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【#00】東海道を温故知新する旅に出よう。

しばしば「旅に目的なんて要らない」と言われるもんですが、確かに、旅の目的は、旅に出発した時点で達成しているという見方も一理あります。むしろ、その考え方は旅慣れた旅の玄人が出しそうな結論でかっこよささえ感じられます。

しかし、またひとつ大きな旅に出ようとしている自分に、今必要なのは、その旅を正当化し、最後まで楽しみ切るだけの目的と、それを文字に起こすことで頭の中を整理することです。別に大旅行家になるつもりはありませんが、今一度考えを整理したいのです。

なかなか本題に入りませんね。そろそろ今回の旅の趣旨を話しましょう。

今回の旅では、自転車で東京から京都を移動します。移動自体が旅行の楽しみとなった人の末路です。説明しなければいけないことが幾つもありそうですが、まずは旅の目的についてです。この旅の目的は大きく3つあります。

513kmの行程

①今と昔を重ねて浮世絵を考察する。

まずは、温故知新的な観点で旅を楽しみます。言わずと知れた歌川広重の浮世絵作品「東海道五十三次」では、江戸と京都を結ぶ間の五十三の宿駅の様子が生き生きと表現されています。

街道を行く人々の人情溢れた表情が細かく生々しく描かれている浮世絵は、まさに再現不可能な江戸時代の庶民の日常の一瞬を切り取った写真であるのです。つまり今で言えば「snapshot」そのもの。

浮世絵に著作権はありません。

この旅を通して歌川広重が見た光景を探しに行きます。そして、令和の東海道の姿をsnapshotとして記録しようというのです。全ての宿場町で可能な限り浮世絵と同じ視点場から写真を撮影すること。これがこの旅の目標の1つです。

五十三枚の浮世絵には、広重の芸術センスが至る所に現れています。枠からはみ出る富士の高嶺や美しい構図となるように書き加えられた実在しない稜線などは言うまでもなく名作として受け継がれてきた作品たる所以ですし、ストーリー性のある登場人物の表情や動作は、今にも動き出しそうなリアルな街道の様子を伝えてくれます。

原の富士山は常識破りの表現力

その情緒をこの旅を通して、どっぷりと味わいたいのです。

②現代人の技術力と我儘さを感じる。

明治時代になり、宿駅制度が廃止されてからは、鉄道がその輸送の覇権を掌握してきた東京~大阪の移動は、今でこそ2時間半ほどの所要時間が当たり前となっていますが、つい200年前までは何週間もかけて歩いて移動していたのです。

鉄道に限らず、今では立派に整備された国道に加え、東名や新東名などの高速道路が輸送を担っているわけであり、これら交通の発展は、たったのここ200年で大きく姿を変えてきたわけです。

浜名湖を渡る東海道本線

そんな現代の技術革新は凄まじいものですが、これらは山があればトンネルを掘ってしまえばよく、川があれば橋をかければよいという現代人の我儘が実現した発展です。

トンネルの真の有り難みも理解できるだろう。

この高度に発達した土木技術の賜物が連続する街道旅を通じて、当時を生きた人々と似たような苦労を味わい、如何に今この時代を生きている我々が恵まれた環境にいるのかということを思い知ること。これがこの旅の2つ目の狙いです。

③自転車で挑むことで途方に暮れる。

しかし、流石に川を歩いて渡ったり、草履や下駄を履いて毎日何十キロも歩いたりするのは無理があります。そこで、今回移動の手段として選んだ自転車ですが、普段、日常生活の移動手段として利用している乗り物で、はるか遠くまで旅に出る経験は、ワクワクの連続であることが経験上分かっています。

この旅では「ああ、自転車でこんなとこまできてしまった…」と途方に暮れる瞬間が必ず訪れるでしょう。この感情が湧いたときに感じる途方の無さは、好奇心と不安が半分ずつ混ざり合った言葉では言い表せない不思議な感覚に陥ります。

この気持ちはおそらくどの時代を生きた人でも、長旅に出れば必ず感じる感覚ではないでしょうか。自分の足で何里も移動してきた江戸時代の人だって、きっと同じ感覚を覚えたはずです。この途方の無さこそ長旅には付き物であり、この感覚を味わいたいことが旅に出る意味にもなっているのです。

それにこんな無謀な長旅、若いうちにしかできませんからね。きっと。

以上3つのことが、今現時点で考えられる目標です。旅をしながらいろんなことを考えるでしょうが、それはそのときの楽しみです。

体力、寒さ、天気、安全、ルートなどなど、不安な要素はいくつもありますが、最大限防ぐためにできることはする、無理はしないことを何よりも優先して行きます。

無事旅が終了したころに、撮ってきた写真を披露して、その都度考えてきたことを僕なりの視点でお伝えできればなと思います。

出発前の今は、日本橋から三条大橋への長旅が僕の頭の中で構築されている最中です。

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