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マイケル・ファラデー「ロウソクの科学」読書感想文

歴史的な名著、だという。
回覧新聞の書評にそうあった。

それによると、ファラデーとは、200年も前の科学者。
イギリスの科学者とのことだ。

その筋では有名らしい。
科学筋とでもいうのか。

で、ロウソクが燃える原理を説明する本だという。
ロウソクとは、あのロウソクだ。
いわゆる “ 蝋燭 ” で間違いない。

はて・・・
ロウソクが燃える・・・

それが、なんで1冊の本になるのか?
火をつけるから、蝋が溶けるから、燃えるのでないのか?
液体となった蝋が、気体となって燃えるのではないか?

そのくらいは中卒だってわかる。
が、ほかに何が書かれているのか、見当もつかない。

どうせ、あのパターンだ。

ファラデーの「ロウソクの科学」が名著とさえ言っておけばデキる男だと見なされる、といったパターンだろう。

以上から推測するに、科学がまったくわからない自分にとっては、この本は確実につまらない。

だいたいにして、こっちは科学など興味ないのだから、化学式など出てきたら放り投げるしかない。
よって、この本は挫折した本にカウントしない。

そう決めて借りてみた。


マイケル・ファラデーとは?

泣けてきた。
結末に泣ける。

最後の1ページ、いや、6行から気持ちを揺さぶられた。
急に泣けた。

なんだろう・・・。
この涙は・・・。

無学無能すぎることに泣けた。
クリスマス前だから泣けた。
寒いコンクリの独房で読むから泣けた。
暖房なしの独房で読むから泣けた。
かじかんだ指で、茶色い紙のページをめくるから泣けた。

いや、落ち着け。
ただ単に、涙腺が脆くなっているのもある。

とにかくも。
1791年が、マイケル・ファラデーの生年。
ロンドン近郊で生まれた。

家業は錠前屋。
やはり貧しい。

小さいときから製本屋で働く。
そのうちに、本の中を覗いてみるようになる。
とくに化学や電気に興味を持った。

今度は、本だけでは満足できなくなってくる。
幾らもない小遣いのなかから薬品を買ってきて、化学の実験をやってみるようにもなる。

当時、官立の学校があった。
入場料を払えば、誰でも講義を聞けた。

ファラデーは、22歳で講義を聞いた。
科学をやりたくなる。

教授あてに手紙を書いて面談したが「科学を専門にやって飯を食うのはむずかしい。製本屋を続けたらどうか」と言われる。

ところが、数日後に偶然がおきた。
「助手がやめたから代わりにやってくれないか」という。

研究室で試験管洗いからはじめたファラデーは、多くの発見をしていく。

1860年のクリスマスになった。
70歳のファラデーは、少年少女のために科学の講演をする。
この「ロウソクの科学」は、そのときのもの。

それからまもなく研究所をやめて、静かな晩年を送る。
1867年、死去。

原本:1861年 イギリス発刊
原題 : The Chemical History of a Candle
速記 / 編纂 : ウィリアム・クルックス

■ 1933年 旧版発刊 岩波書店 ■
邦題 : ロウソクの科学

■ 1986年 改訂版発刊 ■
訳 : 矢島祐利
280ページ

内容と解説じみたもの

古い本から伝わるファラデーの情熱

1860年のクリスマス。
70歳のファラデーは、少年少女向けの講演をする。

ロウソクは、物理学の勉強の入口に最もよいという。
で、ロウソクの種類から話しはじめる。
原材料、製造工程、構造も話していく。

ロウソクには、こだわりを持つファラデーである。
「はるばる日本からの舶来」のロウソクも紹介する。

ファラデーは、ロウソクに火をつけた。
炎を観察して、空気の通りがあることを示す。

不思議だ。
以外に読めている。

これらのなにがいいのか?

まず、160年も前の出来事とは感じさせない。
本は古いのに。
ページは茶色なのに。
文章は、そこまで古く感じさせない。

いや、文章は古い。
話し言葉で書かれているけど、言い回しも語感も堅い。

それでも割合と古さを感じないのは、ファラデーの情熱が放たれているのが感じるから。

情熱とはいうのは古びない。
1日前でも、100年前でも、情熱は情熱で情熱だ。

話し言葉で質問が投げかけられる

講演を聞く少年少女の様子は、まったく書かれてない。
しかし不思議なことに、お行儀よく聞いている様子が、なぜか伝わってくる。

そんな少年少女に、ロウソクの炎を見せながら、ファラデーは話しかけて質問もどんどん投げかける。

どうして、油が芯の先まできて燃えるのでしょう?
どうして、油は芯の先まで到達するのでしょう?
そもそもが、燃焼とはなんなのでしょう?

ファラデーは、すぐには答えない。
「不思議ではありませんか」と間をおく。

日常のエピソードも話して「家にかえって1度やってごらんなさい」などと、わかりやすいところから説明に入る。

「すなわち」と「したがって」と「このようにして」と、ファラデーは秘密を解き明かしていく。

炎から光が放たれるのは、燃焼されるからだという。
その燃焼には空気が必要だという。

当たり前のことなのに、科学など全くわからないのに、引き込まれていく。

講話に合わせて実験がはじまる

本は古びているのに、ファラデーの話は色あせてない。
文章は堅いのに、ファラデーの話は退屈でない。

講演では、実験がいくつも行われるからだ。
ロウソクの炎には、瓶、ビーカー、ガラス管、薬品、それらが当てられる。

燃焼には空気が必要。
燃焼のあとには水ができる。
その水は、水素と酸素から出来ている。
その酸素は空気中にある。
燃焼すると、炭酸ガスもできる。

上記らが、ひとつ実験によって証明されると、またもうひとつの疑問を示して、不思議さを浮き彫りにしていく。
また実験をして、証明して、と繰り返される。

ファラデーは、楽しそうに実験をする。

「このときは口をきいてはいけません」とコツも伝授する。
「ここを間違えると爆発します」と注意も与えていく。

助手アンダーソンさんの活躍

本書には、小さなイラストが載る。
実験器具のイラストだ。
“ 第36図 ” まである。

特別の装置を使う実験もある。
それらを素早く壇上でセッティングするのも、成功まで手伝うのも、助手のアンダーソンだ。

「アンダーソンさんには、40年も助手をやっていただいてます」とファラデーは紹介する。
以降にも、アンダーソンには大変に敬意が払われている。

ファラデーとアンダーソンは、息がピッタリ。
実験はスムーズに、失敗することもなく、2人で続けられる。

アンダーソンは、一言も話すことはない。

が、なぜかなのだ。
少年少女たちを実験で喜ばせようと、張り切っているのが伝わってくる。

古い文章なのにライブ感が含まれる

ファラデーの講演には速記者もいる。
話す内容と共に、動作をカッコで記していく。

〔講演者はガラス瓶に蝋を入れランプで熱する〕
〔講演者は混合物に火をつける〕
〔瓶が破裂して寒剤が四方に飛び散る〕
〔講演者は電池の両極を接触して明るい火花を飛ばす〕
〔講演者は水素でせっけん玉をつくる。それは講堂の天井まで上昇していく〕
〔講演者はせっけん玉に火をつけて手の上で爆発させる〕

ときどきは、速記者も〔ちょうどうまい具合にいく〕と客観性を欠いて書く。
それが、会場のざわめきが聞こえてくるみたい。

図らずとも、文章が古いくて堅いのが、逆にライブ感を浮き上がらせている。

ファラデーとアンダーソンのコンビは、抜群な科学のパフォーマーでもある。
どういう実験が、人々が喜ぶのかを熟知しているのだ。

理解よりも楽しいを感じさせる

ファラデーは、最初のうちは「諸君」と呼びかけている。
進むにつれて「みなさん」となってくる。

実験は「さあ、ごらんなさい」と観察される。
現象は「重要な事実を学びました」と考察される。

「わたしたちは、問うてみなければなりません」と、目線を同じにしてメカニズムを示していく。

実験がうまくいくと少年少女たちは、驚いたり、声を出したのだろう。

喜びを見せるフェラデーは「われわれは、科学者として・・・」と、小さな科学者たちに呼びかける。
科学の仲間として、少年少女たちに何度も呼びかけている。

酸素、水素、リン、カリウム、鉄、鉛、硫酸、胴、硝酸、水銀、二酸化マンガン、炭酸ガス、塩酸、硫黄、石灰、という物質の存在も次々と明かされる。

少年少女でもない自分は、全ては理解はできない。
が、科学の実験が楽しいということだけは素直にわかる。

燃焼と呼吸は同様の作用と説く

1本のロウソクから実験は繰り返されて、最終となる第36図が過ぎた。
ロウソクの燃焼については、大雑把に理解できている。

科学の実験の楽しさもわかった。
ロウソクの燃焼には、様々な物質が関わるのもわかった。

科学者というのは、地道な実験を繰り返して研究している、ということもよくわかった。

疑問をそのままにしておかずに、考えて実験してみるのが大事なのだな、とも改めてよくわかった。

なによりも、ファラデーの真摯な人柄が伝わってきた。

もう、残りページも少ない。
感想としては、そんなところか。

するとファラデーは「もう少し立ち入ってみましょう」と実験の手を止める。

そこからは、ロウソクの燃焼と人間の呼吸が、同様の作用をしていると立ち入っていく。

吸い込んだ空気の酸素は、肺の中の血液の養分と接触したときに炭酸ガスを作り、同時に熱を発する。

大人は、24時間の呼吸によって、200グラムの炭素を変化させる。
すなわち燃やす。
その時間中の体温を保つ。

人間だけでなく、牛は24時間で2キロ、馬は同じく2.25キロ。
いかに、大気中に放出される炭素が多量であるか。

しかしそれらは、草木が吸収する。
大気は偉大な運搬者だとも。

自然界のあらゆるものは、それぞれが自然の1部分であって、他の部分のために役に立たせるような法則によって結び付けられているのです、と少年少女たちに説いている。

ラスト1ページ

ファラデーは「さて、お話を終わりますまえに」と、さらに酸素と炭素のいくつかの驚きと不思議さを話す。

ラスト1ページが切って、最後の6行に入る。
以下である。

空気が肺に達すると、その酸素は炭素と化合します。
この化学変化は、体が凍らずに耐え得る最低の温度でもおこります。
そうして、炭酸ガスを生じて、生命の活動が正常に続けられるのです。
燃焼と呼吸は、すこぶるよく一致していることがおわかりでしょう。

そこで私は、この講話の最後の言葉として、諸君の生命が長くロウソクのように続いて、同胞のために明るい光輝となって、諸君のあらゆる行動は、ロウソクの炎のような美しさを示し、諸君は人類の福祉のための義務の遂行に、全生命をささげられんことを希望する次第であります。


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