見出し画像

「ショートショート」天職活動


「この度はお忙しい中、面接のご機会を頂きまして、ありがとうございます。小林 若菜と申します。志望動機は、以前私の大好きな祖母が亡くなった時に来て頂いた天使の方々が不安になる祖母をしっかりとサポートし、天に連れて行って下さるのを見て、現世で天命を全うされた方の天国での新しい生活の為に全身全霊サポートさせて頂きたく、ご応募させて頂きました」

私は今回、50年1度行われると言われている、天使の採用試験に挑戦している。

かと言って、地球の求人広告に乗るわけでもなく、神様が選んだ人の夢枕に代理の人が直接伝えに来ると言う現世では考えれない様なアナログなヘッドハンティング方法を取っている様だ。

しかし、50年に1度と言う事もあって倍率は高い様で、今回は人員補充のため、2名採用する事になっており、それに対して4万名の応募が来ている様で、通過者だけに1週間以内に1次面接の案内を通知する。っと職務経歴書を出す白い案内鳩より知らされた。

っと言う事は通過しなかった人にはサイレントお祈りって事ね。実に神様らしい……それが、その時の私の感想だった。

そして、私は今、1次面接に臨んでいる。

「自己紹介して頂きありがとうございます。あっ。私、今回1次面接のご対応をさせて頂く、タダノテンシっと申します。まー、地球の会社で言う人事みたいなものですかね。今日はフランクな感じでお話しできればと思うしますので、宜しくお願いします」

タダノテンシさんはそう言うと、私が送った職務経歴書に目を通し、ふんふんっと読み始めた。

「ほー。広報の天使と会われた事があるんですか……」

「はい。15年前に祖母が亡くなった時に空から2名の天使様が現れて、祖母の手を掴んで登っていくところを拝見しました。その時にあっ。おばあちゃんは天国に行くんだ。なら凄く安心だって思えて、やはり、遺族の身からすると、大事な人が天国に旅立って貰うのが1番安心しますし、私自信、心がスッと軽くなったので、残された方にも、これから旅立つ方にも安心していただける様な天使になりたいと考えています」

「しっかりされたお考えですね。ふむふむ。でしたら、今回は広報をご希望されているんですか?」

「そうですね。希望としては広報ですが、自分の視野を広げる為にも様々な業務にチャレンジさせて頂ければと思います」

「ほうほう。私達の仕事は生きておられる方に私達を知っていて貰う事が最大のミッションとなってまして、そもそも知って頂かないと私達は存在できませんからね。なので、広報の仕事然り、他の業務も大切なのですよ。なので、私達としては、幅広くチャレンジしていただける方を探しております……。因みにですが……」

 そう言うとタダノテンシさんは頭に付いた輪っかをクイっと上げ、質問を続けた。

「Amazonの配達員をされていたそうですが、1日何件位配達していましたか?」

「季節によって上下するのですが、年間平均して、1日100件位だと思います」

「ほう。なかなかのご活躍ですね。なら、産まれるお子さんを母体に運ぶコウノトリ課でも活躍できそうですね」

「コウノトリ課ですか……御社の事業は本当に幅広いんですね……御社が私に可能性を感じて頂ければコウノトリ課で精進したいと考えているのですが、将来的に興味のある部署ができた場合は配属先の異動など可能なのですか?やはり様々な経験を積みたいと言う部分もありますので」

「そうですね。入社された方は初めはこちらで適性がある所に配属となって、基礎的な部分の経験を積んでもらい、その後は面談で希望の配属先に異動していく働き方をしている人が多いですね。ですので、小林さんおっしゃる様なキャリアビジョンを体現化する事は可能です」

「なるほど。」

そう答えると、タダノテンシさんは職務経歴書に目を落とし、細い目を大きく見開き興奮したのか、「Appleの倉庫にお勤めだったのですか?」っと聞いて来たので「はい。こちらの方が1番長く務めていました……」っと答えると、タダノテンシさんは目を輝かせながら、少しテンションが上がった様に声をあげた。

「なら、林檎にはお詳しいんですか?」

私は一瞬頭に疑問が浮かんだが、1週間に一度りんごを食べるくらい好きだし、何処の県がりんごで有名かくらいは知っていたので「まぁー好きなので、詳しい方だと思います」っと答えると、「本当ですか?」っとタダノテンシさんは両手で机を叩くと興奮した目で私を見て「あっ。失礼しました」っと背中から生える大きな翼を畳むと冷静になり、チョコンと椅子に腰掛けた。

「えーっと、因みにですが役員秘書にご興味はありませんか?」

「役員秘書ですか?秘書業務は経験ないのですが、どう言った業務になりますでしょうか?」

「そうですね……弊社役員にアダムとイブと言う役員がいるのですが、りんごが大好物で毎日りんごの事しか考えていない役員がいまして、まー簡単に言うと、2人への美味しいりんごの提供とアダムとイブの体系維持が主な業務になります。2人は現世では美しいで通っているのですが、放っておけばりんごばかり食べて太ってしまいますので、アダムとイブが満足いくりんごを提供するのと、2人の体系維持のための運動をマネジメントしていだたいてそれをマーケティング部に報告するって言うのが主な業務になります」

「それは、現世では考えれない面白そうな業務ですね」

「はい……ただ、お二人はりんごにかなりの執着心がありますので、多少のストレスは感じるかと思いますが、りんごに詳しい小林さんならやっていけるのではないと思います」

「ならば、是非御社に入社させて頂いた際はそちらの部署から挑戦させて頂ければと思います」

「分かりました。そうなりましたら、そちらの方で検討させて頂きますね」

 そう言うと、タダノテンシさんはメモを取り出し、書き込むと再度、職務経歴書に目を落とし、違う質問を始めた。

「直近では大手製菓会社で、お菓子を作ってたんですか?」

「はい。エンジェルパイを作っておりました」

「へー。エンジェルパイって因みにどんなお菓子になりますか?」

「そうですね。ふわふわのスポンジの中にクリームが入っていて、それをチョコレートでコーティングしたケーキの様なお菓子になります」

「ふむふむ。それは美味しそうですね」

そこには興味を示さなかったのか、タダノテンシさんは他業務の話を進めた。

「後、弊社は夢の中へ入って頂いて、現世で言うzoomの様な物を使用して、お坊さん等にアプローチを掛ける営業部や新しい思想を産み出す製品開発部等もあります。まっ、詳しい内容は後ろの机にパンフレットがありますので、面接後持ち帰って頂ければ弊社の取り組みを理解していただけると思いますよ」

「ありがとうございます。それでは1部持ち帰らせて貰います」

面接も佳境に入ったのか、タダノテンシさんは職務経歴書を丁寧に右に寄せると「入社時期はいつにいたしますか?」っと聞いてきた。

「そうですね……採用が決まり次第、今働いている所へ退職願を出しますので、最短ですと、採用から2ヶ月ほどお時間を頂ければと思うのですが……それ以降であれば御社の方針に従います」

そう答えると、タダノテンシさんは私の目線の上、おでこのあたりを見ながら「なるほど、では弊社の方針になりますが、採用となった場合は小林さんが、亡くなった時が最短の入社日になりますので、後……24年63日と4時間19分後になりますね」っと答えた。

「へ?」っと私がきょとんとすると、タダノテンシさんは続けた。

「小林さんの今のご年齢が45歳ですので、最短で69歳で入社となります。若手での採用になりますので、先輩天使も期待して育ててくれると思いますよ」

「っと言う事は私は69歳で亡くなるんですか?」

「はい。おっしゃる通りで、これからご結婚される旦那様に看取られるみたいですよ」

「そうですか……」

私は突然言われた余命宣告にショックを受けていると、タダノテンシさんはこれからの採用フローを説明しだした。

「これからの採用面接に関してですが、少しお時間を頂くことになります。大体、1年以内に今回の面接の結果を合否関係なく案内鳩を利用してお知らせ致します。2次面接に進まれる場合は日程などを記載致しますので、またこちらにお越しください。最後に何かご質問はありますか?」

「いえ。特にはないです」

「それでは、今回の面接は終了となります。遠い中来て頂きありがとうございました」

頭が真っ白になり「こちらこそありがとうございました」っと席を立つとタダノテンシさんは最後に「2次面接はエンジェルパイを持って来てくれたら嬉しいです」っと満面の笑みで私を送り出した。

そして、それからちょうど1年後、白い案内鳩は私に不採用通知を届けた。


おしまい

tano

この記事が参加している募集

私の作品紹介

読んで頂きありがとうございます🙇サポート頂いた金額に関しましては、お菓子おじさんの活動に使います!お菓子おじさんとは?と思われた方はnoteに説明ありますので、合わせて読んで頂けたらと思います🙇