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「短編」ナンキンハゼの木の叔父さん。

「マネージャー。高浜さんの葬儀のことですが‥‥何とか言っていただけないですか?言いにくいのですが他のお客様からも苦情が来ている様で…」

「なら他のお客様に別の葬儀屋で行えば良いってつたえてくれないか?高浜さんは僕もたくさんの事を教わった方だ。あの人の葬儀は僕がクビになっても勤め上げるつもりだよ。」

高浜さんの葬儀には沢山の人が参列していた。
服はボロボロで髪はボサボサ。今夜寝るところも無いそんな人達が一同に会していた。

小さな祭壇に乗せられた沢山の茶封筒。
新聞紙で包まれた名前も分からない花の束。

そこに集まった参列者たちはどこから噂を聞いたかも分からないけれど、高浜さんの葬儀に集まっていた。

僕が高浜さんと出会ったのは僕が児童施設を出た18歳の夜のことだった。

親も分からず、僕は新居予定の小さなアパートを目指して、ネオン煌めく雑踏を歩いていた。

これから自分がどうなるのか?
これからどう生きていけばいいのかも分からずただただ歩いていた。

だいたい、75歳で死ぬとして後57年どう生きていこうか。そんな途方もない時間にただ絶望していた。

そんな時、ホームレスがダンボールに包まり眠っているのが目に止まった。

そしてそこへ黒のジャケットを羽織った60歳前後の叔父さんが声をかけに行っていた。

「これこれ、隆さんちゃんと着ないと夜は冷えるよ。ちゃんと毛布を着なさいよ」

叔父さんはそう言って毛布を肩までかけてあげていた。

ホームレスの叔父さんは目を覚まし、「分かったよ。」っと肩まで毛布を被り眠りについた。

「ほらっ。これ置いておくよ。でも、吸いすぎはいかんからね」っとポケットからHOPEを出すとホームレスの叔父さんの頭元に置いていた。

その紳士は立ち上がるとまたネオンの光が当たらない暗い道へと歩を進めた。

僕は何故か無性にその叔父さんが気になり自然と彼の後を追っていた。

路地裏には一言で言うならば陰の言葉にピッタリの暗く湿り気のある空気が漂っていた。

そこにいる人達の目つきは座っており、僕の想像していた不良っていう言葉より怖くビクビクしていたのを思い出した。

僕は地面に落ちているゴミを避けながら歩いていた為かいつの間にか叔父さんの姿を見失ってしまっていた。

引き返そうにもここが何処だか分からず僕は適当に歩いていた。

どんどんと暗くなる路地裏はさっきは人がまだ居たのにもういるのはジーンズの膝の部分が破け仰向けになりながら眠る老人や壁に向かい独り言を言っているおばあさんだけどなっていた。

僕はその時の不安な気持ちを今でも忘れない。

しかしその時である。

「こりゃこりゃ、坊主ここに来たらしげじーさんが眠れんだろうが」

っと後ろからあの叔父さんが声をかけて来てくれた。

「しげじいさんは、人見知りだからあーやって目は閉じてるけれど人の気配を感じていたら眠ることができないんじゃよ」

そう言って叔父さんはジーンズの破れたホームレスの元に行き、おにぎりを2つ頭元に置いていた。

その後、壁に話しかけるおばあさんの所に行き

「これこれ、誰に話しかけてるんだ。家はあっちだからお帰りよ」

っとおばあさんな体を優しく掴むと方向を変えてあげていた。

おばあさんはヨロヨロと歩きながら進んでいたが、途中のちょっとした段差に躓き転んでしまった。

「あら。マツさん大丈夫かね?ほれ、肩を掴め。家まで送ってやるわい。じゃーなしげさん。また来週くるからな。死ぬんじゃないぞ」

そう言うとおじさんは、おばあさんの歩みに合わせて暗い路地の中を歩き始めた。

「おい。坊主。帰り道が分からないなら着いておいでよ。」

叔父さんは僕の方へ振り向くとそう言ってまた歩き始めた。

僕は叔父さんの3歩後ろにぴったりくっつきくらい路地を歩いた。

少し人がまばらになる場所まで来ると、叔父さんに向かっていろんな人が声をかけていた。

「高浜さん。またマツさんのお世話かい?大変だね。」

叔父さんはニコニコしながら「なーにあんたの世話よりマツさんの世話の方が手がかからんで良いわい。」

叔父さんは揶揄う様に言うと「また、缶コーヒー持って来るから、一緒に茶でもしてくれよ」っと言い残し手をヒラヒラさせ別れを告げていた。

他にも沢山のホームレスの人は叔父さんを見るたびに声をかけていた。

マツのおばあさんを自宅まで届けると叔父さんは腰を伸ばし「いやー。昔はこんなんで腰など痛めていなかったが、歳かね」っと空を観ながら言っていた。

「坊主。名前は何て言うんだい。」

「健介っていいます。」

「なら健。お前早く帰らないと親が心配するぞ」

叔父さんは路地裏からネオンの輝く街へ歩きながら言った。

「僕は親がいないんだ。それで今日児童施設を出て新しく住む家に向かってる時に叔父さんを見かけて気になったからついていったら迷ってしまったんだ。」

「何だ。それでか。」

「叔父さんは何でこんな事してるの?」

僕は見たままの疑問を叔父さんにぶつけてみた。

「何でかってそらー皆が好きだからだよ」

それから叔父さんはタバコに火をつけて煙で輪っかを作った後続けた。

「健はあの人達の事どう思った?」

「正直言うと怖かったよ。お金とられたり殴られたりするんじゃないかと思った」

叔父さんはそれを聞いた後、携帯灰皿にタバコの灰を落とすとゲラゲラと笑いながら続けた。

「こらー皆に言ったらどんな顔するかね。見てみたいものだな。でもあの人達はそんな事はしねーよ。だって健が言ったような事をされて来た人間も中にはいるからな。人一倍優しい人達の集まりさ。それを不器用だから表現できない連中の集まりだよ。」

叔父さんはタバコの煙を消して自動販売機でお茶を買い僕に手渡してくれた。


「あの人達はナンキンハゼで鳴く蝉みたいなものさ。秋になって周りの蝉は死んでしまってひとりぼっちになってしまった人達さ。健はナンキンハゼは知ってるか?」

僕はお茶を飲みながら首を横に振ると

「ナンキンハゼってのは秋に真っ赤な葉をつけるだがそれが綺麗なハートの形をしているだ。あの人達はそれすら分からないくらい沢山鳴いて来た人達なんだよ。俺はあの人達にちっとでもその綺麗な葉っぱ拝める余裕ができればなっと思ってるんだ」

僕はその時この叔父さんがすごい人だと体の芯から感覚的にそう思えた。初めて人を尊敬したのはこの人が初めてであった。

「健。お前の住む住所は何処だ?送っていってやるよ。」

僕はスマホを取り出しマップを見せると叔父さんはあー。っと言い歩き始めた。

ネオンが眩しい街を叔父さんと僕は歩いた。
これが、僕と叔父さんの長い付き合いの最初の出会いである。


〜続く〜


-tano-


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