる」と答えたとしましょう。

それで「よし!売れる!」と判断して調査を終了し、「売れない」と回答するであろう他の10人へは訊かずにマーケティング計画を進めたら、大やけどする危険性・大。

だから、何人からでも、訊けるだけ訊く(数を当たる)のです。


極端な話、

「もう、在庫の山を抱えて倒産したって、悔いなし」

「借金を背負って、安月給で雇われて、生きていってもいい」

と腹を括るために、それでも1~2人で済ませてイイんですか?って話です。

[6/8] あなたの強みに価値はありますか?

法人から訊くとしたら、自社内の人、業界内の人、顧客、発注先が代表格。

同じ職場に勤めている(同じ業界にいる)というだけの理由で、親身になって答えてくれる人がいるならば、いいでしょう。

貴重な存在ですから、大切にして下さい。具体的には、耳をダンボにして傾聴して下さい。記憶して当然。メモ当たり前です。

いなかったら?

選択肢1)テキトーな回答でも良ければ、無料の範疇で、誰かに訊く

選択肢2)謝礼を払えば、訊ける相手から、訊く

選択肢3)訊かない。あきらめる(現状のまま)

まず選択肢1は、お分かりになりますね?

得体の知れない回答でも良ければ、インターネットでも訊けますし、どうでもいい質問であれば、誰だって構いません。誰かが無責任に答えてくれます。


あなたの強みを知る足がかりが、どうでもいい回答で良いのかどうか?という判断です。

[回答]A.どうでもいい B.どうでも良くない

Bでしたら、もはやタダでは訊けません。有償で訊くことです。

むろん、有償だからといって、有意義な回答を得られる保証などありません。

私の経験からいえば、十人に聞いて、九人からは、的確な回答を得られません。

ただし、不思議なもので、ヒアリング前に調査協力費(商品券など)を渡すと、
積極的に話してくれることは確か。
質はともかく、量は得られます。有償と無償の差は、無限大。


が、使えない情報は捨てるしかありません。使える情報は、十人に聞いて一人から得られるかどうかだと思っていいでしょう。

問題は、自分の強み(を知ること)に価値があるかどうかの判断です。

自分の強みに価値がなければ、知らないままでも構いません(誰も困りません)
し、
自分の強みに価値があるのであれば、その価値に見合う代価を払ってでも訊く必要があるといっていいでしょう。

[7/8] リサーチの重要性を金額で表すと?

情報に、金銭的な価値があることを知っているマーケティングのプロは、タダなんて考えません。

蛇足ですが、費用は、リサーチ先からして探すとなると、おそらく一件@10万は下らないでしょう(現在はドーか知りませんが)

一件のみで請けるリサーチ会社は無いでしょうから、少なくとも百万円以上のリサーチ費用がかかるはずです。

その費用を支払えるならリサーチ会社へ外注するのが楽ちん。分析と提案までしてくれます。

支払えなければ、自社(自分)で調べるしかありません。

あるいは、調べずにマーケティング計画を進めるか(当たれば良し。外れた時は無残ですが)、または、あきらめることになります。

自社で調べるにしても、相手あってのことですから、相手のメリットなくして調査できると思ったら、大~間違い。代償が必要です。

リサーチに慣れていない人にとっては、意外かも知れませんが、人の話を訊くのには、お金がかかるんです。


「馬鹿らしい」と思った?

そうでしょう、そうでしょう。世論調査からして、そうですから、それが世間の常識だと思っている方々が多いでしょう。

やんぬるかな、国の調査と、いち企業(営利追及団体)の調査は同じものだと思って、謝礼のアメ玉いっこも出さずに「お話を聞かせて下さい」という人が結構います。果ては詐欺師に至るまで。

そこへいくと、マーケティングの教科書に載りそうな企業は、マーケティングリサーチの重要性を知り尽くしていますから、そんなことはしません。

20年ほど昔の古い本で読んだ記憶ですが、価値創造経営を掲げるジョンソン&ジョンソンは、マーケティング・リサーチに、売上の1%を費やすそうです。

当時の売上高は、約200億ドルでしたから、ほぼ2億ドル(200億円)が調査費。


ジョンソン&ジョンソンが、価値の創造に、どれだけ社運をかけているか窺い知ることができるというもの。

だから、ジョンソン&ジョンソンは、新しい価値を市場導入できるのでしょう。

その新しい価値を創造するR&D(調査開発)が、マーケティングの花形なのは、いうまでもありません。

[8/8] 優位差は実力の証

マーケティングは、リサーチに始まり、リサーチに終わるという持論の筆者も、自分の強みを見つけるために、幾らポケットマネーを費やしたか分りません。

自慢ではなく「そうやって調べる方法もあるのか」程度の参考として私事を例に挙げますと、

マーケティングという無形財を、資格なしで販売している私にとっては、強みそのものが商品であり、実力であり、生命線です。

なので、今まで(今でも)調べ続けています。具体的には、

「この人には○○力(たとえば洞察力と分析力)がある」

という人を見つけたら、親交を兼ねて、調査協力の名目で、ランチに誘ったり、飲みに誘ったりして、協力費の代りに御馳走しては「私の良いところを教えて下さい」と訊ねています。

親交を兼ねた歓談の場でもありますから、その場でメモは取りませんが、記憶に焼き付け、帰路の途中で思い出してはメモします。


無形といえども、情報には、価値がありますからね。

そうして得た、私の強み(優位性)は、5つありました。その強みと表裏一体の違い(差異性)は7つ。                   

このように、今回のテーマである 優位性(=強み)も、差別化(=違い)も、

「先ずはコレ。次にコレ。第三にコレ。最後にコレ」

というように、幾つあるか、数値化できますし、数値化するから、幾つあるか伝わりやすくなります。

伝わるから、わかってもらえます。わかってもらえるから信用してもらえます。


反対に、顔と名前と性別と会社名(名刺情報)しか知らないAさんを、社名の他に、どうして信用できましょうか?

もしも、会社の庇護から外れた時、正体不明になったAさんの何が価値になるのでしょう?

価値なき弱き者として生かされるか?強き者として生きるか?

自社(商品やサービス)の強みが分らずに、顧客へ臣下の礼を取り続けるか?

自分の強みが分らずに、隷属して上司の太鼓持ちになるか?


強み(優位性)を知って、顧客と価値を対等に交換し、喜び合うか?

強み(優位性)を見せて、会社から一目置かれる存在になるか?

どういうスタイルで生きていくか、自ら決めることができます。

その何気ない判断が、未来を大きく左右することでしょう。

強き者 汝の名は勇者。
   勇者は 一人立つ時 もっとも強し
            フリードリヒ・シルレル


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