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【読書メモ】『風景をつくるごはん』 真田 純子

読んだ。『風景をつくるごはん』

・農業の工業化により外部から仕入れた肥料を投入し、農作物を都市に持ち出すという、外からのエネルギーで支えられる農業システム」が普及した。肥料の供給源だった里山は手入れされなくなり荒れ果て、安定した形状の作物を供給するためF1種の種子が使われた。これらは一代限りのものなので毎回大手種苗会社(多くは海外企業)から購入しなければならなくなった。

・工業の発展により都市近郊の農地は工場や住宅に転用され、人口が増え続ける都市圏への食糧供給が課題になった。生産性向上のために単一品種の栽培が奨励され、田も長方形に整えられ、大量生産された作物を中央市場にまとめて卸し、そこから各地方の市場に流すような物流に変貌した。結局は物流コストがかさみ、農作物を消費者に安く提供することは困難であった。

・また、高度成長期には工業化のために農村の人口を減らす政策が取られた。大規模な農地を管理する自立経営農家を増やす目論見だったが、実際は農業外の所得の方が多い兼業農家が増えた。

・さらにスーパーマーケットの出現により、規格の統一化(選別コストがかかる)やセルフサービス(対面販売で作物についての情報をやり取りする関係性の断絶)という変化が起こった。ここに至って、作物の地域性や旬という考え方が消滅してしまった。

・メニューの大元を決めるのは私ではなく、土地と季節である。おそらくかつての暮らしはこうだったのだろう。こうした食生活は、自分の生活が環境と結びついていること、農産物は単なる「食品」ではなく「植物」であることを実感させてくれる。

・農業のありかたは農家が完全に自律的に決めているものではない。農家にとって農業=経済活動である以上、消費者との関係を抜きにして考えることはできない。

・都会の消費者は自分が食べたいものを食べ好きなように暮らしているのに、中山間地の人だけが現状維持のために「地域活性化」を強いられている状況に疑問を感じた。

・「自分のご飯がまわりまわって田舎の風景を作っている、そんなことを考えながら選んだごはん」を「風景をつくるごはん」と名付けた。

・農林水産省は景観法の中で、「良好な景観は地域の自然・歴史・文化などと人びとの生活、経済活動との調和により形成されるもの」としている。また「水とみどりの『美の里プラン』21」では、「自然の造形をベースに、気候風土に適した農業のかたちが生み出す風景」を「美しい風景」と定義している。

・前者の評価軸は「人本位」、後者は「環境本位」。この二種類の美しさは一致するのだろうか?社会の価値観や倫理観に左右される「人本位」の価値観は時代によって変わりやすい。持続可能な環境にとっての「環境本位」での美しい風景を目標にして、それをよしとするように「人本位」でも価値観を合わせていくことは可能である。

・EUの農村振興政策には「地域の環境に即した持続可能な方法での農業が良好な風景につながる」と書かれていた。その場にある限られた資源での暮らし方が、歴史や伝統ではなく未来に向けての持続可能的な価値として目が向けられている。

・上記政策をもとにイタリアで作られたPSN(農村振興のための国家戦略計画)では、風景が重視された。良質な風景とは、時間と場所における社会的・経済的・環境的要因の「幸せな統合」である、と定義づけられている。

・EUの農村振興政策では、生産される農作物・保全される環境や風景・地域性のある食などを観光資源として観光客を呼ぶこと、また地域の固有種などを使い環境負荷にも考慮した六次化産業の推進を支援している。

・イタリアに「アグリツーリズモ」という観光形態がある。農家の経営する農場や宿を利用しておこなう活動であるが、地産地消の食事の提供や地域の伝統的な手法で加工された農産物の提供もされる。ここでは観光は手段であり、農村における適切な観光の形を促進して農業を支えることが目的である。

・地域がよくなるように「ブランド化」を目指すのであれば、地域の環境や社会にとって「良い」といえるものを第一に考えて作り上げることが重要。①地域に良い影響を与える作物・農法を進めること ②その価値を発信すること ③その価値を理解してくれる人を増やすこと の3つのステップが必要になる。

・イタリアでは「テオトーリオ」という考え方が普及してきている。土地の持つ自然条件、あるいは大地の特質を活かしながら、そこを舞台に農業・牧畜・林業など多様な産業が営まれ、町や村には居住地ができ、農場や修道院が点在し、これらを結ぶ道のネットワークができる。そこに歴史や伝統が蓄積され、固有の景観が生まれてきた。こうした社会的・文化的なアイデンティティを共有する領域(地域)が「テオトーリオ」なのである。

・棚田や段畑では古来より石積みをする。現代ではコンクリートやモルタルで固められることもあるが、それによって生物の多様性が失われているという問題点がある。伝統的な石積みは構造計算ができないので行政から許可が下りにくい問題もある。海外では石積み建造物用の保険を掛けることでリスクを分散させて新規導入する事例も増えている。

・石積みのルールは ①2つ以上の石に力が掛かること ②石が背後の土を抑えるように後ろが低くなるように石を置くこと ③表面の「積み石」の後ろに「グリ石」と呼ばれる小さめの石の層を作ること。石にあわせて積み方の工夫が加わるが基本原理は同じ。地域の個性を発揮させるためには地域の石を使うことと、石をあまり加工しないことがポイントである。

・効率化や合理化を志向する政策の中で、その価値観からこのれた場所は「地方」として区分され、他者として意識されるようになる。なくなりかけていると同時に価値あるものとされ、保全の対象になっている。たとえば「小京都」や「民藝」など。その価値を、消滅の危機にある状況を放置したまま表層的に利用するのは「搾取」である。

・農業によってもたらされる風景や文化・国土保全などの多面的機能を「公共財」として社会的・政策的に位置づけ、環境に即した農業を推進し、それを基盤とした六次産業化で農村を持続可能なかたちで運営する必要がある。また、都市で暮らす人たちも農村の持続可能性に資する農産物を消費する(「風景をつくるごはん」を食べる)ように、地方との関係を結びなおすことが必要である。

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