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映画『メッセージ』を観るべき理由

正直初見だと全て理解しきれず、でもとにかく最高だったなと言う感覚だけ残っていたので、もう一度噛みしめたら最高すぎる映画だった。

これから「好きな映画監督は?」と聞かれたら
「デビット・フィンチャーとヴィルヌーヴです。」と答えようと思う。

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予告動画を見ればというか、ポスタービジュアルを見れば、自動的にこの映画は「SF」というジャンルに区分けされ、「SF」に前のめりになれないある一定層は観賞動機を失うと思うんだけど、ちょっと待って欲しい。

この映画は宇宙人が出てくるのでもちろんSFではあるんだけど、それと同時に既存のSF映画とは一線を画す革命的な映画だ。

まず、だいたいの映画は宇宙船が襲来してきたら向こうから攻撃してくるか、こちらから先制攻撃を行なう。

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こんな感じの宇宙人総攻撃が定型

とにもかくにも宇宙人は「侵略者」であり、お決まりの勧善懲悪で、人類は頑張って一致団結して宇宙人と戦うわけだ。

だいたいほぼ全ての地球侵略型SF映画は

宇宙船が襲来してきたら向こうから攻撃してくるor こちらから先制攻撃を行なう

上記の2行で説明できるのでは無いだろうか。

だけど天才ヴィルヌーヴにかかれば、そんな定型文通りの物語は紡がれない。

そもそも原作は、中国系アメリカ人作家・テッド・チャンの短篇「あなたの人生の物語」なのだが、この作品自体がSFのプロが選ぶネビュラ賞、日本のSFファンが選ぶ星雲賞、さらには、SFマガジンが選ぶ2014年のオールタイム・ベストSF投票でも第1位を獲得している傑作。

実はこの原作のタイトル「あなたの人生の物語」が、この映画を解釈するに当たってとても重要になると言うことに、”最後に”気付く。

まず突然宇宙船が地球(世界12箇所)に降りたってきて、みんな混乱しちゃうっていう所までは定型。

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こんなの突然現れたら恐怖で震える

で、ここからの人類側の対応がとりあえず自分が今まで見てきた地球侵略型映画とは大きく一線を画すのだが、まずエイミーアダムス演じる主人公の言語学者がコミニュケーションをとろうとする。ここが良い。

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エイミーアダムスの抑制された演技は最高だった

未知との遭遇が実際に起きたらどうするか?
そりゃそうだ、いきなり攻撃するとか野蛮すぎるし、人類には自らを発展させてきた言語があるわけで。

でもこれって実は並大抵のことじゃない。
そもそも宇宙人に「言語」という概念が無いかも知れないし、あったとしても、その宇宙人にとっての「言語」は人類にとっての「言語」ではないかもしれないんだから。

あなたが無人島に行って、今まで見たことのない種族に遭遇して、今まで聞いたことも無い言語で話しかけられたとき、どうやってコミニュケーションをとる?ってことをこの映画は忠実に描くのだ。そんな映画今まであったか?

しかし、当たり前だがここからが大変。
何ヶ月もかけて謎の円形の文字を手らしきところから墨みたいなものを発射して伝達してくるタコ型宇宙人。これを解読する人類。

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で、この過程でエイミーアダムスは気付くわけですね。
彼ら(宇宙人)の文字(言語)らしきものは”円形”である。
つまり、これ何を意味するかと言うと、彼らには現在過去未来の時間の概念が存在しないと。
”円形”ってことは、そこに”始まり・終わり”がないと。

これはどう言うことかと言うと、このブログの文章みたいに「左から右に向かって、上から下に進んでいる」という時間の概念が”円形文字”にはそもそも存在しない。

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このあたりからこの映画は、一気に哲学的空気を帯び始めて難しくなっていきます。

しかし宇宙人たちを目の前にする人間たちが解明しなければならないのは、「じゃあコイツらは一体何しに来たんだ?」ってこと。
その謎を解き明かしていくのがこの映画の大きな縦軸になるわけで。
そしてここからがこの映画の真骨頂。

以降、多少ネタバレになりますが、それくらいの予備知識でこの映画観た方が1回で済むって言う考え方もあるので、読者の方に読む読まないはお任せします。

主人公は時間の概念が無いタコ型生命体と接するうちに、自らも時間の概念が無くなっていきます。
つまり、過去や未来がサブリミナル的に見えてしまうようになります。

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で、そこで主人公は、ある未来の風景を見てしまいます。
その未来では今タコ型生命体と共に向き合っている物理学者が自分のパートナーになっているんですね。

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しかしそれと同時に嫌な(不幸な)自分の未来を見てしまう。
これはぶっちゃけ宇宙人の話と全く関係ない。
あくまでも「個人的な」不幸が訪れてしまう未来を見る。
この辺が初見だと何の話なんだろうって思っちゃう所かもしれない。

で、そんな「個人的な」不幸とはまた別に、彼女が「個人的ではない」”ある未来の風景”を見たことでタコ型生命体が地球に来た目的を理解し、人類を救うことにつながっていくのだが、たぶんストレートに侵略系映画のカタルシスを期待している観賞者は、「なんだよ!これで解決!?」って、不満をあらわにする宇宙人のアッサリとした撤退ぶりなんですよ。

そんな少しイライラしたあなたに思い出して欲しいのが原題である

「あなたの人生の物語」

そう、これは「あなたの人生の物語」なんですよ。
何いってんだ!とそんな声が聞こえてきそうですが宇宙人が去ったこの映画の終盤、エイミーアダムスとジェレミーレナー(「未来」の夫婦)の
2人がある重要な、そして個人的には最もシビれた会話をします。

エイミーは“将来の夫とのある圧倒的に不幸な未来”を観てしまった状態、ジェレミーレナーはそんな未来のことは何も知らない状態でこの会話をしていると言うことを踏まえて読んで下さい。

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エイミー「この先の未来が見えたら、選択を変える?」
ジェレミー「自分の気持ちをもっと相手に伝えるかも」

と、この会話をかわし"不幸なことが起きるとわかっているのに"エイミーは彼と結婚することを「選択」するんですね。

つまり自分が見た不幸な未来を選ぶんです。

しびれますね。
しびれているのは僕だけですか?

もう言っちゃいますけど、タコ型宇宙人が
「3000年後の人類のためにやって来た」
と言っていた目的こそがこれなんですよ。
(と、勝手に解釈して感動してます)

つまり、未来が見えたとしても、そしてその未来が例え不幸だったとしても(あなたを愛するという)選択は変えない。

という、「あなた(エイミー)の人生の物語」だと。

宇宙人と何も関係ないじゃん!っていう原作のタイトルの意味がここでやっとわかるわけで。

そして、この人類の「選択力」(=「愛」)こそが、3000年後も人類が繁栄し続ける大切なことであると。

そんなオシャレな宇宙人未だかつて存在した?
最高かよ。

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