「上書き保存」に見せかける女たち

「男は名前をつけて保存、女は上書き保存」とよく言うけど、私は女の割に名前をつけて保存している男が結構いる。

私は別にフェミニストでもなんでもないし、というか男は女よりやはり勇敢であるべきで、その威厳と力強さに女として全力で屈服させられたいと思っているような女なのだけど(性癖)そんな私でも、勝手に女は上書き保存などと言われこの性別に生まれただけで飽き性で薄情な生物扱いをされるのはちょっと納得がいかない。

そもそも「女は上書き保存だよな」なんて口に出す男がいい男だった試しがない。どうせお前も自分自身が名前をつけて保存している女に今や上書き保存されて自分の存在が無かったことにされているのが悔しいんだろ。

簡単に上書きされる程度の付き合いしかしてこなかったくせに。

私の周りだけではないと信じたいのだけど(類は友を呼ぶけど、類は必ず友であるとは限らないと思っているし)意外と女も過去の男とのアレコレを覚えていたりする。

あっここ◯年前に元カレと行ったな〜。元気にしてるかな
そういえばあの時付き合ってた彼氏はクリスマスに手紙をくれたな、嬉しかったな
あ〜それ昔のセフレも得意だったやつだわ〜やっぱめっちゃ気持ちいい最高〜

色々あれど、結構覚えてる。
そしてこの「元気にしてるかな」「嬉しかったな」「気持ちいい最高」の後に

「ちょっと連絡してみようかな」

となる人も意外と少なくはない。
なんともまあ最悪な流れだと思われても仕方ないのだけど、ちょっとした下心で昔の恋人やセフレや好きだった人に興味本位で連絡してみるのは性別関係なく誰でもやることだと私は思っている。

「ちょっとした下心」というのは恐ろしいもので、人生を劇的に変えてくれるわけではないが上手く使うことができれば数日くらいはドキドキしながら笑顔でいさせてくれるくらいの効能を持っているし、この快感に抗える人はなかなかいない気もする。

話は豪快に逸れたけど、by the way。
いい思い出なんて、あればあるほどいいに決まってる。
男だろうが女だろうが、楽しかったこととか幸せだったこと、自分に自信をくれた人とか、忘れられない褒め言葉をくれた人とか、そういう人との思い出は消そうと思っても消すことはできないし、新しいトキメキが訪れたとしても上書きされたり思い出せなくなったりすることはない。

結局上書きしたりされたりってのは、その程度の付き合いだったということの証明にしかならないよなと32年間生きてきた今、本当に思う。
そしてなぜ「女は上書き保存」なんて言われてしまうかと言ってしまえばそれはもう「女の方が切り替えが早いからそう見えている」に過ぎない。

これはもう女性の本能的な部分からきているとしか思えないのだけど、悲しいかな女性は「誰かとお別れした悲しみを引きずって余裕に浸っている暇がない」のだ。
ほんとは私たちだってあなた方のことを長い間引きずりたかったし、何週間も何ヶ月も泣き明かしてグダグダしたかった。そんな自分に酔いたかった。

私は女性は歳を取れば取るほど魅力的に成長していくと信じているし、自分自身そうなりたいと思っている。だけどやっぱり見た目だけではなく体の機能(セックスアピール的な意味ではなく、内臓的な意味合い)のことを考えるとやっぱり男性ほどのんびりしていることは出来ないよなとも思うし「若さ」というのはある意味で強烈な武器になるのだろう。

だから、ほんとはグズグズしていたかったししばらく塞ぎ込んで屍のような姿で朝を迎える生活を続けたかったけど、みんなそんな暇はなかったのだ。「歳を取る」ということに対してあまりにも大きすぎる危機感を抱えているから。
そして、この「危機感」が無い男性(責めているわけではない)にとってはこんな女性のことが大層冷淡で薄情な生き物に見えているのだろうなと思う。というか私が男性だったら普通に引く。

どんなに医学が進歩しても女性は男性としか血縁関係のある「我が子」を作ることはできないし、きっとこれから先世の中に相当なことが起こらない限り、子どもを産むのは半永久的に女性側。それはきっと変わらないと思う。身籠もり、自分の身体の中で十月十日、胎児を守り無事に出産を終えるために身を削るのはどう頑張ったって女性の方だ。身体的ダメージを考えれば体力的に余裕がある若い内に出産した方がいいに決まっている。つまりどんなに苦しくても泣きたくても、それでも1日でも若い内に、「次」を「見つけなくてはならない」。

これからの人生、今日が一番若いのだから。

この大きすぎるストレスを乗り越えようと奮闘できる女性は本当に強い。

私は数年前に「子どもを持つ」という選択肢を人生設計の重要項目から外した。子どもが極端に嫌いだとかそういうことではないし私も数年前までは自分の子どもを産んで育てるという人生プランを考えていなかったわけではない。ただ、「私にはきっと難しいな」と思うことが年を重ねる度にどんどん増えていった。どうしてそうなったのかは長くなりすぎる上に今回の記事のテーマとはあまり関係がないので今回は割愛させて頂きまた改めて書こうと思う。

その日から私は「歳を取る」ことに対する恐怖心からある程度解放された。(完全に解放されたわけではない)
好きだった男、終わった恋、手のひらからすり抜けていった幸せ。あったかもしれない未来を思い描いてはセンチメンタルな気分になったり楽しかったことを思い出して笑ったり、時に泣いたり、ひとつひとつの記憶を脳みその皺にこすりつける時間を人よりも多く持った気がする。
「名前を付けて保存」している男が人よりも少し多いというのはただの結果論で、そこに時間を割くことを選ぶか選ばないか、選べるか選べないか、ただそれだけなんだと私は思う。

女性同士で飲み会を開くと大抵昔の男の話になるし、その時に「誰一人のことも何一つとして私は過去のことを覚えておりません」という人はまずいない。
みんな結局忘れたくないことは必然的に覚えているものなのだ。当たり前のように覚えてますよ。ええ。
女は上書き保存だなんて笑わせてくれる。

ちなみに私は2年付き合った元カレの名前の漢字がどうしても思い出せません。


ありがとうございました。

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