[小説] oneroom②

夢を見た。

過去にあった出来事の夢。

最近多いなこういうトラウマの夢。

家族から批判される、人と比べられる、友に見捨てられる、何もできなかった。


ふと遠くから誰かが呼ぶ声がした。
かすかに聞こえる声。
その声がだんだん大きくなってふと夢から覚める。

目が覚めた。体は冷や汗でびっしょりだった。

「またうなされてたのか。つくづく過去にとらわれているんだな…」

起こしてくれたのは彼のようだった。
彼はいつもそばにいる、このように皮肉を言ったり執拗に責めたりしてくるのだ。

彼の言葉を無視して洗面台に行き、顔を洗う。
ふと洗面台の鏡を見ると彼がこちらを見てあざ笑っていた。

僕によく似た顔が今日はひどく憎らしく見えた。

部屋に戻り鏡を手にしてもう一度問いかける。

「今日はとても機嫌がよさそうだけど何かあったのかい?」
しばらく鏡の中の顔は怪訝そうにこちらを見ていたが、

「悪夢にうなされている君の顔が面白かっただけさ」
とにやりと笑ってそういった。

僕は少しいら立って鏡を割ろうとするが、

「そんなことして無駄だってわかっているくせに。君がケガするだけだ。」
くすくすと彼は笑った。

そういわれて、しぶしぶ鏡をテーブルに置く。
もう一度鏡を見つめて。

しばらくの沈黙の後彼はこういった。
「じゃあ今日も昨日に引き続き君の過去の話でも聞こうか。」


僕はゆっくりと話し始める

「いつだったかよく覚えていない。

母はひどく厳しい人だった。

機嫌が悪くなると怒鳴っていたし殴られた。
僕は使えなくて役に立たないって。

僕は体が弱く、よく風邪をひいていたが
風邪をひくと決まって母はひどく怒っていたような気がする。

『私のせいにしたいつもり!?具合悪いっていってお母さんの興味を引きたいだけでしょ?うんざりなのよ。もう具合悪いって言わないで!』

その日からだったか僕は体調悪いのを隠すようになった

そしたらいつしか自分がどれぐらい具合が悪くて、どれぐらい体調がいいのかわからなくなった。

健康なのか不健康なのかもわからなくなってしまった。

そしたら何十年かたった最近のことだ。

ついには呼吸の仕方も忘れてしまった。

感情の変化に合わせて息ができなくなっていった。

息ができなくなるとさ、
頭がぼーっとしてきて
手がしびれてきて
歩けなくなって
もうその場から動けなくなってしまうんだ。

それから現在まで
外に出て息苦しくなっていつか倒れてしまわないように
部屋に引きこもって過ごしているってわけさ。」



話を一通り聞いた彼が
不機嫌そうに

「なるほどな。だとしても何もせずに部屋に引きこもっているわけにはいかないと思うのだがね。」

無論その通りではあったのだ。
なにもしないで一日中だらだらと過ごして
何もしないで眠る。
そんな一日しか過ごしてこなかったのだから。

「うるさいな。自分でもわかっているけど何もできないんだ。しょうがないだろ。」
うつむきながらか細い声で答える。

「自分で分かっているのなら行動に移さなきゃな。何もできないお前に価値なんてない。」

彼の言葉に少し耳をふさぎたくなる。

続けて彼は言った。

「お前は悔しくないのかよ。」
「過去にひどい仕打ちをしてきたやつらに仕返ししたいと、一泡吹かせてやりたいと思わないのか。」

「それは…もちろんしたいさでも無力な僕には何もできないよ。」
涙を浮かべながら答える。

「俺が力を貸してやる。お前の過去にひどい仕打ちをしてきたやつらにお前と同じくらいの不幸を味わわせてやるんだ。」

彼がそう言って手を差し伸べてくれた時、

彼と僕との奇妙な復讐計画が始まったのであった。



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