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これが現実・新装版 墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便

日本最大の航空事故である日航ジャンボ123便墜落事故に置いて、その遺体検死に当たった警察官の方の回顧録。警察・医師会・歯科医・看護師の回収された遺体の身元特定とその処理作業の想像を絶する現場をリアルに描き切っている人間の極限の作業に纏わるお話。

次々に運ばれてくる遺体に対して、指紋・歯型・血液型・着衣等の装飾品から個別識別していく様は文字だけでも壮絶さが伝わってくる。丁寧な仕事というか欠損や炭化が著しい遺体に対して断定できるまで丁寧に処理を施していく様を明確に書き記してくれる。

腐臭に対する免疫のあるなしの特徴や、エクストリームに検死を続けるが故に全員精神が疲弊していく様など、前代未聞の状況下で起こり得る異常なあるあるを全て明確に描き続けており、やはり何か意思を統一された集団は狂気的であるが最上の施しを達成しようと努力する姿に思わず胸打たれてしまう。

現場の懸命な作業であってもやはり遺族からしたら仄暗いぐらいの感情が爆発し、やり場のない怒りをぶつけるシーンも多数でここら辺のどちらの気持ちも汲み止めれるが仕方ないあの感覚は本書でないと堪能できないであろう。

後半からは警察や看護師たちが環境に適応していき、歯科的な能力が伝搬していく強いチームになっていく様は極限ながら不覚にも面白いと感じてしまった。やはり人間は一つの理念を暗黙知の上に共有し、自己の犠牲をいとまず職務に宣誓して行動していく様は、読んでてそのチームの一員になった気分でドライブしていく読書体験となる。

123便事件については色々と陰謀論的なニュアンスの異説が多数存在するが、そう言ったゴシップ根性を張り巡らす前に、本書をぜひ読んで欲しいと思う。リアルに人間が多数協力して高い制度で前代未聞の状況下にて素晴らしいオペレーションが行われていたという事実が確かにあるのだ。まずはこの現実を受け入れた上でそういった類いのものは履修すべきである。

文章だけでその異様な光景を描写できるという点でこの本の意義は大きいし、こういう事が現実に発生しているという事実はもう少しみんな意識した方がいい。世の中綺麗事では済まされない後処理というのが確実に存在するのである。過去の事件やゴシップ的探究の前に、この真実の姿是非刮目してから、より深く事故について触れ合っていくべきである。

坂本九の「上を向いて歩こう」を仮初の休憩時間で芝生の上で何の気無しに歌っちゃうシーンは現実だからこそ成せる描写だなと個人的に食いまくった。

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