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旅の準備

 旅の準備が苦手である。自分では得意と思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
 出来るだけ身軽にという理想を掲げているのに、なぜか行く前から荷物がいっぱいである。あれがなくては心配。これがなくては不安。何かあった時のために。そんな気持ちだけが先立ってスーツケースは出発の時からすでにパンパンに膨れ上がっている。
 今回のヘルシンキ旅行もそうだ。真冬のヘルシンキ。雪国で生まれ育ったわけでもない僕はとにかく寒さだけが心配で、事前に沢山の防寒グッズを用意していた。雪の上を歩くためのスノーブーツ。身体を温めるためのヒートテック。ここまでは良かった。「空港ではスノーブーツは暑そうだな、スニーカーも持って行くか」「ヒートテックはこの枚数で足りるかな。もう一枚、いや二枚」こうなると取り返しがつかない。結果、スーツケースはいつも通りの有り様である。
 これだけ念には念を入れて荷物を用意したからと言って全てが万全なわけではない。今度は家を出る時に「心配くん」が顔を見せる。ガスの元栓は大丈夫だったっけ、忘れ物はないよな。窓の鍵は間違いなく閉めたよな。何度も何度も部屋を確認して部屋を出た。そして空港へ向かう電車に乗ってから気づいた。

 年賀状!

 そう、投函し忘れたのである。今年は年末年始をヘルシンキで過ごすため、もう取り返しがつかない。年明けのヘルシンキで、「みんな今頃年賀状読んでるかなあ」なんて、思いを馳せようと思っていたのに。
 忘れ物がないように必要以上に荷物を詰め込み、念には念を入れて部屋を確認し、「行ってきます!」と玄関で頭を下げて家を出てきたにも関わらず、大事なことを忘れていた。今ごろ輪ゴムで縛られた年賀状たちは机の上にいる。彼らも年末年始を同じ場所で過ごすことになるとは思ってもみなかっただろう。自分のアホさに呆れながら、申し訳ない思いも引きずりながら、僕は無事空港に到着した。
 何はともあれ出発の時間。旅の準備が苦手だろうと楽しく帰ってくることができれば全てがオールライト!今回のヘルシンキ旅行が楽しい旅になるように、そう祈りながらまずは大阪から羽田空港へ飛ぶ。

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