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未来の建設業を考える:建設論評「水ビジネスの可能性」(2012年3月21日)

中国における深刻な水不足

 中国政府における重要な政策課題が何であるか、ご存知だろうか。軍備拡張、体制維持、物価対策、それに並んで重要な課題が、国内における水不足への対応だ。
 特に、都市部における水不足は深刻で、中でも北京などの北部、西部では、もともと水資源が少ないことに加え、都市の急速な発展に伴い、都市人口の約1億人が満足な水を得られていない状況と聞く。
 北京市では、水資源保護を理由にゴルフ場や水資源を利用する工場などの新規開設を禁止するなど、かなり深刻な状況となっている。また、農村部でも、水不足のために耕作できない土地が増え続けているとともに、全土で2億人以上が汚染された水を飲んでいるとも言われている。

 中国政府としても、2015年までに1.8兆元(約18兆円)の具体的な投資計画を既に定め、今後10年間で、4兆元(約48兆円)を水利施設設備に投資する計画を推進しており、世界最大の水市場になることは確実だ。
 中国にとっては、まさに水が現代版の石油になりつつあるのが、現状である。

水3大メジャーと日本の対応

これを見据えて、「水3大メジャー」といわれるスエズ、ヴェオリア、テムズ・ウォーターは、すでに1兆円に及ぶ投資を中国に行い、中国全土の約10の給水能力を持つ設備を現地企業とともに設置している。
 一方、日本の水ビジネス業界も、丸紅が安徽省、江蘇省、湖南省など17ヶ所で下水処理事業を手がける企業に30%出資したり、日立が上・下水道施設のEPC(設計・調達・建設)から運営・管理などの一括受注を目指し、成都市の企業と提携したりするなど、商社を中心に設備投資に向けた環境を急速に整備しつつある。
 また、メーカーの東レや三菱レイヨン、クボタといった企業が水処理膜などの製造や販売のための現地合弁企業を設立しており、部材・部品提供の分野でも、中国市場での成長が大いに期待できる。

「和製水メジャー」の成立が望まれる

 さらに興味深いのは、日本の自治体が設計から運営まで一貫して実施してきた実績、たとえば日本の漏水率が平均7%であるのに対し、ロンドンは40%の漏水率であったり、岐阜市の汚泥処理技術を中国が取り入れようとするなど、自治体の水関連の技術力の高さを背景に、中国の水ビジネスに進出しようといている点である。
 また、この進出は、単に自治体にとっての新たな収益源となるだけでなく、日本の老朽化しつつある上下水道の再整備に投資することで、日本のためにも有益なビジネスへと変貌することも期待されている。
 その意味で、自治体を中心とした「和製水メジャー」の成立が望まれることだ。

プロジェクトマネジメント体制を構築

 ただし、ここでも世界の水メジャー企業が、わずか数週間で中国企業との合弁会社設立に合意したり、1000億円単位の投資を速やかに決定するなど、技術に加えてファイナンスも含めた強力なプロジェクトマネジメント体制を構築している。
 それに対して、日本の水メジャーが明確なプロジェクトマネジメント体制を構築せずに望めば、単に要素技術やノウハウだけを輸出するもので終わってしまうかもしれない。
 ぜひとも、プロジェクトマネジメントノウハウを有するゼネコンやプラント企業も加わり、権限のあるプロジェクトマネジャーを設置し、真の「和製水メジャー」を構築してほしいものだ。
 世界の水市場において、コスト競争ではない真の技術競争・能力競争に打ち勝つためにも。

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