三毛猫ミーのクリスマス 第15話 守ってあげたくなるメス猫になりニャ

https://note.com/tanaka4040/n/n8b0f7d5553d7から続く

 あたしたちは、吊り橋へ急いだ。しかし、吊り橋の上からは、猫一匹見えない。
「おかしいなあ。確かに、声が聞こえたんだけど」
 聞こえた方角は合っている。
「誰もいませんね」
「だったら、逆転の発想で、吊り橋の下から見上げてみよう」
「それ、名案かも」
 あたしたちは、急斜面を駆け降りて、川辺に立った。すると、頭上から、
「助けてええええ」
と弱々しく叫ぶ声が聞こえた。吊り橋を見上げると、ロシアンブルーのシャドーが、逆さ吊りになって、ブラ下がっている。
「助けてええええ」
 ネコロポリスで、風の音だと思って聴いたのは、この叫び声だったのか。
「ニャアアアアアア」
「いま助けるから、待ってな」
 急ぎ、吊り橋の上へ戻って、シャドーを引き上げた。引き上げられたシャドーは、グッタリした様子で、
「助かったあ。ありがとう」
と座り込んだ。

「一体、何があったんだい?」
「ブチ猫ブーたちから逃げているとき、吊り橋が大きく揺れて、橋の外へ放り出されたの」

「危なっ!つり橋から落ちたら大変」
「その時、後ろ足の爪が、橋を支える植物の蔓《つる》に引っかかって、落ちずに済んだのは良かったんだけど」
「それで宙づりになっていたの」
「上がることも、下がることもできず、一晩中」
 あまりの馬鹿馬鹿しさに、一同、呆《あき》れて立ちすくんだ。
 これが、今まで感じていた違和感の正体だった。
 猫パンチングのシャドーボクシングと聞いて感じた違和感は、シャドーの名前そのもの。
 売店で売っていた猫柱に違和感を感じたのは、ネコロポリス近くで耳にしたシャドーの声。
 呆れ顔の黒猫クーは、
「猫なんだから、前足のカギ爪で、よじ登ればいいのに」
と言って聞かせた。

「そうしようと思ったんだけど、お腹が空いて、力が出なかったの」
「とにかく、無事で、よかった」
「心配かけて、ごめん」
「事の経緯《けいい》は分かった。問題なのは……」
と、あたしは真顔《まがお》で詰め寄った。
「あんたがいなくなったことに、誰も気づいていなかったってこと」
「え?」
「存在感が無いってことさ」
 あたしは、白い袋の中から、赤い発光体を取り出して、シャドーへ手渡した。

「これ、クリスマス・プレゼント」
「何?これ」
「これは“魅せる心”といって、あんたの魅力を引き出してくれるパワー・キャンドルさ」
「わたしに、魅力なんて無いよ」
「あんたもブチ猫レベルのバカねえ。魅力の無い猫なんて、いないよ」
「ここにいるよ。わたし」
「自分の魅力に、気づいていないだけ」
「そうなの?」
「今まで、魅力を磨いて来なかっただけ」
「どんな魅力?」
「あんたは、内気で、自己主張しなくて、居るか居ないか分からないくらい静かだよね?」
「うん。そう言われる」
「それがダメなんじゃなく、逆に考えるのさ」
「逆?」
「内気だから、消極的で、社交的じゃなくて、自己否定的で、控えめで、争うのが嫌いで、静かに過ごすのが好きだと思ってるでしょ?」
「うん。思ってる」
「違う違う。非社交的ってことは、恥かしがり屋ってことさ」
「確かに。恥かしがり屋さん」
「自己否定的ってことは、純粋ってこと。たとえば、純文学には、自己否定的で、ピュアな主人公が登場するよね。だから、どいつもこいつも自殺しちゃう」
「なるほど」

「思い悩んで自殺するくらい純粋な主人公の物語だから、純文学なのかも」
「不純文学なんて、ないもんね」
「ところが、純文学の主人公たちは、時代を超えて愛されている。何故だと思う?」
「純粋ってことは……」
「守ってあげたい母性本能、父性本能をかきたるのさ」
「純文学の主人公を?」
「そう。あんたのことも」
「私のことを?」
「そう思わせてしまうのが、あんたの魅力の一つさ」
「そうかな?」
「だから、こうして、あんたを救いに来たのさ」
「そうかあ」
「あんたと正反対のタイプの、守ってあげたいタイプには、魅力さ」
「わたしと同じタイプの、守ってもらいたいタイプには、魅力でも何でない」

「あんたの魅力が分かるタイプと付き合えばいい。二兎を追う者は一兎をも得ずってね」
「他には、どんな魅力があるの?」
「自分で探しなよ。でも、そうやって、空気を読まずに、思ったことをハッキリ言ってしまう天然ボケも、魅力の一つ」
「へえ。ボケも、魅力になるんだね」
「ご飯のことで、ブチ猫ブーに、クレームをつけた時のように、ね」
「あれは、ボケているつもりじゃ無かったんだけど……」
 シャドーは恥かしそうに笑った。
「怖いもの知らずの天然ボケに見えたとは」
「そうした内面ばかりじゃないよ?あんたには、ロシアンブルー特有の、ビロードのような被毛《ひもう》があるじゃない。あたしなんて、雑種の三毛猫からすれば、うらやましくて仕方がないよ。要らないなら、くれる?」
「それは無理」
「だったら、活かしなよ。守ってあげたいお姫様のようなメス猫になりな。あたしは、逆立ちしたって、なれないけど、あんたなら、なれる」
「わかった。ありがとう」
と、シャドーが礼を言うと、赤い発光球は、ビロードのような被毛《ひもう》の中へ吸い込まれて消えた。

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