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『コントが始まる』第1話 ぷよぷよが消えて、連鎖が始まる

『コントが始まる』第1話。菅田将暉と有村架純の最強コンビを使って大ヒット映画にあやかろうとしやがって、とか、お笑いを題材にして盛大にスベるところを見てやろう、とか、見る前は正直ナメきった態度だったのだが、あいみょんのエンディング曲が流れる頃にはボロボロ泣きながら、ハードディスクの録画予約を「毎週」に変更していました。前情報だけで穿った見方をしていた自分を反省します。以下、ネタバレありの感想と妄想。

ドラマは、菅田将暉演じる高岩春斗が所属するお笑いトリオ・マクベスのコントから始まる。「手に触れた水を全てメロンソーダに変えてしまう」という特異体質を持ったラーメン屋の店員とその雇い主である店長、そこへ訪れた「水のトラブル・スリーセブン」の社員が登場するコント「水のトラブル」。ぶっ飛んだ世界観と巧みな演技が、いまいち笑いに結びついていない、というリアルな「売れないお笑いトリオ」のコントが展開される。舞台上には簡易なラーメン屋のセットが設置されており、緑の丸椅子が4つ置かれている。マクベスは3人組なのに、なぜ4つの丸椅子を発注したのか。

そのコントを画面越しに真顔で観ているのは有村架純演じる中浜里穂子。ファミレスでアルバイトをしている彼女がマクベスとの出会いを回想する。

3人が初めて店に訪れたのは、店がオープンして3日目の、三日月の夜だった。

4人が出会ったのがオープン3日目の三日月(=欠けた月)の夜であったように、3人を巡る物語には欠落した数字としての「3」が付きまとう。神木隆之介演じる朝吹瞬太は高校時代「ぷよぷよ」のチャンピオンだった。「ぷよぷよ」というゲームは4つの「ぷよ」を揃えて消す落ちゲーである。そのことは仲野太賀演じる美濃輪潤平が「ぷよぷよ思い出すかぁ」と串に刺さった3つのつくねを見せることでさりげなく視聴者へ提示される。ぷよは4つ揃うと消える。3つだけだと、消えずに残り続ける。

「ぷよぷよ」のタイトルを聞いて真っ先に思い出したのは、先日、惜しまれながら終了したラジオ『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』のコーナー「ぷよぷよ連鎖ボイス」。近年稀に見る名コーナーだったので、未聴の方は是非、ラジオクラウドというアプリで過去のアーカイブを聞いてほしい。それはともかく、ラーメンを食べ終わった春斗が潤平の目を見て「相方お前しか考えられねえわ」と発したその瞬間、店主が麻婆丼を持ってくる。机の上には4つの丼が並ぶ。3つの丼が4つになる。

彼らは売れないまま活動を続け、それぞれの家族と約束した10年というタイムリミットが近づく中、最後のチャンスと賭けたネタ見せにも失敗し、衝動的に福岡のラーメン屋へラーメンを食べに行く。3人は「3回ずつ」替え玉をする。替え玉を3回ということは、食べたのは4玉。4なのに、3。

3人の10年間は、いつも何かが足りなかった。春斗と潤平が状況に苛立ち言い争う中、瞬太は「青のりあるよ」と立ち上がる。しかし、結局青のりは見つからない。どうしようもない空気が漂う。もし、青のりがあれば。もし、10年の約束が無ければ。もし、ネタ見せで受けていれば…。

中浜さんは、そんな後悔を抱える3人の前に現れた、4つめの「ぷよ」であり、青のりなのかもしれない。春斗が中浜さんに渡した水は、翌朝、メロンソーダになっていた。それは魔法でも呪いでもなく、粉末のメロンジュースのせいだった。青のりもメロンジュースの粉末も、単独では単なる緑の粉だ。水やお好み焼きと合わせて初めて意味を持つ。3つのぷよも、それだけでは意味を持たない。

ぷよが4つ揃った時、ゲームであれば跡形もなく消えてしまう。ということは、やはり3人の解散は避けられないのかもしれない。そういえば、結成を決めたラーメン屋の机に並んだ4つの丼も、「水のトラブル」のコントで舞台上に置かれた4つの丸椅子も、消える直前のぷよぷよのようだった。

でも思い出して欲しい。ぷよぷよが4つ揃って消えた時、周囲のぷよが影響を受け「連鎖」が起きることを。彼らのネタ作りの時間が、ファミレスでバイトしていた中浜さんの希望だったように。彼女が会社を辞めた日に持ち帰った緑の粉が、マクベスのコントを生み出したように。何かが終わる時、新しい連鎖ボイスが聞こえるのだ。このドラマは、そんな終わりと始まりの瞬間を描こうとしているのかもしれない。第1話、最後のモノローグは、そんな予感に満ちている。

あれが、私たちの始まりだったとは思いませんでした。

このドラマの中には、回収されないキーワードが消えないぷよのようにたくさん残っている。物語内で回収して、すっきり消してくれれば、カタルシスのある「伏線回収」になるかもしれない。でも、時にはこうして勝手に読み解きながら、ドラマと付き合っていくのも悪くないんじゃないだろうか。潤平に「伏線回収してんじゃねーよ」とツッコミを入れられるかもしれないけれど。

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