『コントが始まる』第5話 「笑わせる気あんのか」

「『コントが始まる』の感想を次週オンエアまでに毎週書く」誰から頼まれたわけでもなく、勝手に自分が自分へ課した義務だが、心が折れそうになっている。正直、このドラマ、いろいろキツいかもしれない。多少強引にでも、一話完結型で登場人物の葛藤に決着をつけてきたこのドラマであるが、第5話では、答えが出なかった。正確に言うと、もしかしたら出ているのかもしれないが、認めたくなかった。以下、褒めてるのか貶してるのか、自分でも未整理なままの感想です。

このドラマは「コント」をタイトルに入れながら、現代を生きるお笑い芸人としてマクベスを描く視点が欠如している。又吉直樹『火花』、吉川トリコ『夢で逢えたら』、大前粟生『おもろい以外いらんねん』といった、現代日本お笑い批評としての視点を持ちながら、青春小説として新たな答えを提示しようとしてきた先行作品と比較すると、このドラマで描かれるお笑いトリオ・マクベスの希望と絶望は、どこか絵空事に見える。

楽屋で喧嘩する先輩芸人、車の中で夢見る武道館での単独ライブ、バイト先で一般人から求められる一発ギャグ。どれも「お笑い芸人を描く物語」のステレオタイプでしかない。これは単に、作り手がその部分を掘り下げていないだけかもしれないが、結果的に誰かの作った物語に身を寄せるしかなかった3人の悲哀が見えてくる。春斗(菅田将暉)は「統廃合って言いたいだけだろ」と、どこかで聞いたことのあるようなフレーズでツッコミを入れる(武道館と聞いて「松風'95」が頭をよぎったはず)。結成当初から舞台でやっているコントのネタ合わせで台本を片手に持っているところからして、コントと真剣に向き合っているとは思えない。もしかしたら、このドラマの中での「コント」は、雀士やミュージシャン、ネイルがキレイなフードファイターなど、他の「やりたいこと」に置き換え可能なものでしかないのかもしれない。

元々、彼らは自発的に芸人を志したわけではなかった。真壁先生(鈴木浩介)の一言がなければ春斗は本気でコントをやろうなどとは考えなかったし、最初に潤平(仲野太賀)がコントをやったのは、奈津美(芳根京子)を振り向かせたかったからだ。瞬太(神木隆之介)はそんな2人の姿が輝いて見えたから、春斗に誘われるがままマクベスに加入した。

「高校を出てから何もやりたいことはなかったけど、何者かにはなりたいと思っている自分がいた」

つむぎ(古川琴音)のモノローグは、マクベスの3人とも重なる。この物語の登場人物たちは皆、「夢」や「やりたいこと」を早期から設定するよう教育を受けた世代である。(彼らの中学時代の教室には『13歳のハローワーク』が置かれていたことだろう)そのため、春斗の中に「人を笑わせたい」という気持ちは見えず、自己実現やプライドのためにマクベスを続けているように見える。だから、自分が「負けている」と感じている勇馬(浅香航大)からかけられた言葉「時間止まってんじゃねえの」は、重い言葉となって春斗に突き刺さる。

一方で、勇馬は自分の職場に部活の集合写真を置いている。高校時代で「時間止まって」いるのは彼も一緒なのかもしれない。そして、仕事を振ってくれた勇馬に「俺たちのことが下に見えたからだよ」と、一方的な言葉で心を閉ざす春斗。そんな春斗も、中浜さん(有村架純)から「私のこと見下してますよね」と問われる。このドラマの中で発されるセリフはハウリングのように、投げかけた相手ではなく自分自身のマイクに返ってきてしまう。(「着信履歴はね『心配してるよ』ってメッセージなんだよ」)

5話の中で春斗は、自分の世界に閉じこもり、他者への想像力を失ってしまっているように見える。ファミレスで周りの目も気にせず怒鳴りつけ、涙を流す姿は痛々しく映ったし、仕事終わりの中浜さんを呼び出しておいて、死んだ目でマクベスの解散を告げるのは、あまりに自己完結しすぎていないか。

瞬太は、かつてのマクベスを回想する。

「夢が叶わなくても幸せだった。夢を語り合える時間があれば」

「夢」に「死」と書いて、群がることを意味する「薨る(みまかる)」という言葉があるらしい。今週のマクベスは3人とも、死んだ夢に群がり、何かを見失っているように見えてしまった。ドラマは折り返し地点を過ぎている。ここから、3人が再びコントと、笑いと、他者と向き合うのか。それとも、閉じた世界でモラトリアムの終わりを美化するだけで終わっていくのか。後者なら、正直、そんな物語は見飽きているし、今まで彼らを追ってきたことも後悔してしまうかもしれない。

気持ちは離れながらも、このドラマを見限ることができないのは、この「いろんなことへの向き合えてなさ」自体を長〜い前振りにして、ひっくり返してくれるような展開を期待するからだ。第2話で春斗が瞬太に放った言葉「笑わせる気あんのか」という問いかけに、春斗自身が答えてくれると信じたい。答えを出すのは、もすこし先に、延長します。

参考文献:高部大問『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』

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