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古民家で輝きだしたモノ

引っ越す前から、なんとなく可愛くて、とっておいた空き瓶がある。長細い長方形の瓶で、口の部分が狭まっていて口にはキャップがついていたらしきギザギザがある。調味料か何かが入っていたのか、今となっては何の瓶だったのかもう思い出せない。

一輪挿しにでもしようと思って取っておいたのだけど、ろくに使わないままだった。その、いつゴミになってもおかしくない空き瓶を、私は律儀に引っ越し先の古民家にもってきた。

引っ越して間もない頃(これ執筆中もまだ引っ越して間もないのだけど)、散歩中に彼氏がススキをもぎり取って、それをその空き瓶に入れた。なかなか趣がある。数年間、押し入れに眠っているだけだった空き瓶は、築75年の古民家で“インテリア雑貨”に生まれ変わった。

空き瓶だけではない。まれにしか出番のなかった、スリーコインズで買った花瓶、自作で彫刻を施した鎌倉彫(習っている)の飾り皿やお盆、前の家ではなんだかミスマッチで引き出しに眠っていた『和樂』の付録の日本画カレンダー、彼氏の壊れたアンティークカメラ……。

白い壁とフローリングの必要最低限のスペースしかないマンションで行き場のなかった物たちが、古民家では居場所を得て、住まいの彩りとなっている。

日本には数えきれないほどの工芸品があるにも関わらず、プラスチック製品や大量生産品に押されてしまっているのは、“安い”ことも大きな理由だが、現代の住宅の多くが、機能性重視の無駄を省いた設計で飾るスペースがないこと、コンクリートやピカピカのフローリングなど日本の工芸品に不釣り合いということが大きな要因なのではないか。その証拠にインテリアになど興味がないような顔をしていた彼が、嬉々としてアンティークの振り子時計を購入し、花を飾りたいだの床の間に飾る掛け軸がほしいだの言い出した。先日も作家物の陶器の一輪挿しを購入したばかりだ。

古い家は工芸品がとても馴染む。それから床の間や、縁側や廊下などのちょっとしたスペースに、花や工芸品を飾ることができるようになっている。というか、飾ることができるというより、飾るためのスペースで、猛烈に「何か素敵なものを飾りたい」と思わせてくれるのだ。しかし現代の住宅では廊下や縁側自体がない家も多い。古民家の床の間や廊下、縁側、それらのお飾りスペースは、時代が進むにつれて排除されていく“ゆとり”を象徴しているなぁ、なんてことを考えた。

続く

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