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1冊でゼロから達人になる「書く力」の教室(直塚大成 田中秦延 著)を読んで

〇直塚さんの文章への拒否感がこの本を買わせた。

 最初は正直この本を買う気はなかった。興味はあったが、そのうち読めばいいかなと思っていた。そこで以下のような文章を読んだことで気分が変わった。この文章は『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』刊行記念トークイベント 古賀史健×田中泰延×二重作拓也「『言葉の身体性』とは何か?」のイベントリポートだ。ちなみに私も同イベントに参加した。

https://note.com/fly_taiyaki/n/n1bfb2ab01a65

 今回この本で「書く力」を教わる生徒として参加されている方のnoteだ。申し訳ないが初見で最後まで読めなかった。前書きが長すぎて、本編始まらんやんけと思ったのだ。誤解してほしくないが文章として間違いがあるとか、内容がそもそも面白くないではないのだ。単純に登壇者3人の説明が長い。コスタリカの人出てきた。よって、私の第一印象は、これ1年間のトレーニング後の文章にしては読みづらくないかというものだった。逆にどんなトレーニングを受けたら、イベントの話にたどり着くまでにこれだけの文章を書くことになるのかに興味が出た。 

〇この本はどんな本?

 この本は、「書く前」に知っておくべきこと、取材・構想、調べる・人に会う・執筆する、ライターになってしまったという形で進んでいく。実際の直塚さんの文章が添削を受けていく過程はおもしろく、磨き上げられた文章が格段に読みやすくなっていくのが印象的だった。

〇世界で4番目に学ぶことが多い私

 本を読んでみての最初の感想は、自分は世界で4番目にこの本から学ぶことが多い人だなということだ。1番目は直塚大成さん、2番目は田中泰延さん、3番目はこの本の担当編集であるSBクリエイティブの小倉碧さん、そして4番目が私だ。

 なぜそう言えるとかいうと、読む前に先生役の田中さんの仕事を間近で見ることができたからだ。最初に書いた直塚さんがレポートしていたトークイベントは、田中さんが司会進行盛り上げ役を担当しておられた。その手法は、この本で書かれていたインタビュー方法そのままだったのだ。

 そのトークイベントの中で田中さんは、自分は頭の中で文章が出来上がってそれをそのまま書くとおっしゃっていた。そんな天才みたい人が文章の書き方の本なんか書かれても参考にならんだろと、聞いた時は思ったものだった。しかし、それは大きな構成をつくり、見出しを付け、文章全体の盛り上げを意識して、まとめあげるという行為が終わって文章として一気にまとめるということだったのだ。

 トークイベントで田中さんの持っていた二重作さんの著書には、たくさんの黄色い付箋が挟まっていた。それは、田中さんが文章のこの部分がよかったというところをおさえていたのだった。そして、自分がこの文章のこの部分がよかったという形で紹介し、司会進行を行っていた。本著の中の「どこに自分が感動して、何を聞こうとしているのか」(162ページより抜粋)部分の、インタビューでどうすればいい対談ができるかの具体例を見ることができた。

 トークイベント中、明らかにイベントの内容を明るくする楽しい脱線を繰り返していた。自身のトークイベントの感想を書いた際はそのほとんどを省略した。しかし、今回のイベントが楽しく進んだ理由は、田中さんのその楽しい脱線が大きかったのは間違いない。田中さんの文章の型として、前半に思いっきりふざけて、最後にきれいに着地させるというパターンがある。トークイベントでも話を思いっきりかき回した後、この本のこの部分が好きだったと話していた。「読みたいことを書けばいい」も同じ型をテーマごとに繰り返し行っていた。田中さんの黄金パターンをまざまざと見せつけられたわけだ。

 このように一見無軌道な楽しいトークライブが行われていたように見えるが、各所がそれでも面白く破綻しない理由がきれいに本著の中に書かれていたのだ。この文章がオープンになる頃には、有料のトークイベントのアーカイブが消された後になる。だから、田中さんの素晴らしい仕事ぶり(本著の内容とトークイベントというインタビューのリンク)を思う存分味わえたのは私だけということになる。そのタイミングの良さから、私は世界で4番目にこの本から学ぶことが多い人だと感じたわけだ。

〇読後の感想

 本著を読んだ後、最初に紹介した直塚さんの文章を最後まで読んだ。最初にたどり着けなかった後半部分には、彼の筆が乗った感じを味わうことができたし、イベントのライブ感もあった。彼は間違いなくこの本の1年間を通じて成長をしていたのだ。

 では、私にとってこの本はどうだったのか。田中泰延さんというコンテンツの深みと面白さを立体的に感じられた。田中さんがコンテンツをどういう風に作り、何を大事にしているかが立体的に見えた。田中さんは一見すると(SNSで流れてくる印象だと)、とても愉快な人だ。しかし、その背景には仕事として書くとはどういうことか、読ませる文章になっているかという強い意識がある。あえてべたなギャグをかましながら脱線し、ただ本筋を見失わない。ライブでしか生まれないやり取りにこそ、素晴らしい文章の種があると考えている。しっかり仕事全般をくみ上げていくタイプでありながら、その苦労よりも楽しさを表に出す。そんな明るくデキる仕事人田中泰延をおなか一杯感じることができた。

 ちょっと待て。せっかく「書く力」を学ぶ本を読んだのに、このままだと私の文章はうまくなっていないのではないか?安心してくれ。私は今回の文章を書くにあたってこの本にならい見出しをつけた。きっと読みやすくなっている。もし、文章が読みやすくなっていなければ、私も田中さんに弟子入りするしかあるまい。


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