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短編ファンタジー小説『夢のハワイ、ハワイの夢』#5ガイダンス(未発表原稿)

Fantasic Story(ゆめものがたり)『夢のハワイ、ハワイの夢』全6話
ブログ『tanpopost』に掲載していた記事を復刻版としてご紹介します。
この「#5ガイダンス」の記事は、2013年5月13日<よしなしごと外伝0395>の続編として掲載する予定だったものです。
しかし、何らかの事情でブログには発表されず、今回、ほぼ10年ぶりに、ハードディスクの奥に眠っていた下書きファイルの中から発見されました。
メディア初公開となる記事です。原本は少し長いので「#5ガイダンス」「#6アロイの祭り」の2話に分割して掲載します。

#5ガイダンス(未発表原稿)

ここはハワイ、「カミガム・ビジターセンター」。百畳の大広間。
カミガムの森ツアーのガイダンスが行われることになっている。

大広間の入口に立つと、正面の襖がすーっと左右に開く。自動ドアだ。
襖の左右の壁には一面に絵が描いてある。
ゴーギャンと狩野派をごちゃまぜにしたような、強烈な色彩と入り組んだ構図で描かれた、密林と谷川と熱帯の花と鳥と魚と獣たち。
奥は徳川将軍が謁見するような一段高くなったステージで、バックにどーんと金屏風がしつらえてある。舞台隅にカラオケセットがちらっと見えた。
金屏風にはパソコンの勘亭流の書体で1枚に1文字ずつ、大きく打ち出したA4用紙が貼り付けてあった。
平仮名で「う」「え」「る」「か」「む」。

受付を済ませると(なぜかチケットを持っていた)、ドリンクの引換ができる。ゴザのような丸い座布団が並べられている。
好きなところに座れと言われた。正面は嫌だ。できるだけ隅の方を選んで座る。あぐらをかくと膝が痛いので、立膝をつく。もらったジュースはぬるくてべたべたして甘くてまずい。

しばらくすると、先生に引率された外人の子供たち、たぶん小学生の集団が入ってきて、行儀よく一番ステージに近い場所に陣取った。
先生が、静かにするように、おやつはまだ食べてはいけない、というようなことを(もちろん英語で)注意している。

私と一緒のツアーバスだったおばさんの一人が、
「ねえ、あんたたち、どっから来たの?」と子供たちに聞いた。
「ヨコハマ!」
「あらそう、新横浜から乗ったの? 私は名古屋だぎゃね」
ヨコハマではなく、オクラホマだと思う。新横浜でもないと思うし新幹線で来たわけでもない、が・・、面倒なので口出しはしない。
どちらにせよ、どっちでもいいことだ。

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「ウエルカム・トゥ・カミガム!」
アナウンスと同時にいきなり場違いなファンファーレが鳴った。
部屋の明かりが消され、会場が暗くなるとパワーポイントのスライドショーによるガイダンスが始まる。

まず最初に島全体の地図が映る。
島の名はブワという。ちょうどウクレレを、胴体を上にして斜め45度くらいに傾けたような形。
カミガムの森は島の中央、大きなカルデラ盆地のほぼ真ん中あたり。
北端にあるのが、キブヌの滝。高さは約100m。「30階建てのビルくらい」だそうだ。

その滝よりも奥がクラム山地と呼ばれる急峻な岩山だ。
岩山の向こう、つまり島の北側はオバマの浜と呼ばれる。
「オバマ大統領一族出生の地と伝えられています」

一方、カミガムの森の南には、シムガムと呼ばれる平地がある。
カミガムからシムガムへ流れる川はモガム川という。
モガム川の流れ出る島の南側の海は、ヌチバの海・・。

スライド画面は、様々な原色の輝きで満たされる・・。ガイダンスが続く。
カミガムの森はハワイ先住民の聖地である。
が、何かシンボリックなものが、そこにあるわけではない。
木々があり、岩土があり、水があり、そして息吹がある。そういう地である。
やがて、鳥や魚や虫や獣が集まり、最後に人間がやってきた。
人間は神を欲した。ゆえにこの地は、神の地となった・・。


>>第6話『#6アロイの祭り(未発表原稿/最終話)』へつづく
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