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第28話 ママが二人の子育てを失敗した話

「タケシ!学校はどうなの?」

しょうちゃんがた―くんに呼び掛ける。

大学生活のことを聞いている。

自分ももうすぐ大学生になるからだね。


「た―くんはお兄ちゃんなんだから、呼び捨てはダメだね。」

ママがた―くんの返事を待たずに、しょうちゃんをたしなめる。

しょうちゃんはた―くんを「タケシ」と呼んでいるからだ。


まあ、返事を待ってもた―くんは答えないだろうけどね。



「かーちゃんが悪いんだよ。」

た―くんはペットボトルのお茶を飲み込んで、口を開く。

明らかに唐突だ。

例のごとく、しょうちゃんの問いには答えていない。



「かーちゃんが、しょうにオレの呼び方をちゃんと教えなかったから悪いんでしょ。」

「んー。それはね・・」

ママはた―くんの指摘に首を傾けて、話を続けた。


それは、ママの子育て失敗談。

しょうちゃんに、た―くんを「お兄ちゃん」と呼ばせそこなった理由。

た―くんが二歳の時、しょうちゃんは生まれた。

その時、た―くんは妹ができたのがうれしい半面、寂しい思いをしたんだ。


今までた―くんが使っていたベッド。

大好きだったおもちゃもみんな、今ではしょうちゃんのモノだ。

大好きな母ちゃんは、しょうちゃんにおっぱいをあげなければならないし・・。


ママはそんなたーくんの気もちが良くわかっったんだ。


でもね。

しょうちゃんが生まれても、た―くんはママの大事な子どもだというのに変わりはない。

それでママは、た―くんを呼ぶときに「お兄ちゃん」という言葉を使わなかったんだって。

しょうちゃんのお兄ちゃんである前に、ママの子だからね。

そんな思いを込めてなんだよ。


だけどそれが裏目に出たんだ。

家族や友だちが、た―くんを「タケシ」と呼ぶように、しょうちゃんまで、「タケシ」と呼ぶようになっちゃったんだよね。


それをた―くんは、ママが悪いと言っている。


確かにね。

ママはそこのところを、しょうちゃんにしっかり教えなければならなかったんだよね。


ママ自身はそれを反省しているけど、しょうちゃんは、相変わらずお兄ちゃんを呼び捨てだ。


しょうちゃんは女の子だけど元気がいい。

大きな声で話すし、笑う声も大きい。

反対にた―くんは、静かでおとなしい。

っていうか、まず話すことをしない。


うなり声をあげるか、最低の単語しか口にしないんだ。

ホントに人間なのかと思えるくらい・・。


ママの話し方は普通だと思う。

だからた―くんは父ちゃんに似たのかも。

その、父ちゃんっていう人は、ヤギみたいにおとなしい人なのかもしれないね。


しょうちゃんは、ドングリを食べるリスみたいに、さっきからずーっと口をモグモグさせている。

たーくんが持ってきたお菓子の他に、ポテチをどんどん食べてるんだよね。


そのポテチ。

ボクにも時々くれるから、マ、いいんだけど。


「しょうちゃんはひとり暮らしになったら、ご飯作れるの?」

ママが、しょうちゃんの方に寄せられたポテチに手を伸ばすため、腰を浮かせた姿勢でしょうちゃんに聞く。



「大丈夫だよー」

元気なしょうちゃんの答えにママはそれ以上、返すことはなかった。


ボクはしょうちゃんが、ママのお手伝いをしたり、ご飯を作るのを見たことがない。


ママはしょうちゃんの、裏付けのない返事を聞きながら、手に取ったポテチを口に入れた。

そして、手に付いたポテチのパウダーをパンパンと落とした。


首を少し傾けて一度瞬きをしてから、た―くんを見る。

た―くんは何も言わなかっけど、ママと目が合うと口角をくいっと上げて応えた。


「ムリだよね・・・。」

二人の頭の上にそんな吹き出しが表れて、そして消えていった。











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