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未来の建設業を考える:建設論評「1万円札が消える日」(2021年8月10日)

渋沢栄一

 大河ドラマ「青天を衝け」で注目が集まる「渋沢栄一」。2024年には、新紙幣に登場する予定だ。
 しかし、世界的にはマネーロンダリング(資金洗浄)対策のため、高額紙幣をなくす方向へと大きく舵が切られている。米国でも100ドル紙幣を廃止する動きがあるそうだ。全世界で流通する100ドル紙幣は164億枚。多くが海外で流通している。日本の1万円札でも100億枚もあり、かなりの現金が市場に埋もれている。
 マネーロンダリング対策を進める国際機関「FATF(金融活動作業部会)」では、昨年から日本の金融機関を審査しているが、1万円札の扱いを相当、問題視している。

いつまでリアル紙幣が必要なのか

 日本の新紙幣の発行も、実は、偽造防止対策の強化のため、定期的にデザインを変える必要があることから生じているのだが、いつまでリアル紙幣が必要なのか。ITを活用してブロックチェーン等で管理できるようになれば、紙幣がデジタル通貨に置き換わる日も近いかもしれない。
 しかも、通貨の流通にかかるコストは輸送や保管、ATM運営、関連の人件費を加えると1兆6千億円にもなるという。コスト削減のため民間金融機関が早期のデジタル化を進めるなど、ますますリアル紙幣がいらない世界がすぐにでも来そうな予感を抱く。

あらゆる分野でデジタル化が進む

 コロナ禍ではあるが、紙幣だけでなく、あらゆる分野でデジタル化が進む。
 ITを活用して、多くのワーカーがリモート会議やオフィス以外で仕事をすることが、いまやあたりまえになった。ある設計事務所の経営者は、海外のプロジェクトでも、現地に行かなくとも発注者とリモート会議で打合せができ、現地の意匠担当者にも具体的な指示が可能、自身の移動時間が削減できただけでなく、社員も含めて出張に伴うコストの大幅な削減に成功したそうだ。それゆえ、コロナ後も引き続き、設計作業におけるIT活用はさらに進む、と指摘していた。

小学生同士がリモートでチャット

 また話題は異なるが、小学生の子供が、学校から支給されたコンピューターを使って、学校の委員会活動そのものを、小学生同士がリモートでチャットをしながら意思決定しているのを見たが、これはまさしく人と人の関わり、ものごとを決定する仕組みを根底から変える可能性を感じた。

バーチャルな空間での議論や意思決定が可能な時代

 設計事務所や小学生の事例を見ても、さまざまな意思決定が時空を超えて容易に行える時代になってきている。われわれはこのチャンスを活かして、国際的なプロジェクトへもっと積極的に参加すべきではないか。日本の優れたマネジメント能力、管理能力、調整能力を活かして、発注者はドバイ、建設場所はアメリカ、プロジェクトマネジャーと設計者は東京、エンジニアはロンドンといった国際プロジェクトが、まさにITの進化でリアルに実現可能だ。
 リアルな世界の構築のために、まさにバーチャルな空間での議論や意思決定が可能な時代だ。
 日本の優れた建設関係のノウハウを、国際市場で展開し、リアルな世界をより豊かにすることを考えるべきではないか。
 もしかすると、早々に、渋沢の新1万円札は消え、津田梅子の五千円札と北里柴三郎の千円札だけが残るかもしれない。しかし、日本最初の銀行を創業した実業家「渋沢栄一」は、むしろ時代に合致したデジタル化、IT化を天国で喜ぶのではなかろうか。時代の大きな変化に柔軟に対応し、成功した渋沢だから。

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