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一人コント台本|ゴーストライター




下手寄りに机、椅子

暗転板付き 椅子に座っている


L:全明転

M:シシおどし

原稿を書いている

頭をかきむしる

原稿用紙を丸めて棄てる

酒を飲む

机を叩くように酒を置く

人が来る

「…何しに来た?」

「…そこ座ってて」

「締切?わかってるよ、今書いてるだろう!」

「…ハァ」

振り向きながら、万年筆を持って立ち上がる

「…は?なんつった今?温泉入りました?入ってる場合か!アンタのためにこっちはこうやって温泉宿に籠りきりで寝ずに原稿書いてるんだよ!あ!?ゴーストライターに必要かって!?…ゴーストライターだけど!小生は雰囲気から入るタイプなのだ!!作家は温泉宿に籠るんだー!」

万年筆を相手に向ける

「これ?万年筆。うん。ゴーストライターに必要なのか?何で書いてもいいでしょ!雰囲気だよ!」

酒を飲み干す

「え?中身?さ、酒だよ。本当は?…デカビタ。なんか文豪ってこういうので酒に溺れながら書き上げそうだろ!?」

「デカビタとウイスキー色似てるじゃん!雰囲気なの!え?じゃあ、本当にウイスキー飲んでやって良いの?ダメでしょ!?」

「ゴーストライターなのに寝てないのも天才ぶってる?!…それは違う…本当は寝てる!」

「目も悪くないよ!伊達メガネ!作家は眼鏡!視力の良いゴーストライターは、なめられる!」

「…頼むから安心してくれ。先生。アンタの作品『光荘の殺人』もうちょっとで出来るから。自分のゴーストライターが籠ってる温泉旅館に編集者みたいに来て見張るの止めてくれ。気が散る」

M:スマホの電話

「はい。えぇ。あぁ。書き終わってる。後で送る、はい。」

「…。?え?あぁ、他の依頼の電話」

「…先生以外の仕事も受けてるよ。…内緒だぞ。本屋にある『聖書とディアゴスティーニ以外の本』は小生が書いてる。雑誌?あーたとえば。週刊文春って小生のペンネームだし。週刊文春って…小生の事よ」

「そんぐらいやらないとゴーストライターは食えねぇんだ」

「ん?今何時?あ!」

スマホをいじる

「危ない危ない。『密です…』これ?うん。都知事のアカウントでツイートしないとだめでさ。こういうのもしてる」

「ん!あ!その原稿見ちゃだめ!勝手に何してんだよ…。ワンピースの最終回…絵は違う。話だけ小生。うん」

机に向かう

「え?小生自身が書きたいもの?…ないよ」

「…子供の頃から文章を書くのだけは得意だった。人と話すのは苦手だけど、文章を書くのは誉められた。だから、アンタみたいに小説家になりたかった」

「でも、ないんだよ。書きたいお話も伝えたい気持ちも。…高校の時、友達が好きな女子が出来たって言うんだ。代わりに書いてやったんだ。ラブレター」

「そしたら二人が付き合えることになったんだよ。その時、嬉しかった」

「アイドル、俳優、スポーツ選手、政治家、社長、会長、そして才能が枯れた名のある小説家。ゴーストライターとして小生を頼ってくれてる人達がいるから。皆書けなくても伝えたい事があるんだよ。それ、手伝えたらいいんだよ」

「さ、書けたよ。先生。読んでみて。さ、小生は温泉行ってくるかぁ」

「ん?風呂上がりに一緒に酒?おごり?いいですねぇ…」

ノビをして

「でも…次の締切のコボちゃん書くー」

暗転c.o