君は僕の友だちだから
最近『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読みました。英国の格差社会で生きるということ、頭の中で想像するよりずっと過酷なものでした。それでもこの本には生き抜く知恵と、現実を見つめて前向きに進もうとする意志が感じられ、読んでるうちに自分の中に何か大事なものが育つような不思議な感覚がありました。
その気持ちを書いておこうと思います。ずうっと忘れないように。
◇
著者はブレイディみかこさん。英国の元底辺中学校に通うことになった息子の学校生活の様子を書き綴った本です。
印象的なエピソードがたくさんある中で、とりわけ私の心に残ったのは、ブレイディさんの息子が友人のティムに話すこの言葉です。
「友だちだから。君は僕の友だちだからだよ」
この本を読んだ方なら、あのエピソードだ… と分かってくれるはずです。
何度読んでもこのあと涙腺が崩壊してしまいます。自分の心に温かいものが広がってくるんです。不思議な気持ちです。
◇
このエピソードは、ブレイディさんが中古制服のリサイクル活動に参加した話のクライマックスにあたる部分です。
ブレイディさんの息子は、母親が修繕した制服をティムにあげたいのだけど、貧しい家庭の友人に何て切り出して渡せばいいかが分からない。
ティムのためを思ってすることが、かえって彼を傷つけてしまうかも。
誰だって仲のいい友人から施しなんて受けたくないはず。どれだけ言葉を選んで渡そうとしても、どこか言い訳めいて聞こえてしまう。
それでも家に帰るティムを引き止めて制服を渡すと、彼がこう聞きました。
「でも、どうして僕にくれるの?」
ティムは大きな緑色の瞳で息子を見ながら言った。
質問されているのは息子なのに、わたしのほうが彼の目に胸を射抜かれたような気分になって所在なく立っていると、息子が言った。
「友だちだから。君は僕の友だちだからだよ」
※ 続きは本でどうぞ ※
* * *
この言葉には驚かされました。おそらくブレイディさんの息子自身も、自分が発した言葉に驚いたのではないでしょうか。急に問いかけられ、用意した言い訳はどこかへ飛んでしまい、思わず口を突いて出たのが、嘘偽りのない心からの言葉だったからです。
どうやって答えるのかハラハラしながら読んでた私は、この飾り気のない真っ直ぐな答えに息をのみました。そうか、いやそうなんだよ。それがベストアンサーなんだ。
* * *
ここからは個人的な思いを書いていくことにします。
ずっと心に引っかかってることがありました。言いたくて言えなかったこと。私だけが抱えてる思いなのかな。
インターネットの黎明期から、ブログやmixiなどを経て、そしてこのnoteまで、匿名のネットの世界を生きてきました。それこそ20年以上です。
そのたびにいろんな人と出会い、別れ、それを繰り返してきました。
たくさんの人と出会って、そのたび知り合いや仲間はできるのに「友だち」と呼び合うことはできませんでした。リアルの世界とは違う見えない壁が、ネットにはあるように思えるのです。
いろんな人たちが集まるのがネットの世界です。年齢や性別も違えば、考え方や価値観もさまざま。友だちと呼ぶには、まずお互いがそう思わなければ…。でも相手がどう思ってるかなんて、本当のところは分からない。そう思うと その先の関係に進む勇気が私にはありませんでした。
◇
1年半前noteを始めたとき、私はnoteの持つ可能性にわくわくしました。
ここに人がいる!きっと私が出会いたい人たちがいる!
ゆっくりと時間をかけて、いろんな話をして、そうやって生まれた1対1のつながりは、私にとって何より大事なものになりました。リアルの世界では話せないことも、ここでなら話せる気がします。分かり合えるのが友だちなら、この関係はすでに友だちなのかもしれませんね。
◇
ブレイディさんの息子の言葉から、私はこんなことを思ったのです。
友だちなら、出来ることがある
手を差し伸べることができる、一緒に悩むことができる、励ますことができる、そして一緒に笑うことができる。
お互いがお互いを思うことで成り立つのが、友だちという関係です。
私はそんな関係を作ってこれたかな。
そうであったらいいな。 君は僕の友だちだから。
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