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『AKIRA』同名称の地図から浮かび上がる架空都市のリアル ~なぜネオトーキョーには鉄道描写がない!?~

石川県金沢市の金沢建築館にて、アニメの背景美術に特化した企画展「アニメ背景美術に描かれた都市展」が11月19日(日)まで開催されている。

中でも注目を集めるのが、『AKIRA』の舞台となる架空都市「ネオトーキョー」と同名の、1959年(昭和34年)に作成された現実の都市計画プラン図だ。
今年10月10日にX(旧Twitter)上でこの地図を紹介した記事が2万イイネ以上を獲得し、バズっている。

筆者は、20年以上都市計画に携わっているが、1959年に作成されたこの地図(都市計画図)とそこから約30年後の1988年に公開された劇場アニメ『AKIRA』を見比べ、専門分野の観点から読み解いたところ、興味深いリアリティが浮かび上がった。

架空都市「ネオトーキョー」について、劇中で明言されていない都市誕生の歴史や世界設定が伺えると、考察し、報告する記事である。

『AKIRA』のファンはもちろん、アニメ作品の世界設定や背景美術がどのように読み解き可能なのか、ロケ地のない架空都市でも聖地巡礼を知るかのように楽しめるかを知りたい方にも是非、ご参照いただきたい。


1.地図紹介

まずは話題となった地図を紹介しよう。現実の地図と架空の都市描写との類似点・相違点を比較することで、そこからリアルが浮かび上がる。
以降では架空都市像を考察していく。

〇ネオトウキョウプラン図 (昭和34年)
産業計画会議 第7次勧告レコメンデーション
「東京湾2億坪埋め立てについての勧告」
IR電力中央研究所 Webサイト(PDF) 16ページより引用

https://criepi.denken.or.jp/intro/recom/recom_07.pdf?v2

ネオトウキョウプラン図 (昭和34年)産業計画会議 第7次勧告レコメンデーション


2.地図「ネオトウキョウプラン」と架空都市「ネオトーキョー」の類似点と相違点との考察
~そこから浮かび上がるリアル~

※地図「ネオトウキョウプラン」と架空都市「ネオトーキョー」は
※以降では、あえて区分するため名称を区分する。

(1)類似点

①都市(プロジェクト)の名称

産業計画会議が提出したネオトウキョウプランの資料は1959年(昭和34年)のものであり、アニメ映画『AKIRA』が公開された1988年(昭和63年)および原作漫画連載が開始された
1982年(昭和57年)以前のものである。
作品企画に要した年月を加味しても、前者が後者に影響を与えた可能性も考えられる。

②同規模の面積

都市計画プランは約6億6000万㎡を東京湾上に立地させる計画であり、東京23区の全面積約6億1900万㎡がすっぽりと収まる。両方とも東京23区規模の面積として類似している。

③中央配置される重要施設

面積に多少の違いはあるが、両者とも中央部は飛行場・ヘリポート、中央官庁施設、貿易センター等の重要施設が立地されている。

(2)相違点と考察

①都市を必要とする目的

都市計画の必要性が異なる。作中『AKIRA』では新型爆弾による爆発によって東京23区が壊滅し、代替が必要として東京湾にネオトーキョーが開発されたというストーリーだ。
現実のネオトウキョウプランは人口増加により拡大する都市の受け皿が必要として提案されている。必要とするはじまりのストーリーがそもそもの違いである。

新型爆弾による都市の破壊(真相は異なる)としてスタートし、首都機能となる新たな都市が早急に必要となったことが決定的な違いである。

『AKIRA』のネオトーキョーとは単に東京湾を埋め立てて造られた新しい都市ではなく、滅び去った東京23区約6億1900万㎡と同面積を立地させる「再現された街」なのではないのか? ということが窺える。
壊滅した旧都市部(荒野となった茶色の部分)とネオトーキョーの湾岸都市部を180度反転させて見比べると、ちょうどパズルのように同じ形になっていることが分かる。

②本土と連結する道路網

作中『AKIRA』では本土と連結する道路網が不規則かつ各箇所に散乱しており、現実的な都市計画を考慮すると機能的とは言いにくい。一方、現実のネオトウキョウプランは機能を考慮した循環型の道路網となっており、前者と比べると、本数が少なくスマートである。
  
ただし、ネオトーキョーの成立背景を考慮すれば『AKIRA』の描写に妥当性が無いとは言いきれない。東京23区の代替という猶予のない前提があるため、現実のネオトウキョウプランに比べ施工期間が短かったと考えられる。

『AKIRA』のネオトーキョーは設定上30年以内に都市として完成し活動している。一方で、実在する都市計画は建物含めて40~50年の整備期間は必要と想定される。(※日本最先発の埋立都市「神戸ポートアイランド」をモデルケースとして推定。)
工期を比較すると約40%程度短縮させたと考えられ、その早急さが伝わってくる。

東京23区を再現すべく、海上都市建造を急ピッチで進めた結果と考えれば、作中の粗造りな道路網の描写はむしろ妥当かつ現実的であり、説得力がある。

③鉄道機関の有無

『AKIRA』ではネオトーキョー全体図から鉄道網表記が見えない。また本作では鉄道の描写はない。現実のネオトウキョウプランは既存路線と連結すべく鉄道網が表記されている。

地下鉄については埋立地を深く掘削すると、地下海水が湧き出す懸念や地盤が安定しない懸念等があるためと推測される。また、鉄道については、東京23区が壊滅したことにより結節できる主要線路や駅がそもそもなく、列車本来の強みである長距離輸送が活かせないからではないかと推測される。

また、国家の一大事業とはいえ予算と資源には限りがあり、「選択と集中」を迫られたのではないかと。限られた予算と資源を運用するため、効率が活かせない鉄道機能を全てオミット(無視)したとも考えられる。

結果、鉄道がない都市背景の描写により、『AKIRA』は不良少年とバイクとの関係を印象的に際立たせた。そして、巨大都市の道路をバイクで疾走する爽快感を生み出したことは非常に魅力的である。

3.復興へとかけた情熱と知恵が夢を生み出し夢物語(アニメ)が生まれた


1946年の戦後から14年後の1959年(昭和34年)、復興へとかけた情熱と知恵から民間産業のトップ集団が新都市構想「ネオトウキョウプラン」という夢のような計画を国へ提案した。30年以上先を見据えての計画である。そして、約30年後にアニメ映画『AKIRA』という架空都市を舞台にした夢物語が生まれた。

いつの時代も復興にかける人の知恵と努力は凄まじいと知る資料である。
また、夢を描くということは、新たな夢物語を呼び寄せ、時には現実をも作り変える力があるということを知った。

4.おしまいに

アニメ背景美術に描かれた都市の展示は日本では今回がはじめての試みとのこと。背景美術と同時に実在する都市提案資料・建築資料を直接目にし、比較しながら鑑賞する展覧会は、海外でのみ開催実施されていた。
石川県「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」が最初の試みであり、国内での今後の予定は決まっていない。数少ない体験になるかもしれないので是非とも会期中に訪れることをオススメする。
 
なお、本展企画関係者に確認したところ、『AKIRA』の原作者である大友克洋氏が同作の執筆にあたってネオトウキョウプラン図を参照したかどうかは未確認だという。ただし、作者の意図はどうあれ、『AKIRA』が結果的に昭和の都市計画からつながる緻密かつ現実的な世界設定を有していることはここまで述べてきた通りである。

また、産業計画会議が作成した海洋都市構想の資料展示は本企画展が初であり、『AKIRA』の背景美術と見比べて作品世界の現実の歴史とのつながりを感じられる稀有な機会となっている。アニメファン、特に『AKIRA』のファンの方にはこの機会をぜひ活かしていただきたい。


展覧会の概要・休館情報などは下記公式サイトにてご参照いただきたい。
展覧会の概要については以下に

【公式HP】谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館 企画展「アニメ背景美術に描かれた都市」 

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