見出し画像

国策捜査文学の近年のパイオニア・国家の罠

国策捜査ものにハマり続けている。特捜部の手掛ける対象者あるいは周辺人物を勾留して準備した見立てストーリーを吐かせて懲らしめるというシンプルなものであるが、今回の著者は外務省のインテリジェンスということで検察官との密室バトルもなかなか洒落の効いたやりとりで進んでいくのが魅力的。筆者のロシア周辺との交流や情報を取るという仕事、「国益」という一つの価値観に向かって進む姿も市井の人々には珍しくて面白い。

佐藤優氏と言えば本屋でめちゃくちゃ帯の写真が忘れらねない何か摩訶不思議な存在であったが(外務省のラスプーチンってなんやねん)、このデビュー作は正直おもろ過ぎてあんだけ本屋を席巻する意味もわかってしまう。こういう面白い立場で本に書けそうな面白い事をしている官僚とかめちゃくちゃいるんだろなと思う。省庁内部の権力闘争や大臣というトリックスターの存在で全てが掻き乱れていくのは外から見るとだいぶ面白い。

結局は社会的影響度のデカい人物を勾留して、世論を締めるというやり方はまあ国家ヤクザ的で、捕まった方は「運が悪い」ぐらいの認識で居ないといけないある程度社会インパクトさえ見せればいいという、意義のあるお仕事なんだろなと思う。今回の場合は検察官とかなり仲良くなって取り調べタイムになっているので、プロセキューターたちの本音というか行動原理の一旦に触れることができるのが非常に面白い。特に政治絡みだとそれを望む対抗勢力の存在が非常に気になるし、検査特捜部も独自の正義理念のみで動いているとは思えない。こうなることで得する存在というのがちゃんと居るんだと思うとこの世界の魑魅魍魎っぷりは背筋が凍る。

今回のパー券問題もそうなんだけど、特捜部とメディアの連携の見事さは毎回凄いなと思う。ダンボールを抱えて捜査員たちが突入していく姿を各社メディアが待ち構えているというシチュエーションは冷静に考えれば茶番コント感凄いが、ベタ的古典として受け入れて行かなければならない。「週刊誌に書いてあったから動く」みたいな姿勢や「先に検察側からマスコミリークして外堀埋める」みたいな手法は持ちつ持たれつ村の浄化作用としてはやや中世的である。

検察側のステートメントも非常に気になるし、この特捜部という存在の内部事情や実態についてどんどん気になっていく。いわゆる正義マンたちの行動原理や事件が作られていく過程というのはとても興味深い組織として理解していきたい。

この記事が参加している募集

ノンフィクションが好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?