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『コントが始まる』第9話 「ジカンヨトマレ」

『コントが始まる』第9話。いよいよマクベスのラストライブが近づいてきた。毎週追いかけてきた3人とのお別れの時間が、すぐそこにまで来たかと思うと寂しい…いや、そうでもないのは、このドラマが1話からずっと“終わり”について物語っていたからかもしれない。マクベスの終わりを、彼らの次の人生の始まりを、早く見届けたいという気持ちが大きい。

「ジカンヨ トマレ」

恩田店長(明日海りお)の元恋人・カルロスが空を見て言った言葉は登場人物たちの思いに重なる。冒険王になる夢を語った瞬太(神木隆之介)や奈津美(芳根京子)の父親へ挨拶しに行く潤平(仲野太賀)と違って、春斗(菅田将暉)の時間は未だ止まったまま。就職を決めた兄・俊春(毎熊克哉)と、かつてマルチに勧誘された喫茶店で再会する春斗。兄は、マルチにハマったことで友達を全部失ったが、その中で最初に連絡してくれた友人の父親の会社への就職を決めた。「その友達が垂らしてくれた糸を必死で登ることしか今は考えていない」という兄に、「たったそれだけのことを働く理由にできるもんなの?」と問いかける春斗。兄は、自分の満足ではなく、周りの大切な人を満足させてみようと切り替えたと言う。

かつて春斗に「時間止まってんじゃねえの」と投げかけた小林勇馬(浅香航大)とマクベスがボギーパッドで再会する。瞬太は潤平が勇馬と会うと決めたことについて「春斗のこと喜ばせたかったんじゃない?」と推測するが、春斗は「自分のためだろ」と返す。春斗の中では、自分のためではなく、誰かのために何かを決めるということが、まだ掴めない。

かつて、マクベスが出産を見届けた太一(伊藤駿太)も、小学生になった。真壁先生(鈴木浩介)から誘われたバーベキューの場で、太一は春斗と瞬太に問いかける。「夢って追いかけない方がいいの?」。失敗した後、大変そうだから、と言う太一に「負けたってことが失敗したってことじゃないと思う」と返す瞬太を春斗が見る。中浜さん(有村架純)がつむぎ(古川琴音)に送った就職祝いはストップウォッチ。偶然にも、高校時代につむぎが使っていたものと同じだった。つむぎがストップウォッチを押し、時間が動き出す。バーベキューを続ける春斗と瞬太が語り合っている。瞬太は春斗に命を救われたことで「この人のために生きてみようかな」と思ったと言う。春斗も、誰かにとって人生を決めるに値する「周りの大切な人」だったのだ。

恩田店長が移転の決まった雀荘・赤まむしで大三元を揃え、「最後までありがとうございました」と礼を言う。大三元は白・發・中の三元牌全てを3枚ずつ集めることで成立する。公園でネタ合わせをしているマクベスの服は、白(瞬太)、緑(春斗)、赤(潤平)の3色で、三元牌と重なる。「3」では消えないぷよぷよのモチーフから始まったドラマが、「3」の数字を揃えて和了る大三元をマクベスの3人に重ねて終わる。

最終話のオンエア時間が迫ってきた。これまで挿入されてきたコントには笑い声は入っておらず、観客席が映ることもなかった。今回のコント「結婚の挨拶」の最後に春斗が叫んだ言葉「ご静聴いただき誠にありがとうございます!」は、劇中でコントを見届ける観客の存在を初めて意識させる言葉だった。マクベスの物語の結末を、あと数時間で見届けることになる。その時、春斗が選ぶ道はどのようなものだろう。「予言なんて口数が多い人ほど当たるもんなの」という良枝さん(松田ゆう姫)の言葉に甘えて言ってしまうが、自分の書いたネタを見てくれている人がいて、誰かの人生を動かしていることを知った春斗は、コントを続けるんじゃないのかなあ、と思わずにいられない。

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