とんじんち

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最近の記事

論文メモ 記紀神話における性器の描写―描かれたホトと描かれなかったハゼ―

深沢佳那子による論文。 問題設定女性器は記紀神話に幾度も登場する要素である。しかしその一方で、男性器が登場する神話というのは何故かひとつも存在しない。この不自然な差は何故生じたのであろうか。神話における性器描写について改めて描写したい。 要約イザナミがカグツチを生む説話、オホゲツヒメ・ウケモチ神の物語、ヤマトトヒモモソヒメの死にまつわる箸墓伝承、天岩屋戸神話におけるハタオリヒメ殺害の場面においては、ホトは「生」の象徴ではなく、女性の「死」のモチーフとして描かれている。ホト

    • 論文メモ アヂシキタカヒコネノカミはなぜ”大御神”なのか

      秋田巌による論文。 問題設定『古事記』において大御神の尊称が付与されている神は二柱しかいない。天照大御神と阿遅志貴日子根神である。天照とアヂシキタカヒコネノカミでは格が違いすぎ、アヂシキタカヒコネノカミが大御神とされるのは不思議なことである。しかし<1997年出版の神話辞典(大林太良、吉田敦彦監修『日本神話辞典』)にも記述があるように、その理由は分かっていない。 1997年以降の研究や、それ以前の研究についても渉猟が必要であり、今のところ大御神とされる根拠が示された文献を見

      • 論文メモ ツクヨミに関する一考察 : 三貴子の再考を通じて

        藤目乃理子による論文。 問題設定本論文では、『古事記』『日本書紀』に登場するアマテラス、ツクヨミ、スサノヲの三貴子をとりあげ、三貴子がどのように成立したのか、また、アマテラス、スサノヲに比べて活躍が少ないツクヨミという神が創作された意図はなにかを改めて考えてみたい。 要約『古事記』では三貴子はそれぞれの領域(アマテラスは高天原、ツクヨミは夜之食国、スサノヲは海原)の統治を任されたが、『日本書紀』ではアマテラスとツクヨミは天、スサノヲは根国に属する二対一の構造になっている。

        • 論文メモ 『十二類絵巻』 の主題 ―狸の描写、 鵄と仏教に着目して―

          梅田昌孝による論文。 問題設定『十二類絵巻』は一般に、室町期から江戸期にかけて制作された、いわゆる「お伽草子」と総称される作品群に分類される作品である。多くある諸伝本のうち、最古の巻本とされる旧堂本家本を底本として用い分析を行い、本作品が当時どのように読まれていたのか、ということを明らかにしたい。 要約網野善彦や小峰和明は、『十二類絵巻』を風刺の物語としてとらえる。対して勝俣隆はこれらに対し、本作品を「狸を主人公とした言葉遊びの戯作」と捉え、風刺は直接主題には結びつかない

        論文メモ 記紀神話における性器の描写―描かれたホトと描かれなかったハゼ―

          論文メモ 現代民俗学の課題

          古家信平による論文。 問題設定現代民俗学会発足に当たり、「現代民俗学」の課題について述べることにしたい。 要約戦後以降、民俗学はアカデミズムの中に地位を確立することを目指すようになった。 結果、戦前のある時期の民俗学は経世済民の学という性格を持っていたのに対して、20世紀の終わり頃には、実証科学に徹し全国からの資料収集と類型化による比較研究を方法とするものとなった。 福田アジオは民俗学はアカデミックな学問になるために形式を整え、「客観主義」に陥ったため、形骸化したとし

          論文メモ 現代民俗学の課題

          読書メモ 妖怪文化の変遷 ─江戸から明治へと移り行くなかで─

          湯本豪一による講演録。 2021年10月24日(日)に井上円了哲学センター開設記念講演会として東洋大学白山キャンパス125記念ホールで行われた講演の記録。 要約井上円了は仏教哲学者、教育者としてだけでなく、妖怪学の祖としても知られている。円了が活躍した時代は妖怪文化の激変期でもあった。 妖怪は自然に対する畏怖や心の不安などから想像を逞しくした人々によって想像されたといわれる。やがて人々は妖怪を視覚化して捉えようとし、妖怪絵が描かれるようになる。 土蜘蛛草子絵巻、付喪神

          読書メモ 妖怪文化の変遷 ─江戸から明治へと移り行くなかで─

          論文メモ 丹波村落と神社祭祀 : ミヤノトウとカブをめぐる民俗構造論序説

          八木透による論文。 問題設設定丹波地域には、ミヤノトウ(宮の当)あるいはキョウノトウ(経の当)などとよばれる当屋祭祀が見られる。 ミヤノトウとは、一年間の神社祭祀の世話をする者を指す。また、年末あるいは年始の当役の交代儀礼をも意味する。ミヤノトウは、通例では村人が毎年交代で勤め、その順序は年齢もしくは氏子入りの順に廻る。ミヤノトウを勤めることは、村人にとってハレ舞台であり、村落の構成員として生涯を全うするための通過儀礼であるともいえる。 丹波地域にはカブと称する同族集団

          論文メモ 丹波村落と神社祭祀 : ミヤノトウとカブをめぐる民俗構造論序説

          論文メモ 呪いの口伝え 春錦亭柳桜口演『四谷怪談』における巷説の表象

          斎藤喬による論文。 問題設定明治29年に出版された落語家春錦亭柳桜口演『四谷怪談』を対象に、その物語内部において「お岩の祟り」がどのように伝播しているかを考察する。 要約柳桜口演『四谷怪談』においてお岩の呪いの文句は人から人へと口伝えで広がっていく。そしてお岩の呪いが左門町中に知れ渡るに至っては、お岩の言葉を耳にしていなくても、彼女の呪いを知っているだけで祟りに巻き込まれる可能性があるため、左門町の登場人物たちはお岩から縁遠い者でも決して安心できない。そして寄席にて語られ

          論文メモ 呪いの口伝え 春錦亭柳桜口演『四谷怪談』における巷説の表象

          論文メモ 神功皇后をめぐる水の伝承と、その信仰 ―武雄温泉春まつりを中心に―

          福西大輔による論文。 問題設定八幡宮は日本に数万社あるといわれ、その八幡宮には応神天皇とともにその母神である神功皇后が祀られていることが多い。『古事記』や『日本書紀』などに見える三韓征伐やそれに際しての応神天皇の出産譚から、神功皇后は戦勝祈願の対象であり、産育祈願の対象としても知られる。  子どもにとっての産湯は、この世に来たばかりの赤ん坊の「あの世の汚れをも含めて赤ん坊にまつわる産穢のすべてを洗い流す」禊の水であると本田和子は言い、禊に使った産湯は穢れた存在だと認識されて

          論文メモ 神功皇后をめぐる水の伝承と、その信仰 ―武雄温泉春まつりを中心に―

          論文メモ 伊予八百八狸信仰における宗教文化的背景

          斎藤喬による論文。 問題設定伊予の「八百八狸」と阿波の「狸合戦」に登場する狸たちは、物語において憑依によって顕現し地域の神社で祀られ、今日まで信仰の対象になっている。興味深いのは、明治期に出版された講談の速記本が今日の信仰の拠り所となっている点である。 折口信夫が「信太妻の話」で竹田出雲の『芦屋道満大内鑑』を例に取って指摘するように、口承文芸や民間伝承の戯曲化が定本を生み出し、それが流布することによって創作自体が「伝説化」することがある。特に瀬戸内海沿岸部を念頭に置きながら

          論文メモ 伊予八百八狸信仰における宗教文化的背景

          明治期日本における精神医学と狸憑き

          斎藤喬による論文。 問題設定明治期日本における精神医学者の言説を参照しながら、徳島県下の狸憑きを個人の精神病理として診断する根拠について概観する。 要約明治33年(1900)に荒木蒼太郎が『岡山醫學會』第124号と125号に「徳島県下ノ犬神憑及ヒ狸憑ニ就キテ」を寄稿し、徳島の狸憑きに特化して報告する。そこでは先行研究として、島村俊一が『東京醫學會雜誌』に発表した「島根県下狐憑病取調調査」(1892)と島村の論文を受けて榊俶が『哲學雜誌』上で発表した「狐憑病に就て」(189

          明治期日本における精神医学と狸憑き

          論文メモ 新田猫の生成と展開 ―養蚕業の発達と新田岩松氏の貴種性―

          板橋春夫による論文。 問題設定「新田猫」と呼ばれる猫絵が近世後期に生成される要因と、明治以降も形を変えて展開する図像の持つ意義について検討・分析を試みる。 要約新田岩松氏が四代にわたって描いた猫絵は、「万次郎の猫絵」「八方にらみの猫」「新田様の猫」などと呼ばれた。本研究ではこれらの総称として「新田猫」を用いる。 新田猫は十八世紀後半に養蚕が盛んになると、鼠害に対する効能を期待されて、需要が急速に高まった。作者である新田岩松氏は「猫絵の殿様」と呼ばれるようになる。 新田

          論文メモ 新田猫の生成と展開 ―養蚕業の発達と新田岩松氏の貴種性―

          論文メモ 存在論的反転としての股のぞき (2021)

          廣田龍平による論文。 問題設定「身体技法」、なかでも一見して生理的な意味を持たない身体技法である「しぐさ」は、言語以外での文化分析を補完する物として位置付けることができ、言語とは別の行為、暴力や儀礼などの代替手段として実行される。本稿では身体技法のひとつ「股のぞき」を取り上げる。 股のぞきは断った状態で脚を大きく横に開き、腰を曲げて頭を両脚のあいだに下ろして後ろを見るという行為である。こうしたしぐさによって風景が変わって見えたり、普通とは異なるものが見えたりする。 「股のぞ

          論文メモ 存在論的反転としての股のぞき (2021)

          論文メモ 「不思議音」と「家鳴り(やなり)」の関係についての一考察

          横井雅之による論文。 問題設定「不思議音」とは、日本騒音制御工学会で制定された学術用語である。主に集合住宅に発生する発生源不明な音に適用される。一方こうした発生源不明な音は昔から「家鳴り」と名付けられ、妖怪が家をゆすり騒いで発生している音と言われて来た。この二つの関連性を明確にしようと試みた。 メモ「不思議音」は集合住宅の騒音・振動の苦情処理に関するものが多い。 「発生源がどこだか分からない音」が「不思議音」であり、発生源が分かると「不思議音」ではなくなる。 多くは熱

          論文メモ 「不思議音」と「家鳴り(やなり)」の関係についての一考察

          論文メモ 桃呪術の比較民俗学(1) ―日本の事例を中心として―

          桃崎祐輔による論文。 問題設定東洋の桃は、西洋における林檎と並び、その聖性が強調されてきた。日本においても『古事記』『日本書紀』の黄泉国神話や『桃太郎』などで桃の信仰や呪術の片鱗に触れることができる。桃の呪術・信仰が中国に源を発するであろう事は先行研究によって明らかになっているものの、そうした研究の多くは、桃を短絡的に道教的・神仙思想的なものと解釈する傾向にあった。安易な性格付与が実体の解明を妨げるという事態がある。本論文は、こうした現状の打開のため、研究学史上の問題点を明

          論文メモ 桃呪術の比較民俗学(1) ―日本の事例を中心として―

          論文メモ シャーマン=狩人としての動物 ――世間話における妖狐譚を構造分析する

          廣田龍平による論文。 問題設定近現代日本の説話について、民俗誌的な調査によって得られた民間説話というかたちで範囲を限定するならば、キツネの話の数は明らかに群を抜いて多い。事例は豊富ながら、キツネについての研究はそれほど進んでいない。これら宇宙論、存在論はどのような枠組みによって捉えるべきなのだろうか。ヒトと動物の関係性という観点から、妖力はどのように理解することができるのだろうか。こうした問いを、近年の文化人類学におけるアニミズム概念を応用し、アニミズムが支配的な国外の諸社

          論文メモ シャーマン=狩人としての動物 ――世間話における妖狐譚を構造分析する