見出し画像

断念?それとも完成?10年以上も造船所内に放置された北朝鮮の新型ミサイル艇の動き

亜覧澄視、小泉悠(@OKB1917


はじめに

北朝鮮の海軍と言えば、潜水艦や旧式の小型艇というイメージを抱く方が多いと思われますが、以外にも北朝鮮は2000年以降から新型ミサイル艇やコルベット(注:ミサイル艇以上フリゲート未満の戦闘艦)などをスローペースで建造してきました。
今回は北朝鮮で10年以上前に建造が始まるも、最近になって依然として完成していないことが判明したミサイル艇を解説していきます。

北朝鮮の新型ミサイル艇とは

北朝鮮が2000年以降に建造したミサイル艇は大きく分類すると、
①40メートル級ミサイル艇、②ノンオ級高速ミサイル艇、③ヘサム級高速ミサイル艇の3種類があります。
今回は③に関連すると思しきミサイル艇を紹介するため、残り2種類は画像のみでの紹介とさせていただきます。

ノンオ級は双胴船型の表面効果船で、4隻が存在(ただし形状が微妙に異なる) Image ©️ 2023 Maxar Technologies
40メートル級ミサイル艇は金正恩政権下で新たに建造されたもので、日本海側に1隻のみ配備されている(画像ではミサイルを搭載せず)Image ©️ 2023 Maxar Technologies

ヘサム級高速ミサイル艇とは

金星 -3型艦対艦ミサイルを発射するヘサム級高速ミサイル艇(画像は「ヘサムA」)©労働新聞

 ヘサム級は2000年代後半に登場した新型高速ミサイル艇であり、ノンオ級のステルス版といえるものです。この艦には2015年2月に実施された金星-3艦対艦ミサイル発射のプラットホームとして公開された「A」とやや大型化した「B」の2種類が存在します。

 各艦は各1隻のみの建造で共に日本海側の文川基地に配備されていますが、今回取り上げるB型に酷似する艦が黄海側の南浦で建造中です。各艦に共通する点としてはノンオ級には装備されなかった14.5ミリ多銃身機関砲が数基装備されているなど近接戦闘も考慮した設計になっていることや、どちらも高度な対空・対水上レーダーやFCSレーダーを装備していないという弱点が挙げられます。

 A型は2009年には既に軍に配備されており、対艦ミサイルは水平に搭載されているものの、発射時には斜めに持ち上がる機構を備えています。ちなみに、艦橋後部の上にはAK-230改及び近距離対空ミサイルシステム用の遠隔制御盤がむき出しで設置されているなど防御面での欠陥が散見されます。一見するとステルス化を意識しているようですがマストが鉄骨状の構造であるため、性能を半減させているデメリットもあり全体的に中途半端なものに仕上がっているのも特徴です。

 B型はA型より火力面とステルス製を向上させた発展型で、全体的なシルエットからノルウェーのシェル級ミサイルに酷似しています。特徴としては、①全長を5メートル延長(A型は35メートル)、②主砲を76ミリ砲(自動)に換装、③ステルス化したマストの搭載、④対艦ミサイルを船内に格納、⑤艦橋の大型化、⑥14.5ミリ多銃身機関砲の数を減らし、近距離対空ミサイルシステムを増強している...等が挙げられます。
 A型の欠点を踏まえて遠隔制御盤の位置を変更してシールドで覆ったり、ミサイルの格納など船体のステルス化などの改善を試みた形跡はあるののの、非ステルス性の装備を多く搭載しているためにステルス性が台無しになっているように思われます。この艦は2016年秋頃には日本海側に配備されたものの、2023年2月時点までに特異な動きを見ることはできません。

 A型の武装:AK-230改多銃身機関砲×2、近距離対空ミサイルシステム×1、金星-3型艦対艦ミサイル×4~8、14.5ミリ多銃身機関砲×4、電子兵装(古野またはコーデン製航海レーダー×2、チャフ発射機×2等)

 B型の武装:76ミリ砲(自動)×1、AK-230改多銃身機関砲×1、近距離対空ミサイルシステム×2、金星-3型艦対艦ミサイル×4~8、14.5ミリ多銃身機関砲×2、電子兵装(A型と同一)

ヘサムA型(右)とヘサムB型(左) Image ©️ 2023 Maxar Technologies

今回取り上げるミサイル艇とその状況

 2012年から黄海側の南浦造船地帯の一角で建造が開始されていることが確認されたヘサム級と同型と思しきものですが、概ねB型に酷似しているものの、若干の形状が異なる上に全長も5メートルほど長くなっています(便宜上「C」とする)。建造途中までは造船所が露天の状態だったたことから、その状況を随時確認することができましたが、2014年に新造の屋根で覆われてしまったため建造の進捗状況がわからなくなってしまったという経緯があります。それでも、時折艦首が見える衛星画像があることから依然とし未完成である状況だけは確認できていました。

南浦は平壌の南西側に位置する ©Google Earth
ヘサムCの建造場所(赤矢印)は通常海軍艦艇が建造・停泊している場所(橙色の円内)から離れた場所にあるのが特徴 ©Google Earth
2012年10月:建造当初のヘサムC(茶色の物体) ©Google Earth
2014年8月:ヘサムC型の船体がおおむね完成に近づくと共に造船所の横に壁ができている  ©Google Earth 
2014年10月:造船所が屋根で覆われたため、ヘサムC型の様子が見えなくなった ©Google Earth
2020年10月:造船所の南半分が外れているが、この年夏に連続して襲来した台風で被害を受けて撤去された可能性がある  ©Google Earth
2021年10月:造船所の北端からヘサムC型の艦首がはみ出ている状態がわかる Image ©️ 2023 Maxar Technologies

ヘサムCの現況

 こうして建造から10年経過したにもかかわらず進水さえ確認できていなかったヘサムCですが、2022年10月に造船所から移動したことが確認されました。これが進水準備に伴うものなのかは不明です。
 ただし、2018年に場所不明の造船所から進水したノンオ級発展型(上記画像の船)はいまだに艤装さえ受けずに放置されている状況を踏まえると、その未来は決して明るいものとはいえないようです(軍事的な優先度が低いのか技術的資金的な問題に直面しているのかのどちらかでしょう)。
 一般的に北朝鮮海軍艦艇の建造ペースは極めて遅いため、このミサイル艇については。①就役に向けた作業が進むか②放置状態となるか、今後もその動向に注目していきたいと思います。

2022年11月:ヘサムCは造船所の南西側の岸壁に移動した Image ©️ 2023 Maxar Technologies
造船所の屋根は撤去や増設されるなど変化が見られる Image ©️ 2023 Maxar Technologies
ヘサムCの拡大画像:浮きドックに乗せられている上に偽装網で覆われているため艤装が施されたか不明 Image ©️ 2023 Maxar Technologies

追記

 2023年2月4日の衛星画像を確認したところ、船体上部の大半がカバーで覆われているものの、武装などが存在する可能性を示唆する状況が確認できました。

ある程度の艤装が施されている可能性がある Image ©️ 2023 Maxar Technologies

参考資料

朝鮮民主主義人民共和国の陸海空軍

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?