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池井戸潤「下町ロケット2 ガウディ計画」読書感想文

予想がつくのにおもしろい。
大相撲の取組で例えれば “ 横綱相撲 ” というのか。
例える必要もないけど。

製品開発にピンチが降りかかる。
プロジェクトが暗礁に乗りかかる。

「どうせうまくいっちゃうんでしょ?」と思っていると、やはりギリギリのところで好転する。
それでもおもしろい。

ハッピーエンドだろうなと思いつつ、やはり最後は大成功となって終わる。
それでもおもしろい。


池井戸潤は細部は書かない

週刊文春の池井戸潤のインタビュー記事で「読者に想像させるために細部は書かない」とあったのを覚えている。

この本も “ ガウディ ” の細部は書かれてない。
心臓の人工弁だから、おおよその大きさがわかるだけ。

手術で扱いやすいように、ワンタッチで脱着できる特許が施されているとあるが、仕様までは書かれない。

細部が気になるほうの自分だけど、池井戸潤の本はまったく気にならなく読める。

単行本|2015年発刊|371ページ|小学館

さすがの池井戸潤

気持ちがいい読書だった。

途中で、佃製作所の若手社員の男女が、恋愛感情が芽生えたような雰囲気になる。
今までにないパターンだ。

このまま恋愛小説っぽくなったらつまらないなと思っていたら、そのあたりはバッサリとカット。
そこがよかった。

※ 筆者註 ・・・ 安定した面白さというのも、逆に感想が淡白になるようです。ガツンとした面白さか、ちょっとくらい物足りなさがあるほうが、読書感想文は書き込めることに今さら気がついた次第です。

ネタバレあらすじ

ガウディ計画とは?

ガウディ計画とは、心臓手術で使用する人口弁の開発。
既製品は、海外メーカーのもの。
サイズが大きくて、とくに子供用に対しては使いづらい。

日本人の心臓に適合する人口弁ができないないものか?

金沢にある大学の教授と、地場の中小企業が、数年がかりで開発に取り組んでいた。
しかし、技術的に行き詰まりを見せはじめていた。

この共同開発の案件が、佃製作所に持ち込まれた。
社長の佃としてはやってみたい。
技術者として挑戦してみたいという気持ちからだ。

医療品の開発は難しい

社内で検討されたが、反対意見もあった。
理由としては、まず製品化するまでに時間がかかりすぎる。

そして、医療品を販売するには、許認可が必要になる。
行政に申請してから、審査や承認といった手続きを経なければならない。
それが遅いのだ。

日本の医療品の開発が、海外勢よりも遅れている原因の大きなものが、この手続きに遅さがあった。

保証の問題もある。
万が一、不具合が生じて患者が死亡したものなら、賠償請求される可能性だってある。

コスト回収も見通しが立ちづらい。
製品が完成したとしても、あらかじめ申請して決めた価格でしか販売しなければならないからだ。
そもそもが、数量が多く出る製品でもない。

与り知らないところでの妨害

それでも佃製作所は、ガウディ計画に参加した。
発起人の熱意に、社員一同が心を動かされたからだった。

が、予想した通りだった。
開発は試行錯誤を重ねて、なかなか進展しない。

とくに、行政の手続きが進まない。
厚労省の審査会からは、厳しい要求ばかりが突きつけられていた。

実は、これは妨害されていたのだ。
医学会の学閥争い。
大学病院の出世争い。

そういった全く知らないところで、ガウディ計画は巻き込まれていたのだった。

流れが変わり、一気に好転する

進展しないガウディ計画は、資金面でも行き詰ってきた。
中止の寸前となる。

が、技術の問題はひとつひとつ解決されていく。
行政側の担当者のなかには、技術を高く評価したり、開発にかける真摯な想いに理解を示す者も現れた。
流れが変わったのだ。

同時に資金面も好転した。
帝国重工の財前の尽力だった。
役員会を説得して出資を取り付けたのだ。

佃製作所の、今までの実績が功を成した。
ロケットバルブシステムの新技術とのバーター取引での出資だった。

3年を経て「ガウディ」は完成する

3年が経つ。
日本製の心臓人工弁「ガウディ」は完成した。
臨床試験も終えた。

その日、厚労省の承認が下りた。
連絡を受けて、佃製作所の社員は喜ぶ。
祝祭だ。

佃は、社員をねぎらう。
が、次には、新技術の素案の打ち合わせをはじめている。

会社は小さいが夢はでかい。
自分のやりたいことをやっていれば、人生ってのは、そんな悪いものではない。

佃は、押し寄せる充足感に包まれていた。

ラスト1ページ

その夜、ガウディ計画の発起人の桜田は、帰宅してから真っ先に遺影に向かった。

娘の遺影があった。
桜田は手を合わせる。
9年前に、心臓病で苦しんでなくなった娘だ。
17歳だった。

娘に対する後悔と罪滅ぼしが、ガウディ計画を突き動かしていた。

「承認、下りたよ。ガウディの承認が今日、下りたんだ。いままで、見守ってくれてありがとうな、本当にありがとうな」

承認されたばかりのガウディは、そっと仏壇に供えられた。
新たな決意を伝える桜田の頬に、幾筋もの涙が伝う。

ガウディ計画は、ここに完了した。
技術者たちの戦いは今、静かに幕を閉じた。

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