甘い煙とお酒と別れと

シーシャが好きだ。お金に余裕があって心に余裕が無い時は特に吸いたくなって、夕方4時頃からいつものチェーン店に入る。フレーバーは日によってまちまちで、キャラメルみたいに甘いのもあればミントを混ぜてスッキリさせることもあるし、パンラズナで異国を味わうこともある。

そんなシーシャを吸ってみたいと、彼氏が言った。夜9時の渋谷。1軒目は250円均一のバーに行って、程々に相手は酔っていた。私は量が足りなくて、実はあんまり酔っていなかった。
いいよ、と答えてセンター街を引き返した。絡められる腕が、ちょっと気持ち悪く感じてしまった。

エレベーターの扉が開くとシーシャの香りがふんわりと私を包んだ。甘くて何故か背徳的な煙。2人です、タバコ吸わないです、と先輩面で答えて、入口から少し離れた横並びの席に腰を下ろした。
本当はオススメのミックスにしたかったけれど、生憎の在庫切れでそれに似たストロベリーヨーグルトミックスを選んだ。これまたイキった顔をしていただろう。

彼は確実に酔っているのに、まだお酒を頼んでいた。カッコつけたかったのか、酔いたかったのかは分からないけれど、とにかくこれまで見てきた中で一番飲んでいた。彼を傍目に私は暖かいコーヒーを啜っていた。甘いシーシャには苦いコーヒーが合うだろ、というこれまたカッコつけた矜恃である。泥酔して腕を絡めてくる彼氏に対応しながら、考え事をしていた。書いている時になって我ながら最悪だなぁと思うんだけれど、今その状況になっても同じ対応をするだろうから、早く別れた方がいい。

シーシャが運ばれてきて、とりあえず1度吸ってみせた。いい組み合わせにしたなぁと自画自賛して、「練習しな〜?」と言いながらホースを相手に渡した。彼氏がシーシャ初心者でよかったと思う。練習してる時は私が考え事できたし。「どう?」ときいたら、煙が甘い香りするねと惚けた顔で言っていた。確実に酔っている。

私がお酒を頼まなかったのは、お酒の力での絡みが嫌いだからだ。自分が酔っているのは好きじゃない。だって私がお酒を飲むのは現実逃避をしたい時と、飲み会でキャラを変えたい時だけだから。彼氏を信頼していないということでもあるんだろう。なんで早く別れないの?と聞かれそうだけれど、私もよく分からない。私から告ったのに、見る目がなかったね、と自分の盲目っぷりから目を背けたいのかもしれない。まあ年明けには別れているだろうけど。

私の気持ちも煙に巻いて、シーシャを吸っていた時の話でした。この文章はお酒を飲みながら書いたもの、ということを最後に記して、おしまい。

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