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改めて知る 「信楽タヌキ」って何? 【第2回 タヌキの歴史は変化(へんげ)の歴史!】

タヌキの歴史は「変化(へんげ)」の歴史!


いきなりですが!

「信楽タヌキ」の歴史がどれほどのものか、ご存じだろうか。

実は「信楽タヌキ」の成立はおよそ100年前。明治初期から作られ始めたと焼き物であるという。
意外にも、歴史が浅く感じられるのではないだろうか。

しかし、その歴史の中でも「信楽タヌキ」は大きく変化してきた。
それはもう、これでもかというほどに変化してきたのである。

最初期の頃のタヌキ。こわひ

今回はそんな「信楽タヌキ」の歴史を紹介していく。

以前、『やきもの たぬきのルーツ図録』など「信楽タヌキ」に関する書籍を複数出版されている冨増純一氏にお話を伺った。
その際に冨増氏は、「信楽タヌキ」の歴史的変化は「売れるための工夫によるもの」であると語られていた。 

タヌキは作品であると同時に売り物である。
自身を売るために工夫を凝らし、ときに姿を、ときに製法を、ときに自身の意味合いをも変化させてきたのだ。

つまり、タヌキの歴史は変化(へんげ)の歴史!


そこで今回はいくつかの「変化」を軸にして、「信楽タヌキ」の歴史を皆様に紹介していきたい。

(なお、タヌキの歴史に関しては冨増純一氏・中村禎里氏の研究および書籍を参考に紹介させていただきたい)


1.タヌキの置物はいつから?
2.変化①「信楽タヌキ」の登場
3.変化②「信楽タヌキ」スタイルの流行
4.変化③「信楽タヌキ」の転機
5.変化④「信楽タヌキ」の大量生産と多様化


1.タヌキの置物はいつから?

江戸時代から存在?
そもそも、タヌキの置物自体はいつから存在していたのだろうか。
文献によれば、どうやら江戸時代後期にはすでに存在していたという。
当時どのように用いられていたかははっきりとしないが、タヌキを店頭に置く文化や風習はなかった可能性が高い。

当初は今とは大きく異なる姿をしていた
この時代のタヌキは現在の「信楽タヌキ」とは大きく異なる姿をしていた。
傘も徳利もキンタマもなく、多くは武士や修行僧の格好をしている。また、現在と比べると体型もスリムで、動物的な顔をしている。
動物のタヌキ、あるいは妖怪としてのタヌキを想起させる、野性的な姿である。

2.変化①「信楽タヌキ」の登場

「信楽タヌキ」スタイルはおよそ100年前に成立
では一体いつから、笠や徳利、キンタマを備えた「信楽タヌキ」スタイルのタヌキに「变化」していったのだろか。

「信楽タヌキ」スタイルのタヌキは、一般に明治時代後期、1900年代の初頭に作られ始めたといわれている。
 制作者は藤原銕造とされており、後に狸庵を名乗る人物である。 

 彼は藤原銕造は清水での修行中にタヌキを制作し始める。(最初に作られたのは信楽ではなかった!)
その後、信楽へ移り住み「たぬきや」という店を開いた。タヌキの焼き物の専門店であり、のちにこの店は自身の名と同じ「狸庵」という名前に改められる。

ちなみに狸庵という屋号は受け継がれ、現在は3代目が店を継いでいる。

なんで笠やキンタマ?
少し話は戻るが、なぜ「信楽タヌキ」は現在のような姿になったのだろう。
なぜ笠を被り、徳利や通帳を持ち、キンタマをぶら下げているのだろうか。

実は、その理由はいまだはっきりわかってない。それぞれの意匠のモチーフは江戸時代の絵画にあるといわれているが、そのルーツには諸説ある。

様々な説の中の一つを紹介すると、江戸時代には「酒買い小僧」なる文化があったという。酒が足りないとき、和尚の代わりに小僧が酒を買いに行く。そしてその際、徳利と通帳を酒屋に持っていくのである。

この酒買い小僧の姿が、タヌキの置物に取り入れられた可能性が高い。実際、1900年代前半の一部の地域では、このタヌキを「酒買い小僧タヌキ」と読んでいたというのである。

しばし、「信楽タヌキ」の美をお楽しみください

3.変化②「信楽タヌキ」スタイルの流行

「信楽タヌキ」スタイルの定着
 なぜ「信楽タヌキ」スタイルのタヌキが、現在の「タヌキの置物」の主流になったのかについても疑問が浮かばないだろうか。

冨増氏の文献によれば、きっかけは1900年代前半に鐵造が収めた京都の料亭「一休庵」のタヌキにあったという。

このタヌキは「福徳狸」と呼ばれ有名になったが、その姿は徳利、笠、キンタマ等を備えた現在の「信楽タヌキ」スタイルだった。

このタヌキの人気がきっかけで「信楽タヌキ」スタイルのタヌキが流行、他の作家も同様のタヌキを作るようになり、現在の「信楽タヌキ」の主流になったということである。

信楽以外のタヌキ
ちなみに、当時は信楽以外の焼き物産地でもタヌキは作られていた。
例えば備前、常滑、清水などが挙げられる。

まだ「信楽タヌキ」のイメージや製法が確立されていなかった時代。当時は産地によって、職人によってタヌキの表情や作り方が大きく異なっている。
古めかしいタヌキを見かけたとき、「これはどこのタヌキだろう」と想像を膨らませるのも面白い。

ただし、キンタマは膨らませてはいけない

4.変化③「信楽タヌキ」の転機

全国的知名度の獲得へ…
「福徳狸」の影響もあり、昭和初期にもなると「信楽タヌキ」は関西の中である程度の知名度を獲得していた。一方で、いまだ全国までは知られていないローカルな置物であったという。

しかし、この後タヌキは全国的に有名な存在へと「変化」していく

1950年代は「信楽タヌキ」の大きな転機
転機は、戦後の1950年代に訪れた。
昭和天皇が信楽へ巡幸された際、信楽町は銕造のタヌキをずらりと並べて天皇をもてなしたのである。
この様子が新聞に掲載、さらにその後昭和天皇が「信楽タヌキ」を愛でた詩までも載せられたことから、「信楽タヌキ」は全国的に有名になっていた。

タヌキに訪れた「変化」と「後付」
以降、「信楽タヌキ」は全国へ売り出されるようになっていく。
しかし、そこでタヌキ自身にもいくつかの変化が生じることになる。

このときから、「信楽タヌキ」が明確に「縁起物」として売り出されるようになったのである。

「信楽タヌキ」について多少知っている方であれば、「いや、「信楽タヌキ」は商売繁盛の縁起物でしょ」と考えるかもしれない。

その、「縁起物」というものはこの時代に後付されたものなのである。
(以前からタヌキを置いたら客が増えた、怖がって空き巣が逃げ出した、など購買者から縁起物として扱われることはあったというが)

冒頭で述べたとおり、タヌキは作品であると同時に売り物である。売り物であるからには皆に買ってもらわねばならない。
そこでこの時代に、「タヌキのキンタマや徳利は実は縁起のよさを示してるんだよ!」という「八相縁起」の考え方が産み出され、タヌキは特に商売繁盛をもたらす「縁起物」として大々的に売り出されていくことになる。

「信楽タヌキ」の縁起のよさは、50年代に付与されたものだったのだ。

(この時代に生じた姿形や製法の変化については、次回の投稿で詳しく紹介したい! 次回に!)

縁起良さそうなやつだいたい友達

5.変化④「信楽タヌキ」の大量生産と多様化

信楽町のシンボルへと変化した「信楽タヌキ」
そんなこんなで、現在。「信楽タヌキ」は信楽町のシンボルとして扱われるようになり、大量生産されるようになった。

信楽町を訪ねてみると、これでもかというほどタヌキが並ぶ。右も左も上も下もタヌキな町並みは、圧巻の一言に尽きる。
(ちなみに信楽の焼き物屋では、「店の外にタヌキを並べないと客が来なくなる」というジンクスがあるという)

束になってかかられたら勝てない

「信楽タヌキ」の姿の多様化
そして現在に至るまでの間に、「信楽タヌキ」はとにかくバリエーションが豊富になった。
徳利の代わりにマイクやゴルフクラブを持ったり、笠の代わりに帽子を被ったり、力士や七福神の姿をしたり・・・

もはや、タヌキの歩みを止められるものはいない。

「縁起物」としての意味合いの多様化
また、「縁起物」としての意味合いも広く解釈されるようになった。
夫婦タヌキやサッカータヌキなど、家庭向けとも取れるタヌキが生み出されていった結果か、結婚祝いや引っ越し祝いなどにもタヌキは贈られるようになったという。

現在もなお、タヌキは「売れるための変化」を続けているのだろう。

「俺、タヌキになっちゃったよ!」「ハッピーバースデイ、タヌキ」


以上、「タヌキの変化(へんげ)」という視点から、「信楽タヌキ」の歴史について紹介した。

次回は第三回。
歴史の中で「信楽タヌキ」の姿はどのように変化してきたのか、製法はどのように発展していったのか、そしてどれほどのバリエーションがあるのか等、「信楽タヌキ」の姿の変化(へんげ)に焦点を当てていきたい。

「信楽タヌキ」にバリエーションが豊富なこと、そもそも大きさや表情がさまざまであることを知らないという方は少なくない。

そんな方々にも、ぜひ「信楽タヌキ」の魅力を伝えていければ幸いである。


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参考・引用文献
冨増純一 2001 「信楽焼古たぬきのやきもの図録」 信楽狸学会
冨増純一 2013 「やきもの たぬきのルーツ図録」 信楽陶器卸商業協同組合
中村禎里 1990『狸とその世界』 朝日選書

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けいおうタヌキ研究所

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