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ユク・ホイ(許煜)さんの”宇宙技芸”と梅原猛さんの”天台本覚論”

香港の哲学者ユク・ホイさんに最近めちゃくちゃ注目していて、この方のおっしゃる”宇宙技芸”というワードに、不思議な表現だが、使命感のようなものを勝手に感じてしまっている。宇宙なんていうが、オカルトな話では全くない。ユク・ホイさんは日本だとゲンロンのイベントでお話されたり連載されていたりするし、雑誌『現代思想』なんかでも記事になっている。下記のゲンロンの記事なんかは、宇宙技芸の話をすごくしているわけではないが、氏の問題意識は伝わるのではないかと思う。

https://genron-alpha.com/article20200613_01/

https://genron-alpha.com/gb041_05/

私は研究者でもまして哲学者でもなく普通に働いて食っているオッサンで、仕事がらVRやらブロックチェーンやらといった最先端技術(と公共性について)を扱うわけだが、一方で関心は茶の湯、能楽、仏教(密教・禅)みたいな、いわゆる”日本文化”的なところにもある。仏教徒だし。そういった文化(宇宙観)と先端技術(と人文社会学を少々)を日々扱う立場から、ユク・ホイさんの”宇宙技芸”の話には興味を惹かれざるを得ない。

哲学者の梅原猛さんが「これからは東洋の知見・知恵が必要となる」というようなことをおっしゃっていたと思うのだが、晩年は能を中心とした研究に力を注がれ、最終的にはそこで取り上げられていた「天台本覚論」 〜山川草木悉皆成仏〜 あたりの話が、後の世代へヒントとして提示されたものだと思っている。

自分の中で天台本覚論的なものはその後モヤモヤっと宙に浮いてしまっていたのだが、ユク・ホイさんの”宇宙技芸”の話を知ったとき、自分の中で何かつながるかも知れないという感触があった。(ちなみに、ユク・ホイさんの宇宙技芸の話はハイデガーの話から始まることが多いのだが、梅原さんも元々ハイデガーやってた方なんだよね)


私は東浩紀さんに強く影響を受けているので、ある意味私の営みは東浩紀さんの思想の実践と言ってしまってもいいくらいなわけだが、今回ユク・ホイさんから”宇宙技芸”というさらに具体的なテーマを与えてもらったように感じている。(ゲンロンに足を向けて寝られない)

一方で私の周囲ではユヴァル・ノア・ハラリさんが引き続き流行ったりしていて(たぶん)、ハラリさんが瞑想を提唱?しているというのも面白い。結局瞑想ですか!?みたいな。禅宗の仏教徒として無視できない話である。ITジャーナリストの湯川鶴章さんなんかもTransTechと言われる瞑想関連最先端テクノロジーに注目していて、湯川さんの話を聞いていると、たしかにかなり注目すべきトピックだと思っている。世界に悟りがインストールされていくのかも知れない。

最近、臨済宗の中興の祖である白隠禅師のことを学んでいて、改めて思うのは、悟りは始まりに過ぎないのだろうなということだ(私は悟ってないのでわかったようなこと言えないのだが)。ちょうど今日正岡子規の話が話題に出たのだが、彼の残している言葉として「禅の悟りとは、いつでも、どこでも死ぬる覚悟ができることだと思っていたが、よく考えてみると、それは大変な誤りで、いかなる場合でも、平気で生きることであることがわかった。」という言葉があるそうだ。至極納得である。(とはいえ私は座禅や瞑想の手応えをなんだかんだまだ得られていない。読経の方が好きなんだよね。読経で悟りに至った人の話をもっと知りたい。高野山か比叡山で読経三昧でもしてこようかな。千宗屋さんみたいに。)


思えば2016年頃から私はすご〜くテックの世界から離れていて、元wired編集長で黒烏社の若林恵さんが常々指摘するように、2016年あたりを境にして「テクノロジーが世の中を良くするなんて嘘でしょ」という認識が広がってきたと思うが、それは私の仕事上の実体験・実感にも非常に重なった。テクノロジーによる破壊的イノベーションが世界にもたらしたのは、格差であった。そのからくりもよくわかった。そしてその後はテックから離れて茶や禅に没頭した、というような経緯がある。

しかしその後も継続してゲンロンや黒烏社からの情報に触れる中で、「だからこそテックと公共性についてちゃんと考えて実装する人間がいないとまずいんじゃないか」みたいな不遜なことを思うようになってきた。そして、ユク・ホイさんのヒントにより、そこに茶や禅、密教の要素を混ぜ込んで検討・実装していくことができそうな予感がしているのである。

あとは、宇宙技芸ってアフリカとかにも求められる発想というか枠組みだという予感があるんだよね。文化人類学系の方が注目されている部分もあるようだが、納得。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回このような日記を書くときは、ちょっと場所と立場を変えて書きたいなと思っています。

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