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未来の建設業を考える:建設論評「リアルな場のありよう」(2021年6月22日)

車の鍵もデジタル化

 財布にポイントカードやクレジットカード、キャッシュカード、保険証、免許証など、あふれるほどカードを持っている人が多い。
 ところが、コロナ後は、すべて携帯電話ひとつで対応可能な社会が始まりそうだ。
 先般、アップルコンピューターの開発者向け年次総会「WWDC 2021」が開催された。
 アップルはこのイベントで、iPhone向けの次世代OSのウォレット機能において、米国の運転免許証などの身分証明書として使えるようにできることを発表した。
 車の鍵もデジタル化され、スマートフォンに登録し、ポケットから携帯端末を出さなくても、近づくだけでロックを解除できるようになるとも発表。
 さらに、家や会社、ホテルの鍵もデジタル化され、家の鍵をiPhoneに登録すれば、家族間で簡単に鍵を受け渡しでき、ハイアットホテルの鍵も事前に携帯電話へ送付され、非対面でチェックインできるし、民泊での活用もできる。会社のIDカードも、クレジットカード同様、iPhoneに置き換え可能。少なくとも、みなさんが使っている財布に入っているカードは、ほぼいらなくなるはず
 どこかの国でリアルな「マイナンバーカード」を全国民に取得促進している世界とは、一歩も二歩も異なり、かなり進んだ世界だ。

携帯電話が財布や鍵の代わりになる

 携帯電話が財布や鍵の代わりになるように、物理的な空間についても、バーチャル化が進む。
 マイクロソフトのTeamsで「トゥギャザーモード」を選択すると、あたかも全員が同じ空間で過ごしているようなリモート会議が生まれている。発言している人に視線を向けると、画面上の自分もその人を見ているように表示され、ほかの参加者の反応もわかる。アップルの次世代OSでも、それぞれが自宅にいながら、「シェアプレイ」と称して、同時に、みんなで同じ映画を楽しむことも、ゲームをすることもできる。
 小学生の間では、学校というリアルな場所を超えて、チャットで学校の委員会活動をやるのがあたりまえになっているそうだ。

物理的な「施設」は本当に必要なのか

 こうなると物理的な「施設」は本当に必要なのか。
 小中高生はそれでも学校という施設へ通学しているが、大学生のほとんどはこの1年、リモート授業で過ごした。都内の大学に入学しても、地方の家で授業を受ける人も多い。
 従来の教育は、「大学に行くこと」と「教育を受けること」は「ひとつ」であったが、コロナを契機に、多くの大学生がカフェでも、家でも、場所とは関係なく教育を受けることが可能となった。いまやデジタルを駆使して、わざわざ海外留学しなくても、スタンフォード大学の授業さえ受けることができる。
 大学は、本来、学校という「場所」ではなく、「学ぶ」という行為が重要なのだ。
 コロナ後は、大学という場所は教育だけのものではなく、研究を核としたベンチャー企業の集積場所や先進的オフィス拠点として、「学」に加え、本来の「知のふれあい」によるイノベーションを生み出す場として創造するような時代も来るのではないか。
「新しい酒は新しい革袋に盛れ」と言われるが、財布や大学施設もITで大きく変わる時代、コロナ後を見据えて、イノベーションを生む創造性の高い新たな建築とは何か、いま、まさにその解が求められている。

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