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未来の建設業を考える:建設論評「マルチ・エッセンシャル・ワーカー」(2021年8月9日)

必要な労働力が不足

 少子高齢化が進む日本。労働力が不足するなか、特に建設業界で働く就業者のうち55歳以上が35%を占め、一方で、若年層が12%弱と新規就業者が少なく、必要な労働力が不足する事態に直面している。
 それゆえ、職人の「多能工化」により、この不足へ対処しようとしている。

建設業における多能工推進ハンドブック(2019年)

 多能工は、ひとつの仕事にとどまらず、仕事の境界を越えて働くスーパーな職人だ。塗装工と防水工を兼務させたり、耐火被覆工とボード工、ALC工をひとりでできるようにしたりするなど、多くの事例が建設業振興基金の「建設業における多能工推進ハンドブック(2019年)」に掲載されている。
 多能工同様、ひとつのリソースを有効に活用する取組は、「施設」でも起こっている。

空いたスペースの活用

 公共施設でも、少子高齢化で空いた小学校をリニューアルし、スタートアップ企業に貸し出したり、 保育所と老人ホームを複合化したりするなどしている。政府のデジタル化やオンライン化が進むなかで、役所に行かなくても済む用事がこれから増えるはず。ぜひとも、その空いたスペースを無駄にすることなく、ほかの用途で活用するなどの改修を積極的に進めてほしいものだ。
 銀行でも、デジタル化の普及により、店舗の数を減らしたり縮小したりするなどし、余剰スペースをシェアオフィスや塾として外部賃貸したり、飲食店として活用するなど、複数用途での活用が進む。
 近所のモダンな焼鳥屋さんも、昼と夜の間の空いている時間に、古着屋として開店し、飲食と衣料品という全く違う素材がやりとりできるよう、施設を活用しているほどだ。
 まさに、職人も施設もマルチな時代が来ている。
 それゆえ、施設建設においても、施設利用の目的、ニーズが大きく変化していることをとらえ、最初から多様なニーズに対応できるようなフレキシビリティを持った設計、マルチな使い方ができる施設建設が求められるのではないか。

エッセンシャル・ワーカー

 一方で、新型コロナ対策で注目が集まる「エッセンシャル・ワーカー」。エッセンシャル・ワーカーとは、おもに、新型コロナ禍でも人々のために生活サービスを提供する「医療従事者」、「スーパー・コンビニ・薬局店員」、「介護福祉士・保育士」などをさす。
 当然ながら、衣食住の「住」を担う建設現場の職人も、監督も、建設業従事者は本来、みんな「エッセンシャル・ワーカー」だ。コロナだからと言って、現場作業を在宅勤務への切り替えることはできないし、身の危険を感じながらも、必要な建物や施設の建設を担っている。
 さらに、災害時には自分の身の危険も顧みずかけつけるし、災害後の必要な仮設住宅の提供など、人々にとってなくてはならない職業だ。
現代は、みな自分の境界の中でしか仕事をしないし、他の仕事を思いやることを忘れている。

マルチ・エッセンシャル・ワーカー

 英語で「多能工」を「マルチ・スキルド・ワーカー」と言うが、このような自己中心的な社会においても、他の仕事を思いやる心を持つ多能工な職人に敬意を表して、「マルチ・エッセンシャル・ワーカー」と呼びたいものだ。

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