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「映画かよ。」の解説かよ。 Ep43 ザ・ファーム|映画オタク多角関係

2023.4.16 update
(写真は全て駒谷揚さんから提供)

 3シーズン目に入っている、駒谷揚制作・監督によるYouTube短編映画シリーズ、「映画かよ。」。Ep43「ザ・ファーム」が配信されている。

Ep43 ザ・ファーム

 弁護士を目指して勉強中の美帆(竹内里紗)は、予備校で同じクラスの世莉(坂本佳乃子)と知り合い、彼女の紹介で法律事務所でバイトを始めた。前任者が急死したために空いたポジションだったが、働き始めると弁護士が次々と不審な死を遂げていく。何かがおかしいと、美帆は親友のアミ(森衣里)に相談するが、アミと映画オタク仲間のミノル(伊藤武雄)は、映画「ザ・ファーム」のように裏で何かが起こっているのではないかと勘繰る。さらに世莉が二人のオタク仲間、オト(谷口亮太)を殺そうとした女性だと分かり、彼女が犯人ではないかと疑い始める。世莉に呼び出された美帆は意を決して会いに行くが…。

 かつてオトが街で見掛けて一目惚れをした世莉が再登場し、張られた伏線が回収される(EP14「恋はデジャブ」モキュメンタリー「オトはデジャブ」)。EP14では、世莉の彼氏に「ちょっかいを出すな」と脅された上、彼女の周りの人間が何人も不審死を遂げていると聞いて弱気になったオトに、世莉が彼氏を始末する計画を持ち出すところで終わっている。その話だけ聞いたミノルやアミは、今も世莉をシリアルキラーだと決めつけているため、話がどんどんややこしくなっていく。

映画オタク多角関係

【ここからネタバレ】

 俳優、谷口亮太の都合によりオトの登場がなくなった。一番のトラブルメーカーだったオトが果たしていた役割を、シーズン3ではバイプレーヤーたちが担うと予測したが、いまのところほぼその展開になっている。その中で非オタの美帆がほかの登場人物と結ぶ関係性が、これまでと異なっている。

シーズン1は、ミノルとアミ、オトの3人のコンビの作り出す「映画オタク三角関係」のバランスの良さが際立っていた(もちろん「三角関係」といっても恋愛ではない)。その閉じた三角形の関係性の中で発生する問題を、映画オタクらしいアイデアと手法で解決する(または解決できない)という構造から生まれる話が秀逸だった。シーズン2は話をリードするオタクが3人以外にも登場してきて、三角だった関係の角形の角がどんどん増え、映画オタクの世界が広がっていく面白さがあった。そして3では、非オタの美帆が映画オタクの「多角関係」の一角に入ることで、それまで見ていた映画オタクの世界を外側から見る面白さを加えているのではないかと思う。

 これまでは、どれだけ関係性が多角化しても、映画オタク、さらに言えばミノルの友達というだけで、登場人物は前置きなく「映画かよ。」の世界に溶け込めた。だが、非オタの美帆がメインになる話では、なぜ美帆がこの友達、恋人と一緒にいるのかという関係性の理由を、これまでのように伝家の宝刀である「オタクあるある」に頼れないため、見る側に納得させるように描かなくてはいけない。そういう外からの新たな視点が美帆に限らず、登場人物により深さを与えている。このシーズン3の見どころは、そこにあるのではないかと思う。

非オタの美帆と映画オタクの世莉はかつての恋敵
重度の映画オタクのアミと非オタの美帆は、なぜ親友なのか?

 当初、非オタの美帆の役割は、アミがただの映画オタクではなく、普通の友達もいて、交友関係が広いことをアピールすることだった。男に騙されやすく、猪突猛進型で、そのくせ一人では何もできない。だから「私が助けてあげないといけない」というアミ目線で語られてきた。だがシーズン3に入って、美帆目線の物語になったとき、行動力があり、気っ風のいい美帆というキャラクターが、逆になぜアミと親友なのか、ちょっと不自然にすら思えてくる。今回のように、かつて恋敵だった世莉に対して心を開いて助けようとする姿を見ると、これまでアミ目線で見ていた美帆像が当てはまらない。

 今回、アミは世莉への警戒を促しながらも、「友達がいないのではと」と、美帆を焚き付け、やはり美帆がメインのEp37「フランシス・ハ」でもアミは無神経な発言を美帆に向けていた。「こんな人だった?」と突っ込みたくなるほど、シーズン3に入ってからのアミの様子はおかしい。そのあたりを駒谷監督に突っ込むと、「オトが担ってたオタクの悪い部分がアミとミノルにちょっとずつ漏れ始めてるのかも。その辺は自虐でもあるので許してほしい」と答えたが、実にこんなところにオト不在の影響が出ている。

 シリアルキラーの疑いが軽減した(完全に疑いが晴れたわけではない)世莉が、またアミ、ミノル、映画オタクの面々の見え方が美帆の視点を通じてどう変わっていくのか。もちろん、アミと美帆の友情も移り変わっていくことになるだろう。シーズン3は、そういう楽しみ方ができる。

「映画かよ。」のリファレンス

【「映画かよ。」公式YouTubeサイト

「映画かよ。」ウィキペディア

駒谷監督はこんな人↓

駒谷揚監督インタビュー(Danro)

「映画かよ。」に関するレビュー↓

トリッチさんによる
カナリアクロニクル」でのレビュー

Hasecchoさんによる
「映画かよ。批評家Hasecchoが斬る。」
YouTube「映画かよ。」のコミュニティーページで展開

おりょうSNKさんによる
ポッドキャスト「旦那さんとお前さん」

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