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黒蜜と遠雷

大学時代、ひとり暮らしをしていた。
ある日、買い物をしにアパートからスーパーに向かう途中、近所のたこ焼き屋の前を通ると「黒蜜さしあげ〼」という貼り紙と共にビニール袋に入った大量の個包装された黒蜜があった。気になった僕はお店のおばちゃんに「これは何ですか?」と聞いてみた。
するとおばちゃん曰く、テレビの通販でところてんが低カロリーでダイエットに良いと聞いて買ったのに、高カロリーな黒蜜が付属されていて、黒蜜だけ食べずに置いておいていたらいつのまにか大量に貯まっていたのだという。おばちゃんが不憫に思えたのと、タダなら病気以外なんでも貰う精神で、大量の黒蜜を譲り受けてしまった。
大量の黒蜜を手に入れた僕は、さっそくスーパーできな粉とレディーボーデンサイズの大容量のバニラアイスを買った。何を隠そうあの牛角アイスをセルフで作るためだ。牛角アイスは美味しい。黒蜜が大量にあるからには、作らずにはいられなかった。毎日夕食後食べた。焼肉を食べた後じゃなくても、すごく美味しかった。
その結果、5㎏太った。

たこ焼き屋のおばちゃん…貴女の代わりに僕は人生でピークの体重になっていたよ…。

その後、食べても食べても減らない黒蜜、増え続ける体重、牛角アイスへの飽き、やり場のない後悔、そんな負のカルテットが不協和音を奏で切った時、僕は大量の黒蜜を実家に送った。着払いで送った。後から親に怒られた。

…という話を牛角で牛角アイスを頼むとき、必ず一緒に行った人に話したくなる。

大学、何のサークルにも何のバイトにも行ってなかったけれど、そんな些細な出来事が最高に楽しかったのだと最近分かる。そんな出来事を今こうして話すのも楽しい。大学時代のあの頃から遠い所に来た今、やっと気づくのだ。まあ、今は今でそれなりに楽しいのだけど。

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